第117話 決着
ラウンジに戻ったあと、伊藤さんは要所要所をぼかしながら作戦のあらましを説明したよ。
「5時間の尋問……。私なら、耐えられない…………」
「ていうかそれって普通に人権侵害だよね~」
「伊藤さん、よく耐え抜きましたね」
「筋肉は俺のが上だが、精神力は分からねーなッ!!」
ギルさん一行と伊藤さんが戯れる傍らで、フーラちゃんたちが駆け寄ってきて心配そうな顔を向けてきたよ。
「もしかして、モナちゃんも尋問を受けてたってことはないよね!?」
「もしそんなことがあったのなら、私は絶対に許さないがな」
「ふらんもだよ! じんもんとか難しいのは分からないけど、友達が酷いことされたら許さないもん!」
「みんな、心配してくれてありがとう。でも大丈夫。私は尋問されてないよ。ていうかそんなことされた日にはライムスが激おこになって大変なことになっちゃうだろうね」
「あー……たしかに」
「そうだな。例えば取調室が膨張したライムスくんで圧迫されて――うん、これ以上は考えないことにしよう」
「えへへへ、よかったぁ~。ライムスきゅんがいてくれてよかったね、モナちゃん!」
「ふふっ、そうだね!」
田部さんと内山さんが上層部の人と相談した結果、伊藤さんの作戦は明日の朝9時~10時にかけて決行されることになったよ。
というのも、今から動画を投稿しても既に寝ている人もいるかもしれないし、なにより相沢さんが開いた緊急記者会見の話題性が大きすぎるからね。
一晩経って少し落ち着いた頃に爆弾を投下する、というのがサニーライトさんの決断だよ。
かくして迎えた翌朝の9時。
私たちはそれぞれのアカウントを使用して、伊藤さんが尋問されている様子を世間に向けて発信したよ。
―――――――――――――――
――伊藤さん。何度も言いますが、状況証拠はこれだけ揃っているんです。
――この書き込みは私が仕掛けたトラップでした。アナタはこの書き込み以降の流れを危惧し、疑惑を払拭するために天海最中さんと接触した。反論があればどうぞ?
――まさかその僅か数分前に、天海最中さんがゴブリン・リーダーの核を売却していたとは
――さてと。このゴブリン・リーダーの核はどこから出てきたんでしょうね?
―――――――――――――――
取調室にいるのは土門さんと相沢さん、そして伊藤さん。
さらに、相沢さんの口から幾度となく発せられる「天海最中」という名前。
動画は瞬く間に拡散されていって、探索者協会側の疑惑は深まり、そこから数珠繋ぎ式に例のサーバーダウン攻撃も探索者協会が仕掛けたものだと判明したよ。
ここまでくると相沢さんとしては完全に打つ手なしだろうね。
ちなみに伊藤さんの件だけれど、ほとんどの人が私と同じ意見だったよ。
やましいことがあるから逃げたというより、尋問に耐えかねて逃げたとの見方が圧倒的だね。
「やっぱり普通はそう思うよねぇ。伊藤さんは自分をニセモノだなんて言っていたけど、きっと錯乱してただけなんだよ。ね、ライムス?」
『きゅきゅいっ!』
それにしても田部さんの言う通りだったよ。
SNS社会においては数が強さに直結する。
民衆を取り込むことさえできれば国家権力ともやり合える。
……とはいえ多くの誹謗中傷が飛び交っているのも事実。正直、少し複雑な気分。
それからしばらくの時間が経って、気づけばあっという間に12時に差し掛かっていたよ。
私は何とも言えない気持ちを誤魔化すためにライムスをプニプニしながら、昼食は何にしようかなと考えるけれど、どうにも食欲がわかないね。
一方でライムスも気持ち良さそうにとろけていたよ。
ふふ、相変わらずかわいい子。
おかげで少し気が紛れたよ。
ありがとね、ライムス。
と、その時。
コーヒーカップを持った田部さんがこちらにやってきて、私の手前の席に腰を下ろしたよ。
「最中さん、どうぞ」
「あっ、ありがとうございます」
私は田部さんからコーヒーを受け取って一口啜る。
うん、やっぱりコーヒーは落ち着くね。
でもやっぱりどこかモヤモヤするんだよねぇ。
「浮かない顔をしていますね?」
「う~んと。説明が難しいんですけど、ちょっと複雑な気分といいますか? というのも、考えれば考えるほど今回の騒ぎにおいて悪い人っていうのが居なかった気がするんです」
「ふむふむ。続きをお聞きしても?」
「はい。悪人が居ないとは言っても、もちろん土門さんのことも相沢さんのことも許せません。私の大事な友達を脅しの道具に使ってきたんですからね。でも土門さん、8年前のことについて言及してたんです。それと、私がダンジョン・ブレイクを防いだことに関しても凄く感謝してたみたいで。きっと土門さん、8年前の現場に居たんですよね?」
「……えぇ。土門さんはあの日、一人の探索者として事態の収束にあたっていました。彼はSランクの力を存分に振るって多くの罪なき民間人を救ってみせた――しかしその代償として最愛の妻と娘を失ったのです。彼が相沢さんと出会ったのはその時です。以降、彼は人が変わったように仕事に没入し、そして今の地位に立っている」
「そう、だったんですね」
なにかあるとは思ってた。
けれど、まさかそんな悲しいことがあっただなんて。
でも、それでも私は土門さんのやり方が正しかったなんて思えない。
きっと、もっと穏便なやり方があったはずだよ。
「天海さん。これからどうしたいですか?」
「え?」
「私は天海さんをスカウトした人間として、天海さんの要望を可能な限り叶えたいと思っています。もう一度聞きます。天海さんはどうしたいですか?」
ネットを見れば、おびただしい数の罵詈雑言・誹謗中傷が飛び交っている。
どちらが勝つにせよ、敗者側がこういう扱いを受けるのは初めから分かっていたことだよね。
だって田部さんは言っていた。
これは「戦争」だと。
だから私も手加減なんてしないと誓ったよ。
でも決着がついたのなら。
勝負が終わったのなら。
これ以上、敵対する必要ってあるのかな?
「田部さん。会話の場を設けてもらえませんか? 私は、土門さんと相沢さんの二人と話がしたいです。一方的に脅されて、こっちの言い分なんて聞いてもらえなくて、お互いにお互いを敵視して憎しみあって攻撃して――そんなのって、なんだか悲しいって思うんです。話を聞いた限り二人とも根っからの悪人ってわけじゃない。やり方は間違えちゃったけれど、二人には二人なりの正義があったと思うんです。だから、ちゃんと話して和解できたらそれが一番だと思うんです」
私が思いを吐き出すと、田部さんは満足したように微笑んでから金色のカードを取り出したよ。
「そ、それってっ!!」
「緊急招致命令。天海さんの意向によっては握り潰すつもりでしたが、その必要は無さそうですね。今回の差出人は協会ではなく土門さんからとなっています」
「土門さん!? っていうことは須ど――」
私は叫びそうになって、それから一呼吸おいて小声で問い掛けた。
「須藤さんはどうなったんですか?」
「もちろん無事ですよ。まぁ、我々のほうで決着をつけたわけですし、それ以上争う必要がなくなったんでしょう。というわけで今、副会長室には土門さんと相沢さん、それから須藤さんが揃っているようですよ」
「土門さんたちも、私と話したいってことなんでしょうか?」
「ええ、そう考えて間違いないでしょう。協会までは私が案内しますので、そこから先は……思いの丈を全部ぶつけてきてください。実のところ、私も同意見なんですよ。今回の一件に悪者はいなかった。それが私の――我々サニーライトの総意です」
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