表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

9/120

第9話 偽りの英雄(伊藤真一視点)

「それでは登場して頂きましょう。本日のゲスト、いま”英雄”と話題の探索者、伊藤真一いとうしんいちさんでぇーすっ!!」


 ぁ、ぁぁあ、ぁぁぁあああああああああっっ!!


 やらかした!

 完っ全にやらかした!!


 まさか、あんな軽はずみな言動がここまで大事になるだなんて。


 ちくしょう。

 こんなことになるだなんて思いもしなかった!


「さ、どうぞ」

「あっ、ハイ」


 俺は番組スタッフに促されて登壇した。


 目の前には、見たこともない数の人、人、人。

 

 そしてたくさんの番組スタッフにカメラに、さらには、テレビの中でしか見たことのない有名人…………。


「あ、ど、ドーモ。伊藤でーす」


 途端に響き渡る黄色い歓声。

 そして今までに向けられたことのないキラキラとした目線。


 俺は超有名司会者、松尾・ビッグバンの隣に立つと。


「いやぁ、こうやって直に見るとホントにイケメンじゃないのアンタ! 背も高いし筋肉もねぇ、ワァ凄い、カッチカチじゃない!」

「あ、ははは。なんだか照れますね」


 ぬ、ぬわぁああああああああっ!!


 あの松尾・ビッグバンが俺に、俺に、俺に触ったぁぁぁああああああああッ!!!!


「いやー、この筋肉なら納得よ。そりゃ初潜り(シーク)でイレギュラーもブッ倒しちゃうわよ! ほら、触ってごらん本橋ちゃん?」


 な、な、なにィーーーーッ!!

 あの本橋アンナが俺の筋肉に触るだと!?

 そんなえっっっなことがあっていいのか!???


 本橋アンナは10000年に1人の美少女と呼ばれるアイドルだ。


 当然、見た目は超絶にカワイイ。

 まぁ、美奈ちゃんほどじゃないがな。

 それでもかなりのハイレベル美少女だ。

 プロポーションも抜群で声も可愛いし、歌もダンスも完ぺきにこなす。


 まさに今をときめく大スター!


 そんなアンナちゃんが俺の筋肉に触れて……。

 

 あっっ――。


「わぁ、すごぉ~い。ホントにカチカチぃ~、惚れちゃいそぉ~~」


 …………ヤバい。

 罪悪感が半端ない。

 

 でも、もう後戻りなんて出来っこねぇ。

 だって俺、美奈ちゃんからオッケー貰っちゃったんだもんっっ!!!!


 どうしてこんなことになってしまったのか。


 生放送のテレビ番組に出演する傍らで、俺は過去の出来事を思い出していた。


#


 時は遡り一ヶ月前。


 病室のベッドで目を覚ました俺に、レンタルカメラマンの佐々木が泣きついてきた。


「う”わ”ぁぁああああああっ!! 伊藤ザン”、伊藤ざん”ん”ん”ん”ッ!!!!」

「うぉわあっ! オイオイ、勘弁してくれよ佐々木。男に抱きつかれる趣味は無ェぞ!?」


 どうやら俺は3日近くも寝込んでいたらしい。


 そして俺が目覚めると、次から次へと見知らぬ顔の人間がやって来て。


「伊藤さんのお陰で命が助かりましたっ、本当にありがとうございます!!」


 などと言うのだった。


 最初のほうはなにがなんだか分からなかった。

 だって目覚めたばかりだというのにいきなりお礼を言われたってなぁ。初日なんて、なんで病院にいるのかすら曖昧だったくらいだ。


 でも俺は、少しずつではあるものの、いろいろなことを思い出してきたんだ。


 美奈ちゃんにアピールするためにダンジョン配信を始めたこと。最初のほうは絶好調だったこと。でも、イレギュラーが現れたこと。


 そして、佐々木を逃がすために、イレギュラーに立ち向かったこと。


「そうか。あの後、俺は気を失って……」

「佐々木さん、僕感動しました! まさか初潜り(シーク)でイレギュラーを倒せる人間がいるだなんて、想像もしませんでしたよ!」

「…………なんて?」


 話を聞くうちに状況が吞めてきた。


 まず、俺にお礼を言ってきた見覚えのない顔。アイツらは、俺と同じダンジョンに潜っていた探索者らしい。


 そして、イレギュラーに遭遇して死を覚悟したとも言っていた。


 しかしどういうワケか、佐々木が妙な勘違いを起こし――そして俺は、彼らの中で”イレギュラーを討伐した英雄”になった。


 はじめ、俺は否定しようとしたんだ。


 違う、俺はイレギュラーを倒してなんかいない。イレギュラーを倒したのはスライムだ。


 正直に話そうと思った。

 でも、その時になって気づいたんだ。


 あのイレギュラーはどう考えてもDランク以上の強さはあった。そんなモンスターをスライムが倒せるわけがない。


 本当のことを話しても無駄だ。

 むしろ異常者扱いされる可能性すらある。

 そう思うと、本当のことを話す気にはなれなかった。


 いや、それは言い訳でしかねぇな。

 本音は……心の奥深くでは、こう思ったんだ。


 このまま勘違いさせておいたほうがお得なんじゃないか? ってな。


 俺が命懸けで佐々木や他の探索者を助けたのは事実だ。


 俺は己の身を犠牲に、多くの人を救おうとした。


 だったら、少しくらい良い思いをしたっていいだろ。ちょっとくらいご褒美があったっていいだろ。


 ――そんなふうに心の中の悪魔が誘惑してきて、俺はそれに負けちまった。


 手厚い看護と投薬治療、そして体力回復ポーションの差し入れもあって、俺は一週間後には退院できた。


 そして大学に行くと。


「いよっ! 英雄”伊藤様”のお出ましだ!!」


 友人たちは、俺のことを快く迎え入れてくれた。

 正直、スゲー気持ち良かったよ。

 まるで本当に英雄になった気分でさ。


 それで俺は、本当のことを隠しちまった。

 

 みんなが勘違いを起こしてる。

 だったらそれが本当ってことでいいじゃねーか。


「なぁ、イレギュラーを倒したヤツ、もう一回やってくれよ!」

「ああいいぜ。俺はな、ヤツがこん棒を振り上げた一瞬のうちに幾筋もの斬撃を浴びせ、腕を切り落とし、ガラ空きの胴体に刺突をブチかましてやったんだ。こんなふうに、なァっ!!」

「うおお、カッケェーーッ!!」


 こんなふうにして、俺は嘘に嘘を重ねていった。


 そしてその日、俺は美奈ちゃんに呼び出されて。


「伊藤くん、ニュース見たよ! それでさ、もし勘違いだったらゴメンなんだけど、もしかして伊藤くん、私のために探索者を目指したの?」

「えっ、いや、それは……」


 ここが最後のチャンスだった。

 ここで本当のことを言えば、今ならまだ冗談にできる。


 でも、俺の口から突いて出たのは自分でも想像してない言葉だった。


「ああ、そうだよ。君と付き合いたくて……だから俺は、強くなったんだ」


 すると、美奈ちゃんは俺に抱きついてきた。


「私のせいで怖い思いさせてごめんね! でも嬉しい! 私のためにここまでしてくれる人、今までいなかったもん。ありがとう、伊藤くん。私、伊藤くんのこと大好きになったよ。だから――」


 この時、俺は確信した。

 きっと俺は、この光景を一生忘れることはできないんだろうな、と。


 美奈ちゃんは両手を差し出して、今にも泣きだしそうな目で俺のことを見た。


「私を彼女にしてくださいっ!」


 俺の答えがイエスだったのは言うまでもないだろう。


 こうして俺は後戻りができなくなってしまった。

 

 そしてあっという間に話は膨れ上がり、英雄譚は光の速さで広がっていく。


 その結果、今に至るというワケだ。

 

 我ながらバカだと思う。

 もう本当のことは話せない。

 実は嘘だった――それがバレれば、俺の人生は終わるだろう。


 俺は多くのスターと言葉を交えながら、少しずつ覚悟を決めていった。


 この嘘だけは、死んだって貫き通してやる……!

ここまで読んでいただきありがとうございます!


本作品はカクヨム様のほうでも33話まで更新しています。

ジャンル別18位、総合98位にランクインしています。

よろしければカクヨム様のほうもご覧ください。

また、こちらのほうでも☆評価やブックマークで応援して頂けると嬉しいです。なにとぞよろしくお願いします!!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
お読みいただき有難うございます!
ダンジョンのお掃除屋さん〜うちのスライムが無双しすぎ!?いや、ゴミを食べてるだけなんですけど?〜
連載中です!
気に入ってくれた方は『ブックマーク』『評価』『感想』をいただけると嬉しいです こちらも覗いていただけたら幸いです
ダンジョンのお掃除屋さん〜うちのスライムが無双しすぎ!?いや、ゴミを食べてるだけなんですけど?〜
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ