第26話 緊急レイドクエスト・魔喰いのウワサ
「これより、緊急レイドの作戦を通達する!」
いま話してるのは池田さんだね。
サラサラとした黒い長髪で、衣服はチャイナドレス。めちゃくちゃスタイルが良いから、すごく似合っているよ。
あのチャイナドレスは攻撃力と素早さを上げてくれる装備品なんだって。
ちょっと調べてみたけど、池田さんは肉弾戦が得意みたいだね。
アクション俳優みたいに、カンフースタイルで戦うらしいよ。
「本来、レイドクエストでのダンジョン配信は控えたほうがいいと言われている。なぜなら、討伐隊の連携に支障が生じるからだ。しかし、今回は積極的に配信活動を行ってほしい。そのために必要な機材は全て用意してある!」
すると、一人の探索者が手を上げた。
「あの、どうして配信を行う必要があるのですか? いま池田さんが言ったとおり、レイドクエストでのダンジョン配信は危険だと思いますが」
「理由は単純だ。今回のターゲット『ゴブリン・アサシン』、ヤツは隠密行動と回避行動を得意としている。であれば、”目”は多いに越したことはないだろう?」
なるほど。
そういうことなら、たしかに理に適ってるよね。
「そういうことでしたら納得です! ご回答感謝しますっ!」
「よろしい。では続きだ。我々はダンジョン配信を行いながら、1フロアの踏破に5分~10分かける予定だ。当初、雑魚は無視して一気に最下層まで突っ切る予定だったが、それでは諸君の実力が見えてこない。それに視聴者も集まってこないだろうしな。――レベルというのはあくまで指標でしかない。センスのある者ならばレベル10でも格上を倒すし、逆に、レベルが20を超えているにも関わらず格下に負ける者もいる。1層から3層までで諸君らの実力を見極め、適切なチームを4~5組編成、最下層にて『ゴブリン・アサシン』を叩く。いいな!」
こうして。
私の人生初のレイドクエストが、幕を開ける!
#
「えー、というわけで、今日はレイドクエストに来てます! ねぇみんな見てよ、こんなに多くの探索者がいるんだよ? 凄くない!?」
ホールに潜る前、私たちには小型の物体が渡されたよ。
触った感じ、それは鉄っぽくて、重量感もある。
見た目は完全にトンボだね。
虫のトンボ。
あれをそのままフィギュアにしたみたいなのが与えられた。
結城さんが言うには、それは超高性能のダンジョンカメラなんだって!
実際、スマホを設定すると同期させることができたよ。
超小型で精密な行動ができるうえ、防御性能も高く、飛行能力も一級品。
しかも声紋認証で声を登録すると、その声を集音して拡散するのを防いでくれるんだって。
どういうことかというと、洞窟なのに声が響かない!
環境に左右されることなく常に一定の配信をお届けできるということで、上級探索者からは大人気なんだとか。
直接的な攻撃性能は無いけど、モンスターだけに効果がある催涙ガスを出したり、刺激臭を発したりもできるらしいよ。
そして一番の特徴が、サーモグラフィカメラが搭載された眼球部分。通称、サーモ・アイズ。
この眼に掛かれば『ゴブリン・アサシン』の隠密行動もお見通しってわけだね!
――――――――――――――――――――
tomo.77
<こんにちは~。レイドクエストはやっぱ人多いなぁ
ミク@1010
<タグにレイド付いててビックリしたけどEランクか、ちょっと安心(笑)
たなか家の長男
<おー、今日はレイドか
らんまる
<初見です。レイドタグ付いてたので来てみました
ジョン
<急にレイド配信増えたと思ったらブレイク近いのか
ぱる
<初見です
ぱる
<レイド楽しみ
ミク@1010
<レイド配信はわちゃわちゃするから面白いよね
上ちゃん
<来たよ~。獲物の取り合い見れるかな。アレおもろいんよね
No.13
<これって指定番号167ホールだよね? 東池袋の。ブレイク近いって言うしちょっと心配だなぁ
――――――――――――――――――――
「確かに初めてのレイドだしちょっと不安だけど大丈夫! こんなにいっぱい探索者がいるし、リーダーはC級だもん。それに、私にはライムスがいるからね。ねー?」
『ぴきゅいっ!!』
「下層に続くホールを発見しました! 距離にしておよそ1キロ。ま、視聴者が増えるまでの時間も必要ですし、のんびり行きましょう。……っと、さっそくモンスターの群れが出たようですね。さぁ、皆さんの力を存分に示してくださいッ!!」
結城さんの号令を受けて、私たちは一斉に臨戦態勢に入った。
「行くよライムス!」
『きゅぴぃーーっ!!』
現れたのは、ゴブリン・アイスやゴブリン・ファイア、ゴブリン・ロックにゴブリン・ナイトにゴブリン・ガードナー。
ここはたくさんのゴブリンが出るエリアみたいだね。
「ライムス、炎のゴブリンと氷のゴブリンを狙っていくよ!」
『ぴきぃっ!!』
ゴブリン・ファイアとゴブリン・アイスは魔法を使うゴブリンだよ。
魔法攻撃はちょっと怖いから、早いうちに倒しておきたいよね。
それに、私の武器は鉄の棒。
近接が得意なゴブリン・ナイトや、防御の高いゴブリン・ロック、ゴブリン・ガードナーと戦うのは得策じゃないから。
ああいうのは魔法が苦手だから、魔法が使える人に任せればいいよね。
「てやーっ!」
私が鉄の棒を振りかぶると、ゴブリン・ファイアは詠唱を止めて、樫の杖で防御態勢を取った。
やっぱり魔法を使うゴブリンはちょっと臆病みたいだね。
ドガッ!
『ゴブゥッ!』
「えい、もう一発!」
ゴン!
『グバァーーッ!!』
私が二回攻撃すると、ゴブリン・ファイアは煙になって消えたよ。
「よし、まずは一匹!」
ガッツポーズの傍ら、ライムスの様子を見てみると。
『きゅぴぴゅい~~っ!!』
ドドドドッッ!!
『ゴブァッ!!』
『ゴブヒェ~~!』
『オイヮ~ッ!』
ぽふんっ!
ぽふんっ!
ぽふんっ!
「わわ、ライムス凄いね! 体当たり攻撃で3匹も倒しちゃったよ!」
『きゅゆいっ!』
「そっか、テイムのお陰で力が上がったんだね! よ~し、この調子でドンドン貢献するよ!」
『ぴき~~っ!』
それからも私とライムスは他の探索者と競うようにモンスターをやっつけて、次々と功績を上げていったよ。
ダンジョンに潜ってから約10分後。
私たち探索者は、2層へ続くホールの前までやってきた。
そしていよいよ2層に潜ろうかという時になって。
「ちょっとそこの君、少しいいかな?」
フードを深く被った探索者が、私のほうにやってきた。
「え? 私ですか?」
「うん。ちょっと気になることがあってね。2層からは一緒に行動してくれないかな?」
「気になること?」
するとフードの探索者は声を小さくして、ヒソヒソ声で耳打ちしてきたよ。
「最近、魔喰いスライムっていうのがウワサになってるんだけど、心当たりとか無い?」
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