第56話 再会
「ねぇライムス。写真も撮れたことだし、軽く休憩しよっか」
『きゅいっ!』
「それじゃさっそく、ご飯の準備をはじめよう!」
ご飯とは言っても軽く済ませるけどね。
今日の目的は第3層に生えてる黄金の木。
それより先に進む予定は無いからね。
私はショルダーバッグを降ろして、軽食用に買ってきたカスクートを取り出した。
「ライムスの分はこれ。苺と生クリームのサンドイッチだよ」
『ぴぃっ!!』
「それじゃ、いただきまーす!」
はむっ、とカスクートを一口。
私が買ったのはカマンベールチーズとベーコンのカスクートだよ。
「んん~~、美味しぃ~! 噛み応えのあるフランスパンも最高だし、チーズとベーコンの相性が抜群だよ。レタスも厚みがあってシャキシャキ食感が楽しいね!」
黄金の泉の景色と相まって、ちょっとリッチな気分だよ。
『ぴぴぃっ!』
「ん、どうしたの……って、ええっ!?」
ライムスが呼びかけてきたので何事かと思ったら、あっという間にサンドイッチを食べちゃったみたいだね。
二つ入りだから良かったけど、まさかこんな早くに食べちゃうだなんて驚きだよ。ていうか、ほぼ丸呑みなんじゃ……?
「ライムス、そんなに美味しかったの?」
『きゅい!』
「ん-? ケーキみたいで最高だって? ま、使ってる材料がほとんどケーキと同じだもんねぇ。はいどうぞ、あ~ん♪」
『ぴきゅっ!』
ライムスは大口を開けて、一口で半分以上も食べちゃったよ。そりゃあっという間に無くなっちゃうわけだね。
『ぴきゅぅ~~~っ』
「ふふっ、そんなにぷるぷるしちゃって可愛いんだから。その様子だと相当気に入ったみたいだね?」
『きゅう!!』
「よしよし。それじゃまた近いうちに買ってあげるよ。ライムスの朝食メニューに追加しておこうね」
『きゅるぅっ!!』
「わお! ちょっとライムス、いきなり飛び掛かってきたら危ないよ。私のパンが落ちちゃうでしょ~?」
よっぽど嬉しかったのか、ライムスが飛び掛かってきて、頬ずりまで始めたよ。
「あははっ、そんなにしたら食べづらいよぉ~」
ライムスってば喜びすぎだよ!
でもまぁ、これはこれで良いシーンが取れたかも?
ま、私からしてみればライムスが映ってるだけで全部最高のシーンなんだけどね。
#
「ふぅ、美味しかった。ご馳走様~。さてと、腹ごしらえも済んだことだし、さっそく探索再開だよ!」
『きゅぴーーっ!!』
休憩スポットを出てから約10分。
川沿いを進んで行ったところに、見覚えのある後ろ姿があったよ。
見たところカメラマンは居ないみたいだしドローンも飛んでない。ということは配信はしてないってことだね。
ちょっと声をかけてみようか。
「あの、スミマセン」
声を掛けてみると、男の人は青髪を掻き上げながらこちらに振り向いた。
「あ、やっぱりそうだ。えっと、山本さん……ですよね?」
山本さんは魔物使いの試練のときに試験官をやっていた人だよ。
「うおぁっ!?? お前、天海最中じゃねーか!? まさかこんなところで出会うなんて思いもしなかったぜ」
「えへへ、私もですよ」
「お前の活躍は聞いてるぜ。他の受験者と比べて頭一つ抜けてるとは思っていたが、まさかこんなに早く才能を開花させるとはな。その様子だと今日も配信を頑張ってるみたいだな?」
「私としてはやりたいことをやってるだけで、頑張ってるって感じはあまりしてないんですけどね。それもこれも、周りの人がサポートしてくれるお陰ですよ。感謝しなきゃですね! それで、山本さんはどうしてここに?」
山本さんの装備は鉄の肘当てと鉄の膝当て、それからロングソード。他には腰に括り付けられた布袋と、至ってシンプルだよ。
ドロップした黄金アイテムを持ち帰るにしては軽装過ぎるし、かといって配信の様子もない。
レベリング……の線は考えづらいよね。
だって山本さんは試験官を任されるくらいだし、そのレベルの探索者にとっては低ランクモンスターの経験値なんてあって無いようなものでしょ?
「ん~、なんて言ったらいいんだろうな。ちょっと説明が難しい気もするが、強いて言うなら調査ってところかな」
「調査?」
「ん-、なんて言うかなぁ。そういえばお前、やけに勘が鋭かったよな。なぁ、一つ聞きたいことがあるんだが」
「聞きたいこと、ですか?」
「ああ。このダンジョンについてなんだが――。なんでもいい。何か違和感は感じなかったか? あそこがおかしいなとか、嫌な予感がするなとか」
違和感?
う~ん、どうだったかな。
「どんなに些細なことでもいい。なんかこう、妙だと思ったことは無かったか?」
「え~と……。そう言われてみれば、ちょっと出来すぎだな~とは思いましたけど」
「出来すぎ、というと?」
「う~ん、なんというか。都合が良すぎる気がするんですよね、このダンジョン。気候も地形も穏やかだしモンスターも弱い。それなのにドロップするアイテムは高級。うん、やっぱりいくらなんでも都合良すぎですよこれは。それと、モンスターが他のダンジョンに比べて少し賢いな~とも思いました」
「ふむ、なるほど。いやはや、これは良い話を聞けたな。俺の抱いていた疑惑がこんな形で補強されることになるとは」
「疑惑、と言いますと?」
私が聞くと、山本さんはニヤリとイタズラな笑みを浮かべた。
試練のときも同じこと思ったけど、これまた「ドッキリ大成功!」とか言い出しそうな感じだよ。
もしかして山本さん、人を驚かせるのが好きなのかな?
そんな予想通り、山本さんは「聞いて驚け」だなんて前置きをしてきたよ。
やっぱり人を驚かせるのが好きなんだね。
「これはあくまでも仮説だが、おそらくこのダンジョンはミミクリーだ!」
「ミミクリー……って、なんですか?」
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