第108話 超ポジティブ・シンキング!
直後、ギュオオッ!! と車が加速して私の全身が思い切り座席に叩き付けられた。
「うっっ、わああ!??」
『ぴきぇええっ?!!』
ここ一般道だよ!?
こんなのって明らかに速度違反だよ!
それにライムスだって私の手の上でペチャンコになっちゃってるし!
なんて思いつつチラリと窓を見ると、同じくらいのスピードを出して猛追を仕掛けてきている車が2台あったよ。
この人たちが追手というわけだね?
「天海さん、しっかりと捕まっててくださいね。かなり荒くなりますから!」
「ひぅっ、ひゃい!!」
私は自分でも分かるくらいに情けない声を出しながら、目先の座席に両手を置いて体を支えたよ。
その直後、どういうワケか車体が斜めに傾いて、通常ではあり得ない軌道を描きながら路地裏へと侵入した。
一瞬だけ速度メーターに目を向けてみる。
するとそこには120という数字が。
「わあああ、ちょちょちょ、田部さぁん!!」
『ぴええええええっっ!!』
いくら追手から逃れる為とはいえ、こんな運転は危なすぎるよ! それに、もしもこの先に人がいたら――。
そんな私の不安は的中して、車の前方には自転車を押しながら歩くおばあちゃんの姿があったよ。
もうダメ、ぶつかっちゃうよ!!
けれど、それでもミラー越しに映る田部さんの口元には戦闘狂じみた笑みが浮かんでいた。
それどころか何を考えているのか、田部さんは更にアクセルを吹かして。
ブオオオオオオオンッッツ、パァンッ!!
え、なんか爆発みたいな音聞こえたんだけど!?
刹那、斜めに傾いていた車体は完全に垂直になって弧を描きながらコンクリート壁に沿って加速。勢いそのままに、空を飛んだ……ッ!!
ちなみに自転車を押していたおばあちゃんは、感心するように車体を見上げていたよ。
こ、こんなの絶対におかしい!
私が知ってる車ってこんな動きができる乗り物じゃないもん!!
数秒後、私たちは着地に際しての強烈な衝撃に見舞われた。けれど事前に田部さんが注意してくれていたおかげで、怪我とかはなかったよ。
路地を抜けると田部さんは更に車を加速させて、やがては見覚えのある複合商業施設が近付いてきた。
「この付近にダンジョンが出ているとのことですので、まずはそこで時間を潰しましょうか。発信機の類を取り付けられているわけでもありませんし、彼らも我々を見失ったとなれば今日のところは動けないでしょう」
「そ、そう、ですね……。それにしても田部さん、すごい運転、でしたね」
正直、あんな激しい運転の車に乗ったのは生まれて初めてだったから心臓バクバク。
いつだったか、須藤さんにお姫様抱っこで屋上から飛ばれた時のことを思い出したよ。
ライムスも相当にビックリしてたみたいだけど、私ほどではないね。今ではけろっと普段通りの顔を浮かべているよ。
ふふっ、さすがはライムスだね。
「そりゃまぁ、追手から逃げるためですからね」
そう言って田部さんはなにかのボタンをポチっと押すと「では行きましょうか」と車を降りた。
私たちも続いて車を降りると、いつの間にか車体の形が変わっていて、色も黒だったのが白になっていたよ。
「うわあ、凄いですねこの車。こんなことも出来ちゃうだなんて」
「もちろんナンバープレートの変更も可能ですよ。とはいえ、よほどの緊急事態でなければこのようなアウトローな真似はしませんがね」
こうして無事に追手から逃れた私たちは、ダンジョンに潜って、人の気配が少ない場所に隠れて時間を潰したよ。
その間に、私は事のあらましを田部さんに伝えた。
ちゃんと分かり易く伝えられたかは分からないけれど、それでも田部さんは真摯になって私の話を聞いてくれた。
なんだかたったそれだけのことで、すごく安心できてしまうね。
これが大人の包容力ってヤツなのかな?
って、私も立派な大人なんだけどね……。
「なるほど。確かに、土門さんは少しやりすぎる節が見られますからね。あの方が経験した過去を思えば掲げる理想を頭ごなしに否定するのも難しい。しかし、それとこれとは別問題。天海さんには自分の人生を歩む自由があるのですから」
「そ、そうですよね、まさに私もそう思ってたんですよ! 私なんかのどこに須藤さん並みの才能を見出したのかは分かりませんけど、友達を人質にして言うこと聞かせようなんて絶対に間違ってます。そんな横暴が許されていいワケがありません!」
『きゅい、きゅぴいっ!!』
私の怒りが伝わって、ライムスも激おこって感じだね。
「お二方の気持ちはよく分かりました。私個人としても土門さんのやり方には納得できない部分がありますし、出来る限りの協力はさせて頂きましょう。なにより天海さんもライムス君も「きららアカデミー」の大切な仲間ですからね。所属タレントを守らない事務所がどこにあるかって話ですよ!」
わあああっ!
な、なんて頼もしいんだろう!
「田部さん、ありがとうございます! 実を言うとすっごく不安だったんですけど、田部さんに相談できて本当に良かったです」
「ふふ、そう言ってもらえて光栄です。ところで、これからの話なんですけど――」
そう切り出すと田部さんは人差し指を立てて、今度は怪しい笑みを浮かべたよ。
うう。田部さんってすごく優しそうなのに、こんなにおっかない顔もできるんだね。
なんだか悪の組織の幹部みたいな雰囲気になってるよ。
田部さん、いったい何を企んでいるんだろう?
その答えは本人の口からすぐに明かされた。
「天海さん。今回の一件なんですけど、せっかくなので【エンタメ】にしてしまいませんか?」
一瞬何を言われたのか分からなくて、私は固まってしまう。ライムスも私の腕の中で四角形になっていたよ。
「……えっと。それは、どういうことですか?」
「つまりですね、この騒動を配信の企画にしてしまうんですよ。題して 【緊急】探索者協会副会長さんとガチで喧嘩してみた【恫喝なんかに負けてたまるか!】 みたいな感じですね」
「それ本気で言ってます?」
数秒の間を置いて、田部さんがニッコリと満面の笑顔で答えた。
「もちろん本気ですが?」
……なんとなく感じてはいたけれど、田部さんってすっっごくポジティブな性格みたいだね。
でも、なんだろう。
なんだかこういうのも悪くないかも? って思っている自分もいるよ。
「ふふっ」
気が付いたら、私は自然と笑ってしまっていた。
だってあんなに不安だったのに、まさか配信の企画にしちゃおうだなんてさ。
私一人じゃ絶対に考えつかないよ。
それに田部さんが口にしたタイトル。
私が視聴者だったら間違いなく見たくなっちゃうね!
「分かりました。確かにその方法ならリスナーさんも味方に付けられるし、一石二鳥ですもんね。田部さん、それでいきましょう!」
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