第70話 当たりダンジョン
通話が終わって数秒後。
ドガン! という大きな音と一緒に青白い雷が見えたよ。
「ライムス、フーラちゃんはあっちにいるみたいだよ」
『ぴゆっ!』
「うん、大丈夫。私、ライムスのこと信じてるから!」
『きゅぴい!!』
私はライムスと一緒に、フーラちゃんを目指して歩き出した。
とはいえ、方角が分かっているからといってそう簡単には進めなかったよ。途中で行き止まりになったり、やっぱり同じ場所に戻ってきたり。
歩いてるだけでも体力を削られちゃう。
フーラちゃんの案を採用した以上、フーラちゃんはその場に留まってないといけない。フーラちゃんが移動しちゃったら、雷の目印が意味なくなっちゃうもんね。
もしかしたらフーラちゃんはそこまで考えて、私の体力を削ろうと考えたのかも?
うう、もしそうだとしたら中々の策士だよ。
ひょっとしたら今頃「にししし」なんてほくそ笑んでたりして……。
しかも体力が削られる原因は迷路だけじゃない。
『ゴブブゥッ!』
『グギギィ……』
『ゴブゴブッ!!』
『ギギィ!!』
「出たね、ゴブリン!」
当たり前だけどモンスターも出てくる。
だから余計に体力が減っちゃうんだよ。
でも、ピンチはチャンスでもあるよ。
こういうときこそ前向きに考えなきゃ。
勝負も大事だけど、なによりも、これがたくさんの人を楽しませるための配信だってことを忘れちゃいけないよね。
「いくよライムス! 私たちのサイコーのコンビネーションをリスナーのみんなに見せつけちゃうおうっ!」
『ぷゆーーーっ!!』
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「お~~い、フーラちゃ~ん!」
「あ、最中ちゃん!」
「ふぅ、ふぅ。は~~、やっと合流できたね、フーラちゃん! まさかここまで手間取るとは思ってなかったよ」
「私がスキルを発動してから大体10分くらいか。やっぱりこの森、一筋縄ではいかないみたいだねぇ。ライムスくんもよく頑張ったね!」
『きゅゅっ!』
合流を果たした私たちは、さっそく作戦を開始することにしたよ。
まずは周囲を探索して、モンスターを見つける。
モンスターが出たらフーラちゃんがスキルを発動、モンスターへの攻撃と同時にエリア一帯の樹木を切り拓いて見晴らしを良くする。
これを繰り返していけば遮蔽物が無くなって、やがては宝箱が見つかるよね。
「それじゃ最中ちゃん、さっそく始めよっか!」
「了解だよ、フーラちゃん!」
フーラちゃんと一緒に森を探索すること数分。私たちの目の前に一匹のモンスターが姿を現した。
けれどそれは、ゴブリンでもスライムでも無かった。
大きな体に黒色の毛皮。
鋭く尖った牙に太くて強そうな爪。
それはどこからどう見ても――。
「熊ちゃん!??」
「熊ぁ!?!??」
私とフーラちゃんの声がピッタリと重なった。
「えと、えーっと、熊のモンスターっていったら最弱クラスのブラック・ベアでもCランクはあるんだよね!??」
私の問いに、フーラちゃんがぶんぶんと頷く。
「でもそんなのあり得ないでしょ! だってここはE難度ダンジョンだよ!?」
慌てふためく私たちを他所に、熊ちゃんは……ぐでん、と寝っ転がったよ。
「「……え?」」
『グルルゥ。ゴルルルル、グルァ……』
「あの仕草、どう見てもモンスターじゃないよね? ねぇフーラちゃん。ダンジョンってさ、野生動物が出ることもあるの?」
「う~んとね、無くはないかな。ほら、最中ちゃんが配信してた『黄金の森』。あそこにも蝶々とか魚とかいたでしょ? そういう野生動物が出現するダンジョンのことを「当たりダンジョン」って呼ぶんだけど、聞いたことない?」
「あるような無いような……」
「とにもかくにも、ここは当たりダンジョンで間違いないみたい。熊ちゃんにも戦意は無いみたいだし、とりあえずは麻痺状態にさせておくか」
そう言ってフーラちゃんはショルダーバッグの中から一つの瓶を取り出したよ。対モンスター用の痺れ薬だね。
「これはモンスターだけじゃなく、人間とか危険な動物にも効果があるからね」
フーラちゃんが熊ちゃんを痺れ状態にさせた後、私たちは引き続き探索を続けた。そして次こそ、本当にモンスターが現れたよ。
『ゴブブゥ!!』
『きゅいきゅい!!』
『ナハッ、ォハナッ!』
『ゴブぴきゅうっ!!』
『しゅやあっ!!』
ゴブリンにスライム、ゴブリン・フラワーにゴブリン・ライダー。さらには騎士のモンスター、ナイトも出てきたよ。
この中だと他はみんなFランクだけど、ナイトはEランクの強さがあるよ。
「よーし。それじゃ纏めて一掃しちゃいますか」
フーラちゃんがゆっくりと鞘からロングソードを引き抜く。同時に身体がふわりと舞い上がって、青白い閃光がフーラちゃんを起点に周囲一帯を照らしつけた。
「ライムス、アレがフーラちゃんのスキルだよ」
『……ぴきゅうっ』
ドガンッ!! と大きな音が響いて、私たちの視界は真っ白な光に包まれる。そして光が収まると、そこには雷神を思わせるフーラちゃんの姿があった……!
青白い電撃がバチバチと音を立てながら、まるでオーラのようにフーラちゃんの全身を迸っている。蒼空を思わせる青髪は電気の影響で逆立ち、言葉では言い表せないような威圧感を放っているよ。
「雷神一剣――ッ!!」
フーラちゃんの一振りと共に、雷撃を帯びた斬撃が放たれ、一瞬のうちにモンスターを両断してみせた。モンスター5匹を倒してもなお斬撃は勢い衰えず、そのまま周囲の大木を薙ぎ払っていった。
「すっ、すごい……。これがフーラちゃんの一撃!!」
フーラちゃんはスキルを解除すると同時に剣を収め、ほうっと一息吐いた。
「にしし。どーよ? これが私のスキル。強いでしょ!」
「うん、うん! フーラちゃんってばとんでもない強さだねっ! 配信で見るのと違って迫力も段違いだし、すっっごく恰好良かったよ!!」
「あははは。そんなストレートに褒められるとちょいと照れちゃうね。とはいえ、これで視界は開けたわけだ。さー最中ちゃん、ライムスくん、この調子でドンドン探索していこう!」
「おーー!」
『ぷゆーー!』




