第103話 高級旅館の温泉へ!
『きゅい…………』
帰宅すると、ライムスが拗ねていた。
それはもう過去一番なんじゃないかってくらいで拗ねていたよ。
ダメなんだけど……絶対にダメなんだけど、こんな姿も可愛らしくて、思わず笑いそうになっちゃうよ。
「ごめんね、ライムス。まさかここまで時間がかかる試練だとは思わなかったんだよ~~」
とはいっても、まだ20時なんだけどね。
会社勤務の時はそれが当たり前だったから良かったけど、そうでなくなった今、以前のようにはいかないってことだね?
「ねぇねぇライムス。どうしたら機嫌を直してくれる?」
『……ぷゆ! ぷゆいっ、きゅーーっ!!』
「え? プール遊びにアイスクリームにダンジョン配信にナデナデに金色のダンジョンにおっきな温泉に……って、今までやったこと全部1日でやれって言うの!?」
『きゅいーーーっ!!』
「そんなの無理に決まってるじゃんか! あっ、でもね、明日は特別に高級な温泉に行くことになったんだよ?」
『ぴきゅい?』
「ほら、前に一緒にご飯食べた人がいるでしょ? モヒカンの人と大きなリボンを着けた女の子。あの人たちも合格したから、お祝いすることになったんだよ。この前のお祝いの時はね、ライムスはカマちょくんとドラ吉くんと一緒に遊んでたんだよ」
『きゅいきゅいっ!!』
「あの時はすっごく楽しかったから、また会いたいって?」
『きゅーー!!』
ふふっ、ライムスってば私と同じなんだね。
ちょっとやそっと時間が空いたって、友達だと思ったらちゃんと覚えてるんだ。
「明日はカマちょくんとドラ吉くんに会えるよ!」
『きゅ、きゅぅぅ……ぴっきゅーーーーっ!!』
ふふっ、ライムスってば大喜びだね。
「それとね、もう一つ嬉しいお知らせがあるんだよ?」
私はライムスを膝の上に抱きかかえて、優しくナデナデしてあげたよ。するとライムスはだんだんとトロけてきて、気持ち良さそうな顔をしてくれた。
『ぷゆ~?』
「うん。お知らせって言うのはね、試練に合格したってことなんだ」
『きゅう! ぴきゅい!』
「おめでとうって? ふふ、ありがとね、ライムス。そう言ってくれて嬉しいよ。これで私は魔物使いから魔物飼いになったんだねぇ。なんか、あまり実感が湧いてこないや」
でも、試練のおかげで大事なことを学べて、人としてもテイマーとしても大きな一歩を踏み出せたと思うよ。
私は今、こうしてライムスを抱きしめて、ナデナデして、お話している。それはすごく嬉しくて楽しくて幸せで――あまりにも幸すぎるから、ライムスには本当にありがとうって気持ちだけど。
でも、誰も彼もがこの幸せを享受できるわけじゃない。いま私の目の前にある幸福は決して当たり前なんかじゃない……そのことに気付くことができたよ。
だから、これまで以上にこの日常を大切にしようと思う。
私自身のためにも。
そして、ライムスのためにもね!
#
そして翌日。
私はライムスと一緒に大浴場に浸かっていた――!
「はぁ~~~、癒されるぅ~~」
「うん。本当に、最高。カマちょも、ライムスくんも、すっごく気持ち良さそう。えへへ。こうやって見てると、可愛すぎて、力が抜けちゃうね」
「ほんとだよねぇ。それにしても、みんなが合格できて本当に良かったよ」
「うん、ほんとに、そう思う。まあ、私の場合は結構ギリギリだったんだけど……」
「ギリギリでもスレスレでも合格は合格だよ!」
私とリボンちゃんが会話している傍らでは、ライムスとカマちょくんが仲良く温泉に浮いていたよ。
『キーキー! キィ~~』
『きゅい!』
『キー!』
『くゅー! ぴきゅい!』
『キキッ、キー!』
二匹で何かを話し合っているかと思えば、今度は温泉の縁まで向かって行って――。
バシャバシャバシャッ!!
『ぷゆ~~~っ!!』
『キィーーーッ!!』
わおっ!
ライムスとカマちょくんったら、泳ぎで競争を始めちゃったよ!
「リボンちゃん、今日はこの温泉を選んで大正解だったね」
「うん。他の温泉だったら、絶対怒られてる」
さて、どっちが勝つかな~?
そんなことを思いながら楽しみに経過を見ていると、二匹はいつの間にか競争をやめて、今度はお湯の掛け合いっこをしていたよ。
『きゅぴーー!』
ピュ~~~ッ!
ライムスは口から水鉄砲みたいにお湯を放出して、
『キキーー!』
カマちょくんは尻尾に水を含ませて、ブンブンと振り回して水を掛けていたよ。
「本当はドラ吉くんも居れば良かったんだけどねぇ」
「それは、無理。伊賀さんが女の子だったら、大丈夫だったけど」
「伊賀さん、女の子……」
私は少しだけ考えて、それから大急ぎで思考を振り払った。
「なんかトンデモないものが見えた気がしたよ」
「……私も」
大浴場から出ると、既に伊賀さんが食事処で待っていたよ。
食事処は畳敷きの座敷や落ち着いた色合いのテーブル席が並んでいて、壁には季節の掛け軸が飾られていた。そして私たちと同じ湯上がりの客が寛ぎながら、楽しそうに膳を囲んでいた。
『がおうっ! がううっ!』
『キキキッ、キー!』
『ぷゆい! きゅぴぃ!!』
「ハハハッ、久しぶりに会えてよっぽど嬉しいみたいだな!」
「とはいっても、前に会ったのは、ゴールデンウィークだけど」
「実に2ヶ月振りかぁ。なんか、いろいろなことが起こりすぎた2ヶ月だったよ」
「ところで、あそこの席見てみろよ」
伊賀さんに促されて、私とリボンちゃんが視線を向ける。するとそこには、人気Dtuberの木村さんの姿があったよ!
木村さんは探索者としての実力は普通でトークも普通と言われているよ。ではなぜ人気かというと、圧倒的な歌の上手さがあるからだよ。
どれくらいかというと、木村さんの歌を聞いたモンスターが武器を手放したっていう逸話があるくらい。
まぁそれは逸話でも何でもなく純然たる事実で、配信アーカイブも残ってるんだけどね。
よくよく見てみると、他にも有名な人の姿が見えたよ。
「さすが一泊30万なだけはあるね……」
「でも、そのお陰で、気が楽なんじゃない?」
「そうだな。むしろ俺たちが場違いな感じがするぜ、がわはははっ!」
「いやいや、そんなことないですよ! それに今日はお祝いなんですから。有名とか有名じゃないとか、そういうのは無しにしましょう!」
私が言うと二人とも頷いて、お酒の入ったグラスを傾けてきた。私もグラスを手に取って、コツンとぶつけたよ。
「んじゃま改めまして、乾杯!」
「「乾杯!」」
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