第112話 まさかのサプライズゲスト!?
ダンジョンを終えてサニーライトさんが用意してくれたホテルに到着した頃には、時刻は既に20時を過ぎていた。
ちなみに迎えの車は本来なら私を乗せる分だけでいいハズなのに、なぜか3台も来ていたよ。
そのうちの一台は田部さんが運転していて、曰く「いざという時にかく乱できるように」とのこと。
そこまで先のことを見据えて行動するだなんて、流石は田部さんだね。
「それにしてもラッキーでしたよ」
「え、どういうことですか?」
私の問いに、田部さんはだってそうでしょう? と答える。
「相手は天海さんの友人を人質に取るような輩ですよ? 交渉材料が足りないようであれば、他の人間にも危害を加えかねなかった……流石にあり得ないと信じたいですが、追い詰められれば天海さんの交友関係を洗い出して拉致監禁。そんな事態も考えられたんです」
「そ、そんな!?」
拉致監禁!?
うう、いくら土門さんでもそんなひどいことはしないって信じたいよ。
でも、土門さんすごく必死だったし……。
「ですがその可能性は著しく低くなりました。なぜなら、今こうして皆さんが集まって下さったからです」
すると田部さんは一人一人の顔をぐるりと見回して、深く頭を下げたよ。
「皆さん。我々の都合でしかないことは重々承知なのですが、その上でお願いが――」
「しばらくの間サニーライトさんのほうで匿わせてほしい、ですよね? 俺は構いませんよ。今はタレント関係の仕事も全部断ってますし」
伊藤さんに続いて、他のみんなも次々と納得してくれたよ。
「ま、万が一にでも足手纏いになるくらいなら、そっちのほうがよっぽど安全だわな。ケンジ、リーダーとしてどう思う?」
「僕も同感ですね。ということでミレイ、ユーリ。二人にも強制的に従ってもらいますよ。ちなみにこれはリーダー権限、逆らうことは――」
「言われるまでもないってば。私たちだってモナちゃん困らせたくないしね~」
「うん……。それに、二人と一緒にいられるの……嬉しい……」
ううう、みんなぁ~~。
きっとプライベートとかいろいろ都合があっただろうに、私とライムスのためにここまで言ってくれるだなんて。
やっぱり持つべきは友達だね!
「私も、お姉さんのためならいいよ。カマちょもライムスくんと、遊びたいと思うし」
「俺も構わねぇぜ。なんたって友達が脅されてるって話らしいしな。友達の友達、それってもう友達みてーなモンだろ、がわはははっ!!」
「リボンちゃん、それに伊賀さんまで!」
実はその友達ってのが二人のことなんだけど、この秘密だけはなんとしてでも死守しないとだね!
いたずらに怖がらせちゃうし、変な罪悪感を持たせちゃうかもしれない。
友達として、そんなのは絶対にイヤだからね。
かくしてそれぞれの了承を得た田部さんは、みんなを車に乗せてサニーライトさんが所属するラグジュアリーホテルまでやってきたよ。
案内されたのは地上約200メートル、屋上に最も近いフロア。
「皆様にはパンフレットをお渡ししておきますので、時間のある際に目を通しておいてください。特に、このフロアに関しては秘密の抜け道もありますからね。そこを介せば屋上までは1分と掛からずに辿り着けますから」
「屋上に行って、それからは?」
ギルさんに尋ねられて、田部さんは人差し指を立ててクルクルと回転させたよ。まるでプロペラみたいに……って、プロペラ?
え、まさか。
「緊急事態には屋上からヘリを使って脱出します。皆様の身の安全はサニーライトが責任を持って保証いたしますので、ご安心ください」
「ヘリコプターときたか。スケールが段違いだね」
伊藤さんが呆れたように肩を竦めると、日向ちゃんが私の横にやってきてぴょこぴょこと飛び跳ねていたよ。
「ねぇねぇ聞いた!? ヘリコプターだって、なんだかハリウッド映画みたいでワクワクしちゃう!」
「あ、あはは。たしかにちょっとビックリしちゃったね。でも、そんなことにはならないのが一番だよ」
そんなふうに雑談を交えながら、私たちは田部さんに案内されてあとをついていく。そして、それぞれに部屋が割り当てられたよ。
まずは田部さんと伊藤さんと伊賀さん、それからギルさんとケンジくんの五人で一部屋。
このホテルは上層階ともなると1ルーム150平米以上はあるから、複数人でも快適に生活できるというよ。
次にミレイちゃんとユーリちゃん、日向ちゃん、リボンちゃんで一部屋になったよ。
「ってアレ? あの、私は?」
私が疑問を口にすると同時に部屋の一室が開かれた。
そして姿を見せたのはショートカットの外跳ねヘアで、丸眼鏡を掛けた女性――広報部の内山さんだった!
「ふふ、お久しぶりです最中さん。最中さんの部屋はこちらです。それから当フロアのラウンジにおきましては、各自自由に使ってくださって構いません。レストランなども付随しておりますし、お値段は全てサニーライト持ちですので、どうぞリラックスしていってくださいませ。もちろん着替え等も用意してありますので、ご心配なく」
わぁぁ。内山さん、なんだかすごくメイドさんみたいな感じがするよ。これでメイド服を着てたら完璧だったのになぁ。
って、あまり気の抜けたことばかり考えてたらダメだよね。状況が状況なんだし、もっとシャキッとしなきゃ!
「ではそろそろ一時解散としましょうか。ああ、それから。皆様におきましては入浴に関しても無料かつ時間制限なしのVIP待遇となっておりますので、そちらのほうも気兼ねなくご利用ください。それと、こちらの魔道具をお渡ししておきますね」
そうして田部さんが手渡してきたのは青色に輝く小粒の水晶。
形状はイヤリングみたいになっていて、内山さんと田部さんはお手本を見せるようにそれを耳に装着したよ。
「テレパスの石――これまた随分とレアなモノを」
ぼそりとケンジくんが呟く。
テレパスの石……っていうことは、アレを装備するとテレパシーができるのかな?
「おや、ご存じでしたか」
すつと今度は伊藤さんが「ああ、それなら」と衣服の内側に手を入れて、全く同じものを取り出したよ。
「いやあ、俺って運が良くて。レアアイテムもけっこうドロップするんですよ。最中ちゃんの視聴者プレゼントも当選しちゃったくらいですし」
「ケンジ、これってなんなの?」
「名前通りのアイテムですよ。つまり、これがあれば万が一の事態に迅速に対応できる。なにせ心と心で会話ができるようになるのだから」
「いわゆる念話ってヤツだね?」
日向ちゃんに問われて、伊藤さんが「そのとおり!」と指を鳴らす。
それにしても魔道具って便利だねぇ。
須藤さんから借りた魔道具も獲得経験値をあげてくれたし。
私たちにとっては当たり前のダンジョンだけど、そこで手に入る宝物ってのはやっぱりすごいんだね。
「どうぞ、これは最中さんの分です」
「ありがとうございます」
私は内山さんからテレパスの石を受け取って、みんなと同じように装着したよ。
こうしてあらかたの準備が済んだ私たちはそれぞれが宿泊する部屋に入室した。
ちなみに内山さんは私と一緒の部屋みたいだね。
「それにしても、これだけの広さの部屋をたったの二人っていうのはちょっと変な感じがしますね」
『きゅぴい、ぴーっ!!』
「ん、僕もいるから二人じゃないでしょって? ふふっ、だとしても広すぎるよ」
すると内山さんは丸眼鏡のブリッジに中指を当てて、不敵な笑みを浮かべたよ。
「まあ、この部屋に泊まるのは私たちだけじゃないですからね」
「……えっ?」
その瞬間、私の背後から「「わっ!!」」と二つの声が飛んできて、私もライムスも飛び跳ねそうになってしまったよ。
「ひいいっ!! ビックリしたぁ。い、一体なんなんですか?」
私はライムスを抱きかかえたまま振り向く。
次の瞬間、ライムスが『ぴきゅ~~っ!!』と鳴きながら二人に目掛けて飛んでいったよ。
ニコニコと微笑む二人。
そして約一ヶ月振りの再会を喜ぶライムス。
「うぇっ、え、ええええええっ!?!??」
和やかな光景を前に、私は絶叫することしかできなかった。
「やあモナちゃん、話は聞かせてもらったよ。おっとと、それにしてもライムスは相変わらずって感じだなぁ」
「最中、ライムス。なんだか大変みたいだけれど、とりあえずは元気そうで安心したわ。今日の配信は私たちも見てたから、すごく心配してたのよ?」
「いや。いやいやいやっ、ちょっと待ってよ! どうしてお父さんとお母さんがここにいるのっ??!」
そんな私の疑問は華麗にスルーされて、お父さんもお母さんもライムスをモニュモニュするのに夢中になっていたよ。
そして当のライムスはあまりにも気持ちが良いのか顔がトロトロになっていた。
なんだかよく分からないけれど。
まぁ、ライムスがカワイイから一先ずはそれでヨシってことにしよう。
私は事情を聴くのは後回しにして、モニュモニュに参加したよ。
『ふにふに、ぴゆい、きゅーう、きゅぷい!』
そして気付いた時には内山さんまでもが参加していて。
「んにゅやあ~~、やっぱライムスきゅん可愛いすぎますよぉ~~~~っっ」
先ほどまでの杓子定規な態度はどこへやら?
いつの間にか内山さんは、素の自分を曝け出していたよ。
まぁ、ライムスってば可愛すぎるし?
こんなふうにぞっこんになっちゃう気持ち、すごーく理解できるけどね!




