第71話 宝箱の秘密
それからもモンスターと出会う度に、フーラちゃんのスキルで森を拓いていったよ。
ちなみに、熊ちゃんの他には鹿とかイノシシも出てきたけど、フーラちゃんはそれら全部を痺れさせていたね。
どうにもこの森に出る野生動物は臆病みたいで、私たちを見るとすぐにお腹を見せてくるんだよ。
そんな調子で、私とフーラちゃんは探索を続けていったよ。
そしてついに、その時がやってきた。
「雷神一剣――ッ!!」
フーラちゃんの一撃で開かれた景色。
そこに、一つの宝箱がぽつんと置かれていた。
最初に私が気付いたけれど、その反応をフーラちゃんは見逃さない。即座に私の背後に回って両腕をガッシリと掴んできた。
「あはは、ごめんね~最中ちゃん。本当はこんなことしたくないんだけどさ。でも仕方ないよね~。こうしないとパラライズ・ソードで麻痺にさせられちゃうかもしれないし。あっ、ライムスくんのことは心配しなくていいよ? 実を言うと今回の痺れ薬、これはライムスくんを傷つけずに拘束するために用意したものなんだよね~」
「ふふっ。フーラちゃんってば優しいんだね」
「そりゃまあ、あんなカワイイ子を甚振るなんて心苦しいし。できれば最中ちゃんのことも傷つけたくないから、拘束が終わるまでは抵抗しないでもらえると助かるな」
「うん、いいよ。私は抵抗しないであげる。でもライムスはどうかな?」
「え~~? やめといたほうがいいと思うけど。たしかにライムスくんは強いけどさ、それでも私に勝てるかどうかは分からないよ? それに私の痺れ薬はモンスターにこそ効力を――」
「ところでフーラちゃん。そのライムスは今どこにいるんだろうね?」
私が答えると同時に、フーラちゃんがはっと目を見開いた。
「まさか……!」
「そのまさかだよ。私は囮ってこと」
「くっ……!」
私を拘束したフーラちゃんは、間違いなくライムスのことも拘束する。物理的な手段での拘束はすり抜けられたりするから、おそらくその手段は薬の類。
となると、ライムスとフーラちゃんの接近戦は避けたいよね。
だったら私が時間を稼げばいい。
私が囮になって、そしてその間に。
『ぷゆーーーーーーっ!!』
ライムスに宝箱を開けさせる!!
「てっきりライムスくんで拘束してくると思ってたのに……! まさか自分を囮に使うだなんて驚いたよ。でも負けてあげない。スキルを発動すればまだ追いつける!!」
と、その時。
「はーいそこまで。フーラ、そして最中ちゃん。宝箱を見つけてくれてありがとう」
ライムスの進行方向から、優雅な赤髪を靡かせて咲ちゃんが姿を現した。
咲ちゃんはニッコリと微笑むと、胸元から何かを取り出して放り投げる。すると辺り一帯が白煙に包まれて、私たちは何も見えなくなってしまった。
「ううっ、これは……煙幕!?」
「けほっ、こほ! クッソぉ、咲のやつぅ。途中から跡をつけてたんだね! まんまとしてやられたよっ!!」
「ライムス、ライムス! 大丈夫!? けほっ、けほっ!」
煙幕のお陰でフーラちゃんの手が離れた。私はその隙に逃げ出して、ライムスを探した。
姿勢を低くして、煙を払いながら進む。
すると、ライムスがぽよぽよと弾んでいたよ。
「ライムス、大丈夫? 怪我はない!?」
『ぷゆ!』
「そっ、そう。それなら良かった」
でもなんだかいつものライムスとちょっと違うような? 本当に大丈夫なんだろうか?
そんなふうに考えていると。
「うわーーーーーっ!!???」
今度は咲ちゃんの叫び声が聞こえてきたよ。
私はライムスを抱きかかえながら咲ちゃんの元に向かうと――。
「えっ、えぇえーーーっ!??」
なんと、そこにもライムスがいたよ!
しかもベトベトになって粘着してるし、咲ちゃんの服も乱れてるし、なんていうかコレ……映して大丈夫なの!??
「くっ、ぅう! ライムスくん、一体どんな手を使ったんだ!! あの煙幕の中、しかも結構な距離があったのに……。どうやって一瞬でここまで? っていうか、いろいろとマズいだろこれは……!」
「よく分からないけどこれはチャンスだね。ごめんね咲ちゃん、宝箱はもらっちゃうよ!」
「あっ、ちょ待っ!」
「待てって言われて待っちゃうようじゃ、それこそ企画倒れでしょ?」
「く、くぅううう~~~~っ!!」
悔しがる咲ちゃんを尻目に、私はライムスを抱っこしながら宝箱の目の前までやってきたよ。
「よーし。これで私の勝ち――って、アレ?」
この宝箱、なんだかヘンだよ。
う~ん? おかしいな。
なにがどうなってるんだろう。
「どうやって開けたらいいのかな? ――うん? このマーク、これって手形……だよね?」
私は数秒考えて、そして答えに辿り着いたよ。
同時に自然と笑みが零れてきて止められなくなっちゃった。
「あはっ、ふふふ、ふふっ、あはははっ!!」
なあんだ、この企画ってそういうことだったんだね。田部さん、今頃は配信見ながらニヤニヤしてるんだろうなぁ。
「はーあ、あー面白い。それにしてもライムス。どんな手段で咲ちゃんに追いついたの?」
『ぷゆゆい! くゅー、ぴきゅい!!』
「なるほど! 2匹に分裂して、お互いの弾力を利用して思いっきりジャンプしたんだね?」
つまり私が抱っこしてるほうのライムスがジャンプ台みたいな役割を果たしたってことだね。
『ぷゆいっ!!』
「ふふっ、そうだね。よく思いついたね。ライムスったら天才!!」
『きゅーーっ!!』
「でも、もう咲ちゃんのことは解放してあげていいよ? ていうか解放してあげないと、お宝が手に入らないみたいだしね」
宝箱の4つ面には、それぞれ1つずつ手形のマークがついていた。つまりこの宝箱は、私たちが協力しないと開かない。
最初から4人でチームを組んで協力する。
それが1番の近道だったんだね。
#
「「「ええーーーーーーっっ!?!??」」」
宝箱を取り囲む形で、私とフーラちゃん、咲ちゃんとふらんちゃんが立っている。
ふらんちゃんはモンスターとの戦闘で疲れて、それで眠くなっちゃったんだって。そして目が覚めたら、木の枝に吊るされて身動きが取れなくなってたみたい。
もちろん咲ちゃんの作戦で、ふらんちゃんは「咲ちゃんの嘘つき、イジワル!」って怒ってたよ。
「しかしまさか、こんな仕掛けが施されているとはな。『きらら』らしいといえばらしいが……」
「あははははっ! どうやら私たちは掌の上で踊らされてたみたいだね」
「ねぇねぇ、もう開け方は分かったんでしょ? それじゃあ早く開けようよ。ふらん、どんなお宝が入ってるのかワクワクするっ!!」
「ふふっ、そうだね。私もドキドキだよ。それじゃみんな、せーのでいくよ?」
私たちは「せーの」のタイミングで宝箱の手形に触れた。同時に、宝箱がパカッと開かれたよ。
「やった、宝箱が開いたよ!」
「さ~て、お宝はなにかな~~?」
「おっ宝! おっ宝!」
「って、これは……」
そして宝箱の中から出てきたのは――。
私はそれを手に取って、はてと首を傾げた。
「なにこれ?」
「んーー? ただのロッドに見えるけど」
「なにこれっ、なにこれっ!」
そんな私たちを他所に、咲ちゃんが気まずそうに呟いた。
「これは掘り出しロッド――要するに釣り竿……だな…………」
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