第60話 祭りの後で②(伊藤真一視点)
うぉおあああああああああああああああ、お、お、お、思い出したぁぁああああああああああああああああッッッ!!!!!!!!
「あ、ああああ、うぁああああああっ!! マジか、マジかマジかマジか、これ、現実かよ!?」
俺は、夢であってくれという願いを込めて頬をつねった。単純に痛いだけだった、ぐすん。
「あのとき――イレギュラーをスライムが飲み込んだとき、あの背後には間違いなく誰かがいた……」
スライム。
どこにでもいるただのFランクモンスター、そして素人探索者でも倒せる雑魚。
できることといえば、ぽよんぽよんと跳ねまわるか、キーキーと甲高い声で鳴き喚くだけ。
たまにレベルの高い個体が現れて、そういうのは分裂をすることもある。他には粘着攻撃を繰り出してきたりな。
でも、あの配信のスライム――ライムスくんは明らかに異常だ!
あんな大量に分裂して、しかもあんなミニサイズにまで変形して。それでもなお、ライムスくんは自我を保っていた!
つまり、ライムスくんは普通のスライムとは一線を画しているということ!
最中ちゃんというDtuberが人気を博してから、その配信は隙間時間を利用して何度か見させてもらった。
正直言って超楽しかった。
それに、最中ちゃんもライムスくんも超絶カワイイしな。
だから思ってはいたさ。
ライムスくん、ただのスライムにしては随分と強いなって。
でもそれは最中ちゃんがライムスくんをテイムしていて、主従関係が成立しているからだと思っていた。
付け加えるなら、両者の間には深い信頼関係があるように見えた。
絆が深ければ深いほどテイムされたモンスターは強くなる。だから、あれくらいはあり得るかもしれないと思っていた。
だが、今回ばかりはあり得ない。
あの超分裂、そして分裂先個体の自我の残存!
こんなの、どこからどう考えてもおかしいだろうが!!
そうやって考えて続けていたとき、俺はついに思い出してしまったのだ。
あのとき――イレギュラー個体がスライムに飲み込まれたとき、その背後に立っていた人物が誰だったのかを。
その女の子が、どんな顔をしていたのかを。
その子は間違いなく、天海最中その人だった。
「まさか、よりにもよってこんな大人気Dtuberがあのときの真実の英雄だったなんて…………」
だが、今さら後戻りはできない。
成り行きとはいえ、自業自得とはいえ、俺はすでに多くの人間に期待されている立場だ。
利己的で打算的、クズの思考。
んなことは痛いほど分かってる。
それでも決めたんだ。
この嘘だけは最後まで貫き通すと。
どんな形であれ、俺は一度決めたことを覆すことだけは絶対にしない!
たとえ、この命に替えてもだッ!!
「仕方ない。気は引けるが、やるしかないな」
まずはどうにかして最中ちゃんと接触する。
それが最優先だ。




