第89話 驚愕(伊藤真一視点)
その日、目覚ましのアラームが鳴るよりも早くインターホンの音が室内に響き、俺はゆっくりと目を覚ました。
「おい……まだ6時じゃないか」
つーか、こんな時間に来客の予定なんて無かったハズだが?
「すみません、ちょっと待っててください」
寝起きのまま出るのも失礼なので、やや早歩きでキッチンに向かった。
顔を洗って口をゆすいで、ブラシでささっと髪型を整える。それから寝室に戻って手早く着替えを済ませた俺は、そのタイミングでふと妙な胸騒ぎを覚えた。
そういえば、来客の予定なんて無かったハズだよな?
俺はスマホを手に取ってスケジュール帳を確認した。しかし今日のこの時間、来客の予定は書かれていない。
アポなしの訪問。
しかもこんな早朝に?
……一応、カメラを確認しておくか。
もしかしたらどこからか俺の住所が漏れたのかもしれない。
このマンションのセキュリティはガチガチだが、リア凸してくるヤツってのはあの手この手で潜り抜けてくるからな。
俺はゆっくりとテレビドアホンの前に立ち、画面を確認した。そこには一人の女性がぽつんと立っている。
左右に降ろした茶髪と胸元を見れば女性と分かる。しかし帽子は目深に被っていて、表情は伺えない。
やっぱり怪しいな。
なんなんだコイツ?
「あの、何の御用でしょうか?」
数秒後、その女性はゆっくりとキャップ帽子を脱ぐ。そしてその顔を見て、俺は戦慄した。
「アンタは……!」
「おはようございます、伊藤さん。探索者協会・東支部の相沢穂水です。少々お話を伺いたいのですが、よろしいでしょうか?」
な、なにーーーーっ!??
な、なぜだ!
なぜこのタイミングで探索者協会のヤツが!?
つーか相沢ったら、俺のことを取り調べた人だよな? まさかまだ俺に疑いをかけているってのか?
いや、そんなハズはない。
そもそも、最中ちゃん一行とのお掃除配信を通して俺の身の潔白は表明されたんだ。
そうだ、俺は堂々としていればいい。
むしろヘンに慌てふためいたら、そっちの方が怪しまれる。
「相沢さん、ですか。それで、お話というのは?」
「ええ。単刀直入に聞きます。指定番号411ホールにて発生したイレギュラーモンスター。あれを討伐したのは、アナタではなく天海さんですね?」
…………は?
いま、なんて?
へ?
イレギュラーを倒したのが、俺じゃない?
あ、あり得ない。
なんで……なんでそのことが……。
いや、慌てるな。
ただカマをかけてきてるだけかもしれない。
ここは平然を装うんだ。
いや、むしろこっちから協力の姿勢を示そう。
大丈夫、いくら探索者協会の人間とはいえ、あの日の真相に辿り着いているハズが無いんだ。
俺はわざとらしくため息を吐き、やれやれと応じてみせた。
「あのね相沢さん。以前にも言いましたが、あのイレギュラーは僕が倒したんですよ。もし疑うというのなら取り調べでもなんでも受けましょう。僕にはやましい点なんて一つもないですからね」
「そうですか。では準備が出来たら駐車場までお越しください。車を待たせてありますので」
それだけ言うと、相沢はてくてくと去っていった。
テレビドアホンから相沢が消えると、俺はへなへなとその場に腰を降ろした。
「あー、ビックリした。まさかいきなり探索者協会の人間が来るなんて思いもしなかったぜ」
だが、どうしてこのタイミングなんだ?
もしかしたら俺はなにか大きなミスを犯してしまったのかもしれないな。そのせいで証拠といえるようなモノを残してしまった?
いや、そんなはずは……。
「まさか、俺が天海最中と接触したという事実が問題なのか?」
まぁいい。
取り調べだろうが何だろうがなんでも受けてやるよ。
どう足掻いても決定的な証拠はない。
物的証拠がない以上、向こうの手札は状況的証拠に絞られる。
ということは、俺が自白しなければ事の真相が明るみになることは絶対にないんだ。
そして俺が口を割ることは100%……いや、1000%あり得ない。
「むしろこれは好都合かもな」
これを機に、俺の身の潔白を完膚なきまでに証明してやる!
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