第111話 集結する絆
「ふう、とりあえずはこんな感じでオッケーだね。ライムス、今日も配信お疲れ様!」
『きゅぴいっ!!』
私が両腕を広げると、ライムスはぴょこんっ! とジャンプして私の胸に飛び込んできてくれたよ。
う~ん、やっぱりこの弾力は堪らないね!
瑞々しくてぷよぷよで、そして少しひんや~りしてるのが気持ち良いんだよねぇ。
私は1分ちょっとの癒しタイムを経て体力を回復させたよ。
なんたって今日の配信は【緊急】探索者協会副会長さんとガチで喧嘩してみた【恫喝なんかに負けてたまるか!】なんてタイトルだったからね。
さすがに終始ドキドキだったよ。
でもリスナーさんには楽しんでほしいから、頑張って顔には出さないようにしてたけどね。
「それじゃ、そろそろ帰ろっか」
『きゅぴい!』
ま、帰るといっても場所はサニーライトさんが用意してくれた隠し家なんだけどね。
つい今しがた連絡があったけど、ダンジョンの外では既に迎えの車が来ているそうだよ。
それから、念には念をということで、このダンジョン内にもサニーライトさん御用達の上級探索者が潜んでいて、影から私を見守ってくれているんだって。
スカウトの時に聞かされたとおり、まさに至れり尽くせりの神対応!
あらためて「きららアカデミー」の一員になれて良かったと思うよ。
なんてことを考えながらライムスを抱いて歩いていると――。
「そこのキミ、ちょっといいかな?」
突如として呼び止められて。
私は「ひぅっ!??」などと素っ頓狂な声を出してしまった。
「な、ななな、なんでしょうかっ!?」
だ、誰だろうこの人?
どことなく見覚えがあるような気がするけれど、帽子を深く被ってるせいで顔が見えないよ。
それに上着は黒のロングコート。
下も黒のチノパンだし。
なんだか某探偵アニメの敵組織みたいな身なりをしているよ。
分かるのは細身で背の高い男の人だってことくらい。でもこの声、なんとなくだけど聞き覚えがあるような?
「ははは、そりゃ警戒もされるか。タイミングがタイミングだし、こんなに深く帽子を被ってたら顔も見えないだろうしね。衣服もいつもとは違うし」
そう言って男の人は目深に被ったキャップ帽子を取り外して、少し含羞んだように笑ったよ。
「やあ、久しぶり……って、前に会ったのは6月の初旬だしそれほど間は空いてないか」
「わ、わあっ! ビックリしたぁ~~」
そこに立っていたのはなんと、伊藤さんだった!
それだけじゃない。
伊藤さんは少し離れた太い大木に向かって手を振ると、そこからは見覚えのある顔が次から次へとこちらに向かってきてくれたよ。
「よお、久しぶりだな!」
「モナちゃ~ん、おひさ~~」
「ん……大変なことになってるけど、二人とも元気そうで……良かった……」
「それにしても、あそこまで挑発的なタイトルとサムネには驚きましたがね。さすがに少し笑ってしまいましたよ」
「わわわ、ギルさんにケンジくん! ミレイちゃんにユーリちゃんまで!?」
「だけじゃないよ~!」
私がギルさん一行との再会に驚いていると、いきなり後ろから目隠しされて、私は「ひぃ!」と情けない声を出してしまった。
そしてその声に反応したライムスが私の腕の中で驚いてビクリと身体を振るわせたよ。
ライムス、びっくりさせちゃってごめん!
私は心の中で謝りつつ、けらけらと笑う女の子の「だ~れだ?」という問いに頭をフル回転させたよ。
う~ん、この声も聞いた覚えがあるんだけどなぁ。
「え、えぇ。だ、誰かな~」
「まぁ一緒にダンジョンを攻略したのもたったの一回だけだし、忘れられてても文句は言えないけどさ。これで思い出せるかな?」
すると、私の両の頬っぺたに冷たい感触が二つ。
この感触は……短刀?
「一緒に攻略したのは一回だけ……短刀が二本、そしてこの声と喋り方。あっっ、もしかして日向ちゃん!?」
私が答えると目隠しが外されて、後ろを振り向くとそこにはやっぱり新川日向ちゃんがいたよ。
私と日向ちゃんが出会ったのは「緊急レイドクエスト」が発令されたとき。
あのときは日向ちゃんが「魔喰いスライムのウワサ」なんて言って私に声を掛けてきてくれたんだよ。
本当はライムスをぷにぷにしたいだけだって聞いた時は思わず笑っちゃったけどね。
「み、みんな……! どうしてここにいるんですか? っていうかなんで私がこのダンジョンにいるって分かったの!?」
すると伊藤さんは「あはは」と軽く笑ってみせたよ。
「こう見えて俺、かなり運が良くてね」
「ええ……。それだけで偶然ここに?」
「あまり詳しくは言えないけどね、運が絡んでいるのは確かさ。……たった一度とはいえ、俺は最中ちゃんとコラボ配信をした仲だ。それに一視聴者としてファンでもある」
一呼吸おいて、伊藤さんはさらに続ける。
「なにより、個人的に色々と思うところがあってね」
「えーと、それはどういう?」
「細かい話はいったん置いておこう。とにもかくにもそんなわけだから、最中ちゃんの配信が始まってからすぐに、可能な限りの声掛けをさせてもらって、影から見守っていたというワケさ。もちろん「きららアカデミー」のほうでも人員を割いているのだろうけれど、それにも限界があるだろう?」
ううう、まさかこんなにも集まってくれてるだなんて!
運が良いだけっていうのは釈然としないけれど、それでも私のためにみんなが動いてくれたことが凄く嬉しくて、私は今にも泣き出しそうになった。
そんな私の背後から、さらに二つの声が。
その声の主を見て、私は目玉が飛び出ちゃいそうなほどに驚いたよ。
だってそこにいたのは――。
「ふふ。私たちを忘れてもらったら、困っちゃうよ。ね、カマちょ?」
『キキキッ、チー!!」
「がわはははっ、俺とドラ吉もいるぜ!?」
『ががうっ、がおおーーっ!!』
え、え、えええええ~~~っ!?!??
「いっ、伊賀さん! それにリボンちゃんまで!?」
「おうっ、なんだ? 俺たちがいたら問題でもあるのか?」
「私たちだって、お姉さんの助けに、なれるよ!」
そ、そっか。
今回の配信では「友達を人質にされた」としか言っていないから、伊賀さんもリボンちゃんも自分のことだとは思ってないんだ!
ううう、なんだかすっごく複雑な気分だよ。
でも……でも、すごーく嬉しい!!
「みんな、私のために集まってくれてありがとう!!」
視線が嬉し涙でゆらゆらしているけれど、私はそれを悟られないように精一杯の笑顔を浮かべたよ。
でも、こんなに顔を赤くしてたら泣きそうになってるのなんてバレバレだよね。
ちょっと恥ずかしいけれど、でも、みんなのお陰ですごく元気が出てきたよ。
「ちなみに、既に「きららアカデミー」所属の三人娘からも声明が出ているね」
伊藤さんがこちらにスマホの画面を向ける。
続いてギルさんが「安心しな」と私の頭にポンと手を置いたよ。
「三人とも、最中さんのことを少しも疑っちゃいなかったぜ。もちろん俺たちもな! 探索者協会? 国家権力? それがなんだ。最中さんは俺たちの大切な友達だ。相手がどんなに強かろうが、俺たちは友達を傷つける奴は許さない。そうだろ、みんなっ!!」
ギルさんの一喝で、わいわいと大歓声が上がる。
相手は強大で、私に手を貸せば自分の立場が危うくなるかもしれない。
それなのに、みんなが私の「友達を守りたい」という気持ちに同調してここまで来てくれた。
私はライムスの頭を撫でながら、より一層決意を強くしたよ。
(私のためにも、そしてみんなのためにも。この勝負、絶対に勝ってみせる!!)
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