第107話 きららアカデミー人事部 田部壮也
今話から新章になります、よろしくお願いします!
ダンジョンを飛び出した私は、ライムスを脇に抱えた状態で必死に走っていたよ。
とにもかくにも、なるべく遠くに行かないと。
いつ土門さんたちが追ってくるか分からないからね。
それに、こうなった以上は妨害電波が意味を成さなくなった。
その気になれば土門さんはダンジョンの中から探索者協会の職員に指示を出して、私を確保する……なんてこともできるかもしれない。
私にできるのは「そうなりませんように」と祈りながら須藤さんの――影乃纏の強さを信じること。
そして一刻も早く、頼れる第三者に情報を共有すること!
「たしかに土門さんは偉い人かもしれない。実力もあって、日本の未来を真剣に考えているのかもしれない。でも、だからってそれが人の自由を奪っていい理由になんてなるはずがないよ。そうだよね、ライムス!」
『ぷゆいっ、きゅうーーっ!!』
ライムスは目を尖らせて、大きな声で鳴いたよ。
今回の件に関しては流石のライムスもすっごく怒ってるみたいだね。
その気持ち、私もすごーくよく分かるよ!
「悪いけど私、友達のことを人質に取ってきた土門さんと相沢さんのこと、絶対に許す気ないから!」
『ぴきゅーーーっ!!』
私は全速力で走りながら、右手で須藤さんのスマホをスワイプする。
名前を知っている探索者もいれば、そうでない探索者もいたものだから、正直なところ誰に連絡するのが一番いいのか全く分からないよ。
そんなとき、私は「た行」の一覧に見知った名前を見つけたよ。
そこには「田部壮也」と記されていて、私はギョっと目を見開いた。
「え、えええっ!? 須藤さんって田部さんと知り合いだったのっ!??」
田部さんは私が所属する『きららアカデミー』の人事部で、私にスカウトのメールをくれた人でもあるよ。
デビュー企画の時にも田部さんの助言があったから、私は緊張しすぎないで自然体に近い形で配信ができた。
そのおかげもあって、同接30000人という大きな目標を達成することができたんだよね。
私はスカウトメールを受けた時、それを詐欺かもと疑ってホームページにアクセスした。
その時に乗っていた田部さんのフルネームも「田部壮也」となっていたし、なにより同じ配信者・探索者界隈。
同姓同名の別人って線は薄そうだね。
私はすぐに確信を持ったよ。
私が頼るべきはこの人しかいないと。
「おやおや、これは随分と珍しいですね。まさかアナタから連絡を――」
声を聞いて私の確信は100%のものになった。
私は田部さんの声を遮って、一方的に切り出した。
普段なら無礼にあたるけれど、今回みたいなときは仕方ないよね。
「田部さん、私です! 天海最中です!!」
「っ!? 天海さん? なぜ影乃さんのスマホから天海さんが?」
「詳しいことを話している余裕は今はありません。でもお願いがあります! どうか私に力を貸してください。私と私の大切な友達を、どうか助けてくださいっ!!」
私がお願いすると、数秒の間もなく返答があったよ。
その声は優しくて暖かくて包容力があって、すごく頼りがいのあるもので。
「分かりました。すぐに迎えに行きますので、天海さんは今の自分がすべきことを最優先に行動してください。大丈夫、こう見えてマシン関係には強いんですよ? 天海さんの居場所の特定ならたったいま済ませましたから」
「あっ、ありがとうございます!!」
私は半ばパニック状態だというのに、田部さんはそんな私に対して終始落ち着いた余裕のある対応をしてくれたよ。
おかげで少しだけ心に余裕が戻ってきたよ。
「ライムス。居場所は田部さんが捕捉してくれてる。私たちはこのまま真っすぐに道を突っ切るよ!」
そうすればその先には田部さんが待っていてくれているんだと、不思議とそんな確信が持てたよ。
しかしその時――。
「いたぞ、天海最中だ!」
「いいかお前ら、絶対に逃がすなよ。これは相沢さんからの命令だからな」
「ああ、承知している。上層部からの命令とあらば、なんとしてでも完遂するのみだ」
ウソ、もう追手が来たの!?
相沢さんは須藤さんの攻撃で完全に気を失ったと思っていたけれど、どうやら思ってたよりもずっとしぶとかったみたいだね。
でも、みすみす捕まってあげるつもりはないよ!
「ライムス! 前に黄金の森でやったジャンプのヤツできる!?」
以前、黄金の森でコラボ配信をしたとき。
ライムスは自身を二匹に分裂させて、一匹の弾力をバネみたいにした超スピードの跳躍を見せてくれたよ。
追手の速さは私よりも上。
きっとレベルも高いんだと思う。
でもライムスの力があれば、きっと……!
『ぷゆいっ!!』
「ふふっ、さすがライムスだね!」
聞かれるまでもないよ!
ライムスはそんな顔つきで二匹に分裂して、そして――。
「え、ちょ。ライムス!?」
何を思ったのか、ライムスは私の両足に纏わり付いてきたよ。
『ぷゆい、きゅゆーーっ!!』
「え? 僕を信じてって?」
……そこまで言われたら信じるしかないよね。
だってライムスは私にとって最高の相棒で、最愛の家族なんだから!
するとライムスはギュウゥゥゥ……と自身の密度を高めて、次の瞬間には圧縮した密度を思いっきり開放してみせたよ。
そして私はというと、視線の端に映るビルが残像に感じられるほどのスピードで一気に前方へと飛び出していた……!
「うっ、うわあああああああああっっ!!!??」
「な、なにーーーーっ!??」
「なん、だと! なんだあのデタラメな早さは!」
「クソ。まさかスライムとの連携精度をあのレベルまで昇華させていたとはな。お前たち、一度撤退するぞ。我々ではあの速度に対応できん。どうやら今回の命令は「Aランク案件」のようだな……」
#
ギュンギュンと景色を置き去りにしながら、私はライムスの力を借りてビルとビルとの隙間を縫うようにを爆進していく。
すると突如として前方に黒色の車が現れて、
ギャルルルルッッ!!!!!
とてつもない摩擦音と同時に停止したよ。
そして数秒と経たないうちに、私の目の前には田部さんの姿があった。
「わわっ、危ない! 田部さん、避けてくだ――」
さい!!
と言い切るまでもなく、田部さんは軽々と私を抱き止めてみせた。
それからゆっくりと私を降ろして、優しく微笑みを向けてくれた。
「レベルに不釣り合いなスピードでしたが、なるほどどうして、ライムスくんとの連携でしたか。たくさん褒めてあげたいところではありますが、今は時間がないのでしょう? 天海さん、それからライムスくん。急いで車へ。詳しい話は後ほど伺います」
「はい、ありがとうございます!!」
『きゅぽいっ!!』
車に乗ってから、私はライムスを抱きしめてほっと一息吐いた。
安心するにはまだ早いかもしれない。
けれど、今は田部さんもいてくれる。
だからちょっとくらいは気を緩めても大丈夫だよね。
そんな私の意に反して、田部さんがピシャリと硬い口調で告げる。
「もう追手ですか。天海さん、しっかりとシートベルトを着用して、いつでも頭部を守れるようにしておいてください」
「へ?」
「それからライムス君。ちゃんと天海さんのことを守ってあげるんですよ?」
『きゅぴぴいっ!!』
すると田部さんはやや前のめりの姿勢になって、大きな声で宣言した。
「少し、飛ばしますよっ!!」
ふいにミラー越しに田部さんの口元が映る。
なぜかその口元はバトルマニアの人が強敵を前にしたときみたいに吊り上がっていたよ。
もしかしたら田部さんは、ハンドルを握ると人格が変わるタイプなのかもしれないね……。
私は田部さんに指示された通り、いつ衝撃が来ても大丈夫なように防御体勢を取った。
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