第95話 須藤さんのお願い
「ライムス、後ろは任せたよ!」
『ぷゆゆいっ!』
美味しそうなお野菜の香りに誘われて、キック・ラビットの群れが現れた。
私とライムス(ついでに須藤さん)は取り囲まれる形になってしまったけれど、ライムスとのコンビネーションでどうにか優勢に立ち回っていたよ。
そして時々は須藤さんも標的にされるんだけど、その度に須藤さんはひょひょいっと身を躱して、キック・ラビットの攻撃は掠りすらしなかった。
――――――――――――――――――――
Jun
<ん-と、カメラマンのお姉さん何者?w
デウスエクスちゃん
<すごい、あんな重そうな機材持ちながら軽々と避けてる……
じろう
<顔はAIの個体識別機能で消されてるね
村人B
<もしかして有名人? だから消してるんですかね?
ライムス推し
<うおおおおおおおっ、カメラマンのお姉さん最強…………?
上ちゃん
<まぁまぁ、余計な詮索はやめなよ。プライバシー保護のための個体識別機能なんだし
tomo.77
<最中ちゃんもライムスくんもかなり動けるね!
らんまる
<ライムスくんの牽制力すごいですね。実質跳ねまわる斬撃だからキック・ラビットもビビってますよ
ホーリー・社員・ドラゴン
<上ちゃんさんに同意~
上ちゃん
<とりあえず、モナちゃんもライムスもファイト!!
ライムス推し
<うおおおおおっ、ライムス最強!!!!!
――――――――――――――――――――
あははは……。
そりゃ流石にコメント欄も荒れるよねぇ。
って、そんな悠長なことを考えてる場合じゃないね。
「ライムス、右のガードお願いっ!」
『きゅぅっ!!』
私の右手側から迫るキック・ラビットをライムスが防いでくれたよ。私はその隙に目の前のキック・ラビットにパラライズ・ソードでの一撃を繰り出した。
「えいっ!!」
ブオンッ!
『ププッ!!』
「うっ、ギリギリで避けられたか!」
やっぱりキック・ラビットは厄介だね!
でも、Fランクモンスターの中ではスライムやゴブリンよりも経験値が美味しいから、何とかして倒したいよ。
と、その時。
私の攻撃を回避したハズのキック・ラビットが、いきなりペタンと尻餅をついたよ。
よく見てみると、キック・ラビットの足元には青色のゼリーみたいな物体が粘着していた。
「そっか、ライムスがトラップを仕掛けてくれたんだね!」
ナイストラップだよ、ライムス!
このチャンスに渾身の一撃を入れてやる!
「やあああああっ!!」
ザシュンッ!!
『プッ、プギャーーーッ!!』
ぽふんっ!
「よし、まずは一匹撃破だよ! ライムス、ナイスアシストだったよ!」
『きゅぴーーっ!!』
それからも私とライムスは、抜群のコンビネーションを披露しながらキック・ラビットを倒していったよ。
そしてこの日、私は二度目の世界の声を聞いた。
ぱぱぱーん!
――おめでとうございます。個体名・天海最中のレベルがアップしました。
「う~~っ、やったぁ~~~っ!! またまたレベルアップしたよ! まさかたったの1日で2つもレベルを上げられるだなんて思ってもみなかったよ」
『きゅぴ~~~っ!!』
こうして今日のレベリング配信は幕を閉じた。
その帰り。
ホールを出てすぐに、須藤さんがモジモジと指を絡めて、気恥しそうに私のことを見つめてきたよ。
夕陽に照らされた須藤さんは、なんというか大人の女性のクールな色気みたいなものがあって、私は思わずドギマギしてしまう。
「あ、あの~、須藤さん? どうしたんですか? そんな顔で見つめられたら照れちゃうかも……なんて」
私の言葉に須藤さんはさらに伏し目がちになって、それから振り絞るようにこんなことを言う。
「あの……。こんなお願いおかしいとは思ってるんですけど……頭では分かっているんですけど。それでもどうしてもお願いしたくて」
「えーっとぉ……まぁ、私なんかに出来ることであれば。はい、喜んで協力させてもらいますよ?」
それから一呼吸おいて、須藤さんは意を決したように告げた。
「私を、最中ちゃんの専属カメラマンとして使ってくれませんか!?」
「……はい?」
『ぴゆ??』
うん?
須藤さんが私の専属カメラマン?
「それってどういうことですか? ちょっと良く分からないです」
『ぴゆっ!』
「で、ですから……。今日一日の関係じゃなくて、これからも私のことを専属カメラマンとして使って欲しいんです。今日一日、今までにないほどに最中ちゃんとライムスくんに密着しました。……ドローンカメラは感情が無いから、良くも悪くも常に平均的な光景を映しだします。でも私はそうじゃない」
須藤さんは、今度は真剣な面持ちで私とライムスに向き直る。
おもむろに風が吹いて、須藤さんのポニーテールがふわりと舞った。
「私なら、最中ちゃんの魅力を最大限に引き出せる。いつどんなタイミングでどの角度から映し出せば可愛く見えるのか、格好良く映るのか……。ハッキリ言いますが、最中ちゃんを語らせたら私の右に出る者はいません、断言できます! だからこそ、私は最中ちゃんの専属カメラマンに相応しいと思うんです」
「……なる、ほど」
なんだろう。
まるで体育館裏に呼び出されて告白でも受けた気分だよ。まさか須藤さんがここまで言ってくれるだなんて思ってもみなかった。
そんなに私たちのことを好きになってくれてるだなんて。
「気持ちは伝わりました。でも、須藤さんの配信はどうするんですか? 私がそうであるように、影乃纏には数多くのファンがいる――まさか引退するだなんて言いませんよね?」
「もちろん引退なんてしません。影乃纏としての活動は続けます。その傍らで、最中ちゃんとライムスくんの傍に私を置いておいてほしいんです……ダメ、ですか?」
ああ、これはもう何を言っても聞かないやつだね。目をみれば分かるよ。
私が命を懸けてでもライムスを守り抜くと覚悟を決めたように――今の須藤さん、私と全く同じ目をしてるもの。
「そういうことなら分かりました。正直、すっごく嬉しいです。えへへ、なんか本当に照れちゃうな。――須藤さん。これからは友人としてだけでなく、先輩探索者としてだけでなく。専属のカメラマンとしても肩を貸してもらいますね? 頼りにしてますよっ」
「……っ! も、もちろんです! 期待に応えられるように、全力で頑張ります!!」
とまぁ、こんな経緯があって私と須藤さんは一緒に配信活動をすることになったよ。
まさか私が最強の探索者と組むことになるだなんて。
人生、何が起こるか分からないものだね。
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