第57話 擬態
「ミミクリーっつーのは、要は擬態ってことだ」
「擬態……。えっ、ってことは、この地面も草も木も全部がモンスターってことですか!?」
「そこまでは知らん。ただ、その可能性もある。ふむ、ここであれこれ論じるよりも直接試してみたほうが早いだろう」
そういうと山本さんはロングソードを鞘から抜いて、渾身の力で地面に突き刺した!
「フンッ!!」
ザグッ!!
「……」
「……」
「……なにも、起きませんね」
「ふむ。つまりここは安全ということだな。となると、怪しいのは第3層の『黄金の木』か? 天海最中。俺はこのまま第3層まで向かうが、お前はどうする?」
「どうするって、そりゃもちろん行きますよ! なんたって今日の目的は『黄金の木』なんですからね。でも山本さん、ホールの場所分かるんですか?」
私が聞くと、山本さんはまたもやニヤリと笑う。
そして今度はスマホを取り出したよ。
「おー、三ノ宮か。そっちの様子はどうだ?」
三ノ宮さん……って確かもう一人の試験官の人だよね?
「ふむふむ、なるほどな。して、第3層に続くホールはどこにあるんだ? ……了解だ。それじゃ今からそっちに向かうから『黄金の木』の前で待っててくれ」
「あの、山本さん。もしかして三ノ宮さん、ここに来てるんですか?」
「まーな。俺と一緒に調査を言い渡されて、先に第3層に向かったんだ。ここから北東に約30分、そこにホールがあるそうだ。つーわけで俺は先に行かせてもらうぜ。いつまでも駄弁ってたら配信の邪魔になっちまうしな」
そう言って立ち去ろうとした山本さんだったけど、何かを思い出したかのか、すたすたとこちらに戻ってきたよ。
「危うく言い忘れるところだった。天海最中、調査への協力感謝する!」
「あ、ハイ。どういたしまして? ……ていうか、私も一緒に行っちゃダメですか? そりゃ山本さんからしてみればまだまだ弱いかもしれませんけど、このダンジョンでくらいなら自分の身は守れますし。こう見えて私、ちょっとは強くなったんですよ?」
「ふむ、俺としては人員が増えるのは有難いことこの上ないが……」
「それならぜひ同行させてください! お願いします!」
「まぁいいだろう。お前の「細かいことが気になる性格」、こういう場面では役に立つかもしれないしな」
「やった、ありがとうございます!!」
やったやった、これでもっと配信映えを狙えるね!
正直言うと第1層と第2層で黄金に慣れてきちゃって、『黄金の木』だけじゃインパクトが弱いかもって思ってたところなんだよね。
まさかここに来て山本さんに出会えるだなんてツイてたよ。
ここで活躍して、もっと面白い配信にできるように頑張っちゃうぞ!
#
周囲一帯に攻撃を繰り出しながら、山本さんが進んでいって、私とライムスはその後を追って歩いたよ。
山本さんは他の探索者に当たらないように、素早く的確に攻撃を繰り出す。大振りの一撃では斬撃が遠くまで伸びていって、大木を真っ二つに引き裂いてみせた。
「す、すごい……」
山本さんの攻撃を見て、コメントが大きく盛り上がる。特に、ランク予想が大きな盛り上がりを見せたね。
コメントは山本さんにも聞こえていて、山本さんはカメラの方を向くなり、「俺はAランクだ」と教えてくれた。
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1999
<Aランクってマジかよ!!
ぱる
<Sランクは特別だし、実質的には最高ランクですね。すごいです!
tomo.77
<言われてみれば見覚えあるかも……?
ジョン
<ミミクリーとなるとちょっと厄介だな
ザンギ
<太刀筋見れば納得もできる
あ あ
<山本さんカッケェ
ミク@1010
<ミミクリーは面倒だけど、Aランク探索者がいてくれるなら心強い!
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「ふぅむ、これがDtuberの感覚か。俺は配信なんてしないから、新鮮な気分だ」
「え、山本さんって配信やらないんですか?」
「まぁな。別にエンタメが嫌いってワケじゃないし否定するつもりもない。だが俺が探索者をやっているのには明確な目的があってのこと。目的を果たすためには寄り道などしてられんだろう」
なんて喋っている間にも探索は続き、山本さんの攻撃は周囲の大地や草木を切り裂いていく。しかし、これといった反応は無かったよ。
やっぱり第2層には擬態モンスターはいないみたいだね。
やがて、私と山本さんは第3層に続くホールの前までやってきたよ。
「そういえば、お前は『黄金の木』が目当てだと言っていたな?」
「はい、そうですけど。だって『黄金の木』なんて普通じゃお目にかかれませんからね。きっと配信映えするって思ったんです」
「なるほどな。だが、十分に注意することだ。おそらくこのダンジョンに生息している擬態モンスター、それこそが『黄金の木』だ。――そしてその他有象無象の黄金モンスターは、差し詰め探索者を釣るための撒き餌といったところだろう。あくまでお前の助言を受けたうえでの推測にはなるがな」
「撒き餌、ですか……」
確かに違和感はあった。
だって、モンスターは弱いのに、その肉体は黄金で出来ている。それに、いとも容易く黄金アイテムをドロップしてくれる。
言うなればローリスクハイリターン。
上手い話には裏があるっていうけど、まさにこのダンジョンがそうなのかもしれないね。
「分かりました。『黄金の木』には細心の注意を払います」
「それでいい。それじゃ、行くぞ」
「はい!!」
こうして私たちは第3層に続くホールを潜っていった。
そして第3層には、思いもよらぬ光景が広がっていた。
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