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3.お城の書庫番ウィル

ウィルのことも少し書きました。

【新たに出てきた名前】

ウィリアム・コルテ……ウィルの本名

モナ……マノンの亡くなった祖母でお城の雑用係だった。

 あきらめてマノンが書架に向かうと、ライオネルも椅子から立ちあがる。


「俺もやろう」


 並べばやはり背がすらりと高くて、小柄なマノンは精一杯首を伸ばして彼を見あげた。


「あ、いえ……それにまだあいさつが」


「俺のほうはもう大丈夫。だからきみの仕事を片づけてしまおう」


 大きな手が差しだされるが、さすがにマノンは遠慮した。


「でも、騎士団長様がやることでは」


 けれど彼はマノンの手からサッと雑巾をとりあげ、反対の手で優しく彼女の頭にぽんぽんとふれる。


 その手つきにマノンは、同じように頭をなでてくれたモナの手を思いだした。シワだらけであかぎれていたけれど、優しかった手……彼女はずいぶん前に亡くなってしまったけれど。


 間近で見るアイスブルーの瞳は冷たい色なのに、彼が目を細めると優しく見える。


「騎士団でも宿舎の掃除は自分たちでやる。でないとあっというまに魔窟になるからな」


 そしてその言葉通り、彼はキビキビと動いて、あっというまに掃除を終えてしまったのだった。


「ありがとうございました、ダモス騎士団長」


 マノンが口元を覆っていた布を外し、頭に被っていた三角巾もとって礼を言えば、彼は一瞬だけ目をみはり、ついでさわやかに首を横に振る。


「ライオネルでいい、俺はとっくにきみをマノンと呼んでいる。それにしても……布をとると妖精とは」


「はい?」


「……文才がなくてすまない」


 マノンが首をこてりと傾けて聞きかえすと、困ったような顔で謝ってきた。


「まぁ、顔が見えたところで、服はボロボロですしね」


「いや、そっちの〝お助け〟ではなくて本当に……」


 ライオネルは耳まで赤くしてモゴモゴとつぶやいているが、マノンは地で〝お助け妖精〟を演れるということだ。スカートの裾をちょっとつまんで、言われた通りに呼びかける。


「では、ライオネル様」


「ああ」


 アイスブルーの瞳がうれしそうに細められ、それだけでいかつさがグッとやわらいだ。公務をこなすようになれば、貴婦人たちがどっと押しかけてきそうだ。


(ズバズバ言っても怒らなかったし、むしろ素直に聞いてくれた。気さくな人なんだわ……)





「お疲れさん、こっちの仕事も終わった……と、俺は何かが生まれる瞬間を目撃したのか?」


 腕に巻物や大判の書物をごっそり抱えたウィルが、ひょこっと書庫の奥から顔をだし、マノンは慌ててライオネルの名誉のために答えた。


「何も生まれてません。ライオネル様の手はモナの手みたいだと懐かしく思っていました!」


「モナ?」


 けげんそうなライオネルに、マノンは簡単に説明する。


「私のおばあちゃんです」


「おばあちゃん……」


「はいっ、シワだらけであかぎれだらけだったけど……ふおぉうっ⁉️」


 ショックを受けた顔で固まった騎士団長に、モナの手は優しくて大好きだったと言おうとしたのに、脇から伸びてきた手にグシャグシャと髪を乱されて、マノンはそれどころじゃなくなった。


「何するんですか、ウィル!」


「悪ぃ、あまりにも鈍くさい頭だったんで、つい。振れば回転がよくなるかと」


「振ったって賢くなりませんよ!」


「みたいだな、今わかった」


 冷めた顔でうなずくウィルの横で、ライオネルは自分の手をひっくり返しながら、ぼうぜんと見つめている。


「シワだらけであかぎれ……」


「ライオネル様の手はウィルと大違いですよ」


 ライオネルの手は乱暴なウィルと違い、とっても優しい……というのをマノンは省略した。それでなくとも図書室で大声をだしてしまい、恥ずかしかったのだ。


「あぁ、うん。そうだな……」


 ライオネルはしっくりこない顔で、ウィルの長くて白い手指と、自分のゴツい手を見くらべている。


「ウィルも仕事してたんですか?」


 片づいたばかりの机に持っていた巻物や書物をバサバサと置き、銀髪に紫紺の瞳を持つ王国の書庫番は、心外そうに目を見ひらいた。


「あのね、ここは俺の職場なの。俺がここでやることって言ったら、仕事以外ないわけ」


「俺はダモス将軍が治める北方砦の周辺しか知らないから、国全体の地形や補給路を知りたくて、資料を集めてもらったんだ」


「すきっ腹の私に掃除を押しつけて、本でも読んでいるのかと」


「騎士団長の無茶ぶりが悪いんだからな」


 ウィルがじろっと横目で見るのも構わず、ライオネルは驚いたようにマノンを振りかえった。


「マノン、きみは腹が減っていたのか?」


 返事をするかわりにお腹がくぅと鳴り、いたたまれなくなったマノンは、顔を赤くして雑巾を入れた桶を持ちあげた。


「だっ、だいじょうぶです。これで失礼します!」


 ホントは全然だいじょうぶじゃない。お腹と背中がもうくっつきそうだ。


「あいよ、お疲れさん」


 手を振るウィルにぺこりと会釈し、マノンは図書室を飛びだした。





 出ていく彼女の後ろ姿を見送ったライオネルは、さっそくウィルにたずねた。


「ウィル、彼女はいったい……声だけで若そうな気はしたが、想像以上だった。成人しているのか?」


「マノン・プルシェ、年は十六だったかな。雑用係として働いている」


「まだ未成年じゃないか!」


 ガルソニアでは十七歳で成人を迎える。王城で未成年を働かせているなど、前代未聞だ。ウィルは感情のうかがえない紫紺の瞳で、驚くライオネルを見あげた。


「あの子は訳アリなんだ。両親を亡くして、雑用係の婆さんに引き取られて、城で育った」


「それが『モナ』か……」


「おととし婆さんが死んだんだ。マノンには身寄りもなけりゃ、後見人もいない。未成年だってことには目をつぶってるのさ、雑用係はいたほうが助かるしな」


 肩をすくめてウィルは、机に置いた資料を指し示す。


「ほら、国境域の勢力図に河川図、街道を記した地図だ。返却は裏表紙に貼ってある付箋をはがせば、〝図書館妖精〟が回収する」


「便利だな」


 感心したライオネルに、ウィルはうなずく。


「〝図書館妖精〟を使役できるのは俺だけだから、こんなカビくさい図書室で司書なんかやってる」


 妖精は血を好む。古い書物から生まれる〝図書館妖精〟のように、人の暮らしに何かしら働きを持つものは、その職能を持つ一族に引き寄せられる。


 ウィルの本名はウィリアム・コルテと言って、ガルソン城で文書を管理するコルテ伯爵の三男だ。


 コルテ伯爵には四人の子がいるが、妖精との相性は血族でも違うらしく、〝図書館妖精〟が懐いたのは、三男のウィリアムだけだった。


 そんなわけでウィルは城の図書室で働いている。銀糸の髪にコルテ一族特有である紫紺の瞳……たまに彼の美貌を目当てにやってくる女性はいるが、図書室は私語厳禁なので、職場環境としては快適だった。


「すまないが、騎士団の宿舎に届けておいてくれ。俺はちょっと用事ができた」


「あ……おい!」


 いうなりライオネルは身をひるがえして、風のように図書室を出ていく。呼びとめようとして、すぐに諦めたウィルは図書室を閉めて、資料を運ぶ準備を始めた。


 図書館妖精は本の回収には使えるが、基本的に本が出ていくことを嫌うため、貸し出しのお届けサービスには、妖精の力を借りられないのだ。


「あれがダモス将軍の秘蔵っ子か……マノンに目を留めるとは、ただの素朴な田舎者ってわけでもなさそうだ」


 厳しい訓練に耐えて鍛え抜かれた体は、骨格からして恵まれている。性格も温厚で素直、思慮深さもあるようだ。


 ダモス将軍はライオネルを王都で騎士団長として修業させ、ゆくゆくは自分の後継者にと考えているのだろう。


「マノンの事情を知ったところで、ヤツに何かできるとも思えないが……」


 ふっと息を吐くと、束ねた資料の包みを持って、ウィルは騎士団の宿舎へ向かった。





 マノンは集めたホコリを捨て、井戸に行くと雑巾を洗い、桶といっしょに干す。すべて終わると、とっぷり日は暮れていた。


(もう何も残ってないだろうな……)


 せめて空腹を紛らわすために、厨房へ寄って水をもらおう……そう思って歩きだせば、建物の影から飛びだしてきた人物とぶつかりそうになった。


「すみませ……」


 避けようとしてよろめいたところを、ガシッと大きな手に捕まり、マノンは心臓が飛びあがりそうになる。


「すまない、驚かせるつもりでは……だいじょうぶか?」


「ライオネル様⁉」


 ライオネル・ダモスはマノンの体を支え、しっかりと立たせてから彼女の腕を取った。


「ちょっとつき合ってくれないか?」

『頭ぽんぽん』はこれでクリア。

あとは『回復薬』『花束を贈る』『溺愛』『キス』ですね。

あ、全部入れられるかは分かりませんが。

こういうの面白いですね!

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