教室
ある朝だった。麻衣がいつものように新聞を広げ、中には盛っている広告を整理していると、「河合体操教室、新規生徒募集中!」という大きな文字が目に入った。麻衣は興奮してパンフレットを手に取り、その内容を熟読した。クラブの活動内容練習スケジュール、指導者の紹介などが詳しく書かれている。麻衣は目を疑ったが、広告の内容は本当だった。体操教室が学校の近くに開かれることになり、新しい生徒を募集しているのだ。麻衣は何度も何度も刻々を読み直した。これはまさに運命の出会いだと感じた。学校の近くで体操教室が開かれるなんて、まさに夢のような話だった。母に気づかれないうちにと、麻衣は急いでその広告を折りたたむと、袂に入れた。
その日の放課後、麻衣は河合体操教室に向かった。学校から近いというのも魅力的だったが、何よりも体操競技への情熱が彼女を駆り立てていた。今日の麻衣の和服は、華やかな朱色の生地のものだ。先生にお逢いするのだから、とっておきの姿にしたい。体操教室は学校のすぐ近くの古いビルの一室に開かれていた。麻衣は緊張と興奮で胸が高鳴りながら、扉を押し開けた。
「…失礼しまーす」
教室の中は、鏡張りの壁に囲まれた広々としたスペースで、幾つかの体操器具が配置されていた。まだ、練習前なのか、誰もいなかった。
「すみませーん、失礼しまーす」
もう一度大きな声で呼んでみた。
すると、扉の奥から女性の声が聞こえてきた。すぐに、若い女性が現れた。黄色いトレーナーに黒井ジャージのパンツの女性だ。髪はボブショートにしている。
「こんにちは!初めての方ですか?」と女性は明るく笑って声をかけてきた。
「はい、初めてなんです。私、麻衣と申します」
と麻衣は緊張しながら答えた。
「麻衣さん、ようこそ体操教室へ!私は河合先生といいます。体操競技に興味があるんですね?」
「はい、最近体操に興味を持っていて…」
麻衣は自分の興味を素直に伝えると、河合先生は喜んで微笑んだ。
「それは素晴らしい!体操競技は美しさと力強さが融合したスポーツです。私も昔、競技選手として活動していたんですよ。まずは奥の部屋に来て頂戴」
麻衣は興味津々で、河合先生の案内に従って奥の部屋に入った。部屋の中には体操選手の写真やトロフィーが飾られていた。麻衣は目を輝かせながら、その光景を見つめた。
「ここは私の思い出のコーナーです。昔の競技会での思い出や、選手たちとの交流が詰まっています」
と、河合先生が説明してくれた。
「あ、この先生の左に映っている選手はエルカードラさんですね。後方屈身2回宙返りで有名な方ですね」
「麻衣さんはよく知っているわね」
「はい、わたし、本や映像でいっぱい勉強したんです!」
麻衣は興奮しながら話した。それから河合先生と麻衣は、様々な体操の話題で盛り上がった。今まで、ずっと人に話していなかった分、麻衣はこんなに体操について語り合えるのは初めてだった。時にポーズをとりながら一生懸命に語る麻衣に、先生も楽しそうに答えていた
「麻衣さん、本当に体操に情熱を持っているんですね」
と河合先生が感心しながら言った。
「はい、本当に大好きです。これからも一生懸命に取り組んでいきたいです」
と麻衣は心からの思いを伝えた。
「ところで麻衣さんは、体操は未経験なようだけど、ほかに何かしているの?」
「はい、私は日本舞踊をしています」と麻衣は答えた。
「日本舞踊もしているのですか?それは素晴らしいですね。だから、今日は和服でいらしたのね」
と河合先生が納得したように言った。
「体操競技と日本舞踊は、どちらも身体の美しさを追求するものですから、相性が良いですよ」と先生は笑顔で続けた。
麻衣はほっとしたように笑みを浮かべながら、教室の中を見渡した。
「この教室で一緒に練習できることがとても楽しみです」
と麻衣は心からの喜びを感じていた。
河合先生も嬉しそうに頷きながら、麻衣に向かって言った。
「麻衣さん、私たちが一緒に頑張りましょう。体操競技で輝く美しさを追求していきましょう」
麻衣は河合先生の手に力強く手を握られ、心が熱くなった。この瞬間から、彼女は体操競技の世界への扉を開き、自分の夢を追い求める旅が始まったのだ。
「ありがとうございます、河合先生!私、本当に頑張ります!」麻衣は感謝の気持ちを込めて言った。