第97話 超緊急招致命令
須藤さんを交えてのレベリング配信を終えた、その翌朝。
柔らかさとペチャペチャさを感じて目を覚ますと、私の顔の上でライムスがぷるぷると震えていたよ。
『きゅぴぴっ!!』
「んぅ~……へへへ。おはよ、らいむしゅ」
いつものようにライムスが私を起こしてくれて、平和な1日の始まりを感じるよ。
「さきに行ってて」
『ぴきゅっ!』
ライムスがいなくなったあとで、私は布団をぴっちりと整えてから、居間に向かった。
カーテンを開け放つと、遠くの方に暗い雲が見えた。全体的に晴れてるけど、もしかしたら雨が降ってくるかもしれないなぁ。
そうなったら、配信の後にお散歩に出るのもいいかもね。ライムスは水辺が大好きだから。
そんなことを考えながら、いつものルーティンで朝食の準備を進めていったよ。
「ごちそうさまでした」
『きゅぴ~~』
朝食を終えた後は、配信に向けての準備を進めていくよ。
今日は日曜日だから、お掃除をメインに据えた配信の日だね。
今の私のレベルは15。
やっとD難度ダンジョンの入口が見えてきたって感じかな。
ダンジョンの難易度とレベルには関連性があって、それは探索者協会のホームページで見られるよ。
具体的には、
F難度ダンジョン……攻略推奨レベル1~10
E難度ダンジョン……攻略推奨レベル11~20
D難度ダンジョン……攻略推奨レベル21~30
C難度ダンジョン……攻略推奨レベル31~40
B難度ダンジョン……攻略推奨レベル41~50
A難度ダンジョン……攻略推奨レベル51~70
S難度ダンジョン……攻略推奨レベル71~100
とまぁ、こんな感じだね。
Sランクは幅が広すぎるから、探索者の中でも強さがピンキリで、例えば調子の悪いLv.71の探索者は絶好調のLv.60の探索者に負けることもあるよ。
この辺りは、緊急レイドクエストの時にサブリーダーの池田さんが言っていたことだね。
そんな中、須藤さんは強さという一面では常にトップで、未だに無敗を誇っているよ……。
そんな人が、本当に私の仲間になってくれたんだよね?
「ふにっ!」
私は自分の頬をつねってみた。
普通に痛かったので夢じゃないってことだね、ぐすん。
『ぴきゅ?』
「どうして頬っぺたをつねったのかって? これが夢だったら、痛みを感じないでしょ? だから確かめてみることにしたんだ。あー、夢じゃなくてよかったあ」
『くー??』
よく分かってない様子のライムスを他所に、私は未来に想いを馳せた。
あと5つもレベルを上げれば、D難度ダンジョンに挑める。5つなんて、須藤さんから貰ったアイテムがあればきっとすぐに上がるよね。
「早く強くなりたいなぁ。それでいつの日か、S難度のダンジョンもぴかぴかにしてさ」
『きゅいっ!!』
「うん、楽しみだね!」
ライムスとお話しながら、機材チェックや装備品のチェック、回復アイテムの過不足が無いか等を確認していく。
すると。
スコンッ!
「ん、なにか届いたみたいだね」
私は荷造りの手を止めて玄関までやってきた。
ポストには1通の茶封筒が投函されていて、私はそれを引き抜いた。
差出人は探索者協会東支部からで、表面には赤文字で「※超緊急※ 必ず開封してください」と記載されている。
「なんだろコレ」
指示通りに開けてみると、そこに入っていたのは1枚の手紙。そして金色に輝くカードだった。
金色のカードを見た瞬間、全身がぶわっっっ!!!!! と総毛立った。
「こ、これって――」
『きゅぴ??』
「……ライムス。今日の配信は、お休みだよ」
探索者協会から送られてくる手紙には、明確な優先度がある。そして優先度の高さは同封されるカードの色で変わってくる。
赤、青、紫、白、黒……そして最上位の金。
金のカードは『手紙に記載されている内容を必ず果たしなさい』という意味を持ち、その効力は公的機関や行政機関の権力さえをも上回る……。
つまり、警察組織や自衛隊ですら介入が難しい案件。
心臓が激しく脈を打つ。
息が荒くなって、眩暈すら起きそう。
私は必死に深呼吸して、それからライムスに抱きついた。
「はあ、ちょっとは落ち着いたかな」
『きゅい?』
「うん、もう大丈夫だよ」
私は息を整えてから手紙を開けた。
そしてそこにはたった一文「天海最中様。ライムス様同行の元、本日22時までに探索者協会東支部へお越しください」とだけ書かれていた。
「ふえ??」
え? それだけ?
たったそれだけのためにゴールドカードを同封したの?
「……んもぅ、ビックリさせないでよっっ!!!!!」
『ぴぇぇええ~~~!??』
私の叫び声に、驚いたライムスがころころと転がった。
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