第77話 みんなで大掃除②
ホールを潜って少し歩くと、私の突き刺しておいた楔が見えてきたよ。
私は結び付けておいたタグに「天海最中」の名前が記載されていることを確認した。
楔は触れるだけで地点Aから地点Bへとワープできる優れもの。でも、どれも見た目がそっくりだからこうやって区別をつけるんだよ。
もし間違って他の楔に触れちゃったら、全然違う場所に飛ばされちゃうからね。
「それじゃ、まずは私から行きますね。ギルさんたちは後に続いてください」
「ああ、了解したぜ!」
私はライムスを抱えた状態で屈み込むと、そっと楔に手を伸ばした――その時。
「ちょっと、そこの君!」
一人の青年が、駆け足でこちらへ寄ってきた。
歳は、たぶん私と同じくらいかな?
茶髪のセミロングで、顔は美形だね。
赤のロングコートに身を包んで、右肩からショルダーバッグを引っ提げている。
私は青年に視線を向けて、はてと首を傾げた。
なんだろう。
この人のこと、どこかで見たことがあるような??
「良かった、もしも情報が違ってたらどうしようかと思ってたところだよ。初めまして、俺の名前は伊藤真一。君は天海最中ちゃんだね?」
その名前を聞いて、私はハッと目を見開いた。
ギルさんたちのほうを振り向くと、みんな同じ反応をしていたよ。
「伊藤真一さんって、いま英雄って呼ばれてるあの伊藤真一さんですよね!?」
「英雄って呼ばれるとちょっと照れるけどね」
「オイオイ、こいつぁ驚いたぜ。まさか伊藤さんがこのダンジョンに来てるだなんて!」
「わわっ……。ほっ、ホンモノ。ホンモノだ……すごい……」
「わーお。まさかこんなところで見れるなんてねぇ。予想もしてなかったよ」
「えーと、彼らは?」
伊藤さんに尋ねられて、私はギルさんたちのことを紹介した。
「こちらの強そうなお兄さんがギルさん、それでこっちの眼鏡の方がケンジくん。赤髪の子がミレイちゃんで青髪がユーリちゃん、二人は双子なんです。みんなとは、一緒にダンジョン飯をしたこともあって、今日もやれたらいいねって話していたんですよ。それで、伊藤さんは? 私に用事があるような感じでしたけど」
私は努めて平静を装いながら問いかけたけど、内心ではすごいドキドキしているよ。私に抱きかかえられてるライムスには、ドキドキが直に伝わってるかもしれないね。
「実はね、ずっと前から最中ちゃんの配信は見ていたんだ」
「えっ、本当ですか? すっごく嬉しいです!!」
「ふふ、喜んでもらえて光栄だよ。それでね、この前の『黄金の森』配信があったろう? その時にね、ゴールド・ソードのプレゼント企画に応募したんだ。そしたら――」
一区切りつけて、伊藤さんが腰に括り付けた鞘から一本の剣を引き抜いた。
それは金色に輝く、ゴールド・ソード。
私が『黄金の森』で手に入れたドロップアイテムだった!




