第58話 ライムス・フェスティバル!
第3層に潜るや否や、とんでもない光景が飛び込んできて、私は思わず目を背けそうになってしまった。
大小・長短、様々な黄金色の触手が地面のあちこちから伸びていて、探索者たちに攻撃を繰り出していたよ。
「ひぅっ、な、なにこれっ!?」
「むっ、さっそく俺たちも標的にされたようだな」
数えきれない程の数の触手が、金色に輝きながらこちらへと向かってくる。
私はライムスを抱きかかえてその場に蹲った。
せめて私が盾になればライムスだけは助かるかもしれない。そう思っての行動だったけれど、いつまで経っても攻撃はこなかったよ。
「あ……れ?」
「なにを丸くなっている、天海最中。……安心しろ、向かってきた触手は全て切り落とした。とはいえ、またもやこちらに向かってきているがな」
なんて言いながら、山本さんは顔色一つ変えずに剣撃を繰り出し、次から次へと触手を両断。やがて剣を振る速度が目で追えなくなってきた。
「す、すごい……」
「俺を観察しても意味が無いだろう。とりあえずこのまま押し進むぞ。まずは三ノ宮と合流したいからな」
「わ、分かりました! ――ライムスは私の腕の中から出ちゃダメだよ? あの触手が『黄金の木』から出てるなら、水分の多いライムスは栄養になっちゃうかもしれないからね。分かった?」
『ぷゆっ!!』
「うん、ライムスはいい子だね!」
しばらく進むと、やがて見覚えのある金髪のお兄さんが見えてきたよ。三ノ宮さんだね。
三ノ宮さんはアクロバティックな身の熟しで触手を避けては、殴打攻撃や回し蹴りなどを繰り出して応戦していたよ。
ああ見えて肉弾戦が得意みたい。
もっと魔法とか使いそうなイメージだったよ。
「ああもうキリが無いな! 本体を叩けばゲームセットだってのに、いくらなんでも触手が多すぎるっ!」
「苦戦しているようだな、三ノ宮」
「山本! それに天海最中まで!?」
「詳しい説明は後だ! とにかく、まずはこの触手を全部叩き斬る! 大本はあの『黄金の木』なんだろう?」
「ああ! そう見て間違いないだろうねっ! とはいえ、Aランクの僕が苦戦を強いられるとなると、本体も相応の強さだと思うけど。数に任せた無差別攻撃のせいで僕の認識阻害スキルも役に立たないし、ほんっとに相性最悪だよ!!」
そんなふうに会話を交わしながらも、二人は次から次へと金色の触手を倒していく。そしてそれを嘲笑うかのように、さらに触手が増える。
「……アレが『黄金の木』だね?」
きっと、木の根を地面から突き出して触手攻撃を繰り出しているんだ。
枝葉の部分で攻撃しないのはなにか理由があるのかな?
今の私に出来るのは考えること。
考えて、見て、そして突破口を開かなきゃ!
いくらAランク探索者とはいえ、持久戦が続けば疲弊してくる。そうなれば事態はもっと悪くなっちゃう。
なにか、なにか無いかな。
この状況を打開できる、そんな作戦……。
爆撃系のスキルを持つ人に助けを求める?
いや、ダメだ。
そのやり方だと他の探索者までもが巻き込まれちゃう。
となると大量の水責めとか?
いやいや、それはあり得ないよね。
ライムスに教えたとおり植物にとって水は栄養だし、むしろ力を与えちゃうだけかもしれない。
そもそも、水を出せる探索者がいるかどうかも分からないんだもんね。
「触手攻撃は地面から。おそらくは根を突き出しての攻撃。枝葉を触手にしないのは……」
もしかして、あの『黄金の木』はまだ擬態しているつもりなのかな?
『黄金の木』的には『まさかこの触手攻撃の元が私だとは思いもよらないだろう、ふははっ!』って感じなのかもしれない。
もしそう思っているのなら、そりゃ枝葉を触手にすることはないよね。
だって枝葉を触手にして攻撃したら『黄金の木』がモンスターだってことがバレちゃう。
となると突破口は空からの攻撃、になるよね?
「……山本さん、三ノ宮さん! 私に策があります、どうか聞いてください!!」
「聞かせておくれっ!」
「聞かせてみろ!」
そして私は、頭の中で組み立てた作戦を告げた。
「私の配信用ドローンに捕まってください! あのドローンは最大積載量が200kgあるので、成人男性二人を運ぶくらいなら問題はありません。この触手は木の根を這い回して、地面から突き出しているものだと思います。だから、高い位置までは伸ばせないはず。そして私の予想通りなら『黄金の木』が枝葉を触手にして攻撃してくることはありません! 私を信じるかどうか、判断はお二人に委ねますッ!!」
できることは全部やれたと思う。
あとは山本さんと三ノ宮さんがどう判断するか。私を信じるかどうか……。
「ふふっ。やっぱり君は天海最中だ!!」
「お前を同行させた俺の判断に間違いはなかったみたいだな。三ノ宮、やるぞっ!」
「言われるまでもないさ!」
そうして二人は、私のドローンに捕まり、上空へと飛び立っていった。
二人がいなくなって、私は無防備になる。
そして触手がぐわあっ! と迫ってくる。
私はまたもやライムスを守るべく蹲ろうとして――。
そのとき、ライムスがぴょーん! と私の腕の中から飛び出した。
『ぷゆゆーーっ!!』
「ちょ、ライムス!」
触手は矛先をライムスに変えて、一直線に伸びていった。
「ライムス、逃げてっ!!」
私は大好きな家族を――ライムスを守らなきゃならない。それなのにライムスに守られちゃうなんて、それじゃあ意味ないじゃん!
「ライムスゥーーーーーーッ!!!!」
『ぷゆい!』
私が叫ぶと、耳元で声がした。
「……えっ?」
視線を向けると、そこにはちっちゃいライムスがいたよ。
そして触手に狙われていたライムスは、攻撃を避けるようにして二つに分裂した。
さらに二つに分裂したライムスが二つに分裂して――それを繰り返して、気づいたら、ちっちゃいライムスがいっぱいになっていた!
「え、え、ええええええ~~~~っ!??」
な、なにこれ!?
なにがどうなっちゃってるの!?
『ぷゆい!!』
『ぷゆゆ!』
『きゅぴーーーっ!!』
『きゅる~~ッ!』
『ぴっきーーっ!!』
『るるるるるっ!』
『ピキャーーー!!』
『ぴゆいっ!』
そしたちっちゃいライムスは、まるで触手を挑発するようにして縦横無尽に駆け回る。
触手はライムスの相手に手いっぱいで、私に攻撃を仕掛ける余裕がないみたいだった。
「ライムスが、ちっちゃくなってる……。ライムスが、ふえてりゅ……」
いや、どゆこと!??
そんな私の混乱をよそに、触手たちが一斉にぽふんっ! と煙になって消えたよ。
山本さんと三ノ宮さんが『黄金の木』の本体を倒してくれたみたいだね。
とりあえずはこれで一件落着――っていえるのかな、コレ??
私は大量に増えたミニライムスを眺めて、そして思った。
「ま、ライムスがカワイイからそれでオッケーだね!」
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