第27話 緊急レイドクエスト・ゴミ捨ての瞬間!
「まぐいスライム?」
まぐいって、なんだろう。
「なんでも、そのスライムは魔物を食べてしまうらしくてね。情報によると、イレギュラーを捕食したんじゃないかって疑惑もあるらしいよ。でもそんなのっておかしいでしょう? だってスライムと言ったら最弱の魔物って言われているんだもの。そんなのがイレギュラーを食べちゃうなんて、私にはちょっと信じられない」
あ、まぐいは魔喰いってことみたいだね。
たしかに、スライムって一番弱いモンスターだもんねぇ。
それなのに他のモンスターを食べちゃうのはちょっと怖いかも?
私は想像してみる。
目の前に出現したスライムが他のモンスターに襲い掛かる姿を。
うん、やっぱりちょっと怖い。
ライムスは家族だから怖くないけど、野生スライムとなると、一線を引いてしまうよね。
そもそもモンスター同士って戦ったりするの?
そういうのってあんまり聞かないけど。
なんて考えていると、前に居た探索者が次々とホールを潜っていく。
「あっ、私たちも行かないと」
私たちも置いて行かれないようにホールを潜った。
第2層も、第1層と同じような天井の高い洞窟が続いていたよ。
「このかわい子ちゃん、君のペットだね? スライムにしては強かったけど、もしかしてこの子がウワサの……」
『ぴきゅい?』
「いやいや、それはあり得ないよ。だって私もライムスもイレギュラーに遭ったことすらないからね」
「だよねぇ。へへ、ごめんね? お金に目が眩んで失礼なこと言っちゃったかも」
お金に目が眩んで?
どういうこと?
「あ、ごめんごめん、勝手に話を進めちゃったね。実は今、とあるサイトで情報提供を呼び掛ける声が上がってるんだ。それが魔喰いスライムのことだね。なんと、見つけた人には報酬1000万だって!」
わおっ、1000万!?
「それは舞い上がっちゃうね。ツチノコ探しみたいで面白そう」
「でしょー? ま、所詮はウワサだし、真に受けてる人なんて殆どいないけどね。――そんなことよりさ、その子のことちょっとぷにぷにしてもいい?」
「もしかして、そっちが本当の狙い?」
「えへへ、バレちゃったか」
#
「私は新川日向。Eランク探索者で、職業は双刃使い。こっちが相棒のエッヂ・オブ・アイス。で、こっちがスラッシュ・オブ・ファイア。格好良いでしょ」
日向ちゃんは腰に括り付けた鞘から二本の短剣を引き抜いて、くるくると器用に回転させた。
あまりにもきれいな指捌きで、つい見惚れてしまったよ。
私にとってのライムスが、日向さんにとっての武器なのかもしれないね。
「私は天海最中。この子はペットのライムスだよ」
私は彼女にライムスを手渡して、ぷにぷにさせてあげた。
「ほわぁ~~、癒されるぅ~~~」
「でしょでしょ!? ライムスの癒し効果はすごいんだよ!」
っと、ライムス自慢もほどほどにしないとだね。
第2層に潜って数分。
またもやゴブリンの群れが現れたよ。
さっきと違って、ゴブリン・ビッグもいるね。
ゴブリン・リーダーほどじゃないけど、大きくて威圧感もあるんだよね。
でも、力は普通のゴブリンと変わらないんだけど。
「さぁ、モンスターの群れが現れたぞ! これは競争だ。功績は早い者勝ちだぞっ!」
池田さんの号令を受けて、私たちはゴブリンの群れに突撃していく。
「ライムス、あのでっかいのは避けて戦うよ!」
『きゅぴーーっ!』
『ゴブゴブッ!』
「てやあっ!」
ガキィンッ!
ガンッ!
キィンッ!!
「うっ、なんかさっきよりも強いかも??」
そう言えば、モンスターって下層に行くほどレベルが上がるっていうよね。
さっきまでのはLv1のゴブリンで、ここにいるのはLv2とかLv3なのかもしれないね。
「ライムス、さっきのゴブリンより強いから気を付けて!」
『ぴゆぅっ!!』
「って、もう倒してる? やっぱりライムスはすごいや!」
私も負けてられないよ!
もっと力を込めて、攻撃の勢いを強めないと。
「おりゃあっ!」
『ゴガバァッ!』
ぽふんっ!
「そこだ、くらえっ!」
ドゴッ!!
『ゴブフゥッ!』
ぽふんっ!
ゴブリンの群れとの戦闘が終わると、私は体力回復ポーションでHPを回復させた。
やっぱり数が多いから、どうしてもダメージは受けちゃうね。
他にもポーションを使ってる人がいたから、攻撃を受けたのは私だけじゃなかったんだねとちょっと安心。
「こっちも数は多いけど、相手も中々だねぇ」
ポーションを飲みながら、日向ちゃんが語り掛けてくる。
いつの間にかフードを取り払っていて、顔が見えるようになっていた。
日向ちゃんは意外と童顔でカワイイ系だった。
でも動きやすさ重視でタンクトップ&ホットパンツって格好だから、おへそが見えててちょっとセクシーだね。
「確かに数は互角だけど、私たちは回復アイテムがあるからね。きっと勝てるよ!」
「うん、そうだよね。私もそう思う!」
そうやって話していると。
かららぁん……。
一人の大柄な探索者が、ぽいっとポーションの空き瓶を捨ててしまった。
「ちょっとちょっと、なにしてんのさっ??」
私が注意すると、彼は面倒くさそうに舌打ちして、睨みつけてくる。
でも、そんなふうに睨んできても怖くないもんね。
それに、舌打ちしたいのは私のほうだよ!
お行儀悪いからしないけどさっ!
「なんだァ、嬢ちゃん? 俺ァDランクだぜ? どーせここにいるのはFランクかEランクばかり。そんな雑魚が俺に文句つけようってのか?」
「ランクなんて関係ないでしょ! とにかく、ゴミのポイ捨てはダメだよ」
ダンジョンに捨てられたゴミがその後どうなるか。
それを知っている人は誰もいない。
でも、ある学者さんはこんなことを言っていたよ。
「ダンジョン消滅後、ダンジョン内の人工物は全て一時的に消滅する。でも、ツケってのは必ず払わなきゃならないものさ。そうだねぇ、いつかは『空』からゴミが降って来るんじゃないか?」
所詮は一つの説に過ぎないかもしれないけど、私はこの説を少しだけ信じているよ。
「そーだそーだ! ゴミをポイ捨てするなんてサイテー!」
隣にやって来た日向ちゃんも援護射撃を繰り出す。
「うるせーヤツらだな。そんなに俺の強化超拳をくらいたいのか。だったらお望み通りにしてやるよっ!!」
ぐわっ、と魔力を込めた拳が振り上げられて、頑強そうな握り拳が私の眼前に迫る――その瞬間。
ガッ!!
と、拳が静止した。
「そのヘンにしときな、兄ちゃん。もし最中さんに傷でもつけたら、俺たちがタダじゃおかねーぜ」
ギュッと瞑った目を開けると、そこに居たのはギルさんだった!
「わあ、ギルさん! どうしてここにいるの? ギルさんは攻略配信しないはずじゃ?」
「どうしても何も……ブレイク間近ってなったら、協力するしかない……」
ギルさんの後ろからひょこっとやってきたのはユーリちゃん。
まさかユーリちゃんまで来てただなんて!
「本当はケンジとミレイも来る予定だったけど……抽選外れちゃったから……」
「むしろ俺のほうが驚かされたよ。まさか最中さんが来ているとはね」
ギルさんは爽やかなスマイルを向けながら、片手で大男の腕を掴んでいた。
「ぅぐっ、なんだこのデタラメなパワーは!」
「最中さんに謝れ。そしてちゃんとゴミを拾うんだ」
「ふざけんなや! 俺は探索者歴1ヶ月でDランクになった天才――」
『ぴきぃーーーっ!!』
「もがぅっ!??」
1ヶ月でDランクになった天才さんだけど、その顔面にライムスが飛びついてしまったよ。
ライムスは私が殴られそうになったから怒ってくれてるんだね。
『ぴきゅいっ!』
「ふもっ、もごぁー!??」
「ははははっ、こいつは傑作だな! ま、最中さんに危害を加えようとしたら、そりゃこうなるよな!」
「ライムスちゃん……激おこ! でも、激おこなのも可愛い……」
「君、気が合うね。私もそう思って、ついさっきぷにぷにさせてもらったんだよ!」
「え、いいな……。私も、ぷにぷにしたい……」
なんか、日向ちゃんとユーリちゃんが仲良くなってるよ……。
「ライムス、そこまでにしてあげて。窒息で死んじゃうよ」
『ぴきゅっ!』
解放されると、自称天才さんは膝から崩れ落ちてゼーハーゼーハーと肩で息をしていたよ。
目尻からは涙が出てて苦しそう。
「クソ、拾えばいいんだろ拾えば。ったく、たかがゴミの一つや二つでぐちぐち言いやがって!」
「分かってくれて良かったです。これからも、ゴミは捨てないようにしてくださいね?」
私が微笑みかけると、自称天才さんは逃げるように別のグループのほうに走っていった。
「ライムス、私のために怒ってくれてありがとうね?」
『きゅいーっ』
ありがとうのナデナデをしてあげると、ライムスは嬉しそうにぽよよんっと弾んでいたよ。
そんなライムスの姿を見て、私たち4人の声が重なった。
「「「「かわいい……」」」」




