結婚式にて
前話で致命的な人名ミスがありました(現在は修正しております)
ご指摘くださった方、本当にありがとうございました……!(以後気を付けます)
――数週間後、王都近郊にある小さいけれど立派な教会にて。
春の麗かな日差しが照らす中、コナーとローナの結婚式は執り行われた。
二人の身内と仕事関係者、そして友人らが集められた式は三十人にも満たない規模のものだったが、誰もが主役二人を大いに祝福した。
もちろん、とっておきの一張羅に身を包んだミリーも例外ではない。
「コナーさん、ローナさん、おめでとうございます!」
ミリーの声に反応して二人が柔らかな笑みを向けてくる。
騎士団所属である花婿のコナーは騎士が式典などで着用する華やかな正装を。そして花嫁であるローナはプリンセスラインの白いウェディングドレスを身に纏っていた。普段は下ろされているローナの豊かな髪はアップに纏められ、白い生花の髪飾りが添えられている。
ため息が出るほどにその姿は美しく、ミリーは思わずうっとりとしてしまった。
教会のチャペルで愛を誓い合った二人を見守った後は、教会の横に併設されたガーデンでの立食パーティーとなった。人が入れ替わり立ち替わり主役二人に挨拶へと行く姿を少し離れた位置から眺めていたミリーは、とある人物に目を留める。
新郎の同僚である若い騎士服を着用した一団。その中にルイの姿を見つけたのだ。
彼は仲間と共にコナーへと何かを話し掛けている。おそらくは祝いの言葉だろうが、和気藹々とした雰囲気が遠くからでも見て取れた。
(……ルイ、元気そう)
良かった、とミリーは率直に思った。あの日から一度も彼とは会ってなかったので、元気にしている姿を見るとどうしてもホッとしてしまう。心なしか背もまた少し伸びたような、身体つきも逞しくなったような感じだ。
すると、そんなこちらの視線に気づいたのか、ルイが唐突にミリーのいる方角を向いた。必然的にバチリと視線がぶつかり、ミリーは驚いて目を瞬かせる。ルイも僅かに瞠目していた。
だが彼はすぐに表情を引き締めると、周囲に断ってこちらへと歩を進めてくる。
ミリーはそれを不思議な気持ちで見つめていた。
「久しぶりだな」
「……うん、久しぶりだね」
こちらの目の前で足を止めたルイがぎこちなく笑うのに、同じような表情で返す。それでも思っていたより気まずくはなかった。
「元気に……は、してるみたいだな」
「おかげさまで。ルイも元気そうで安心したよ。仕事、順調?」
「ああ。ようやく寮生活からも解放されて、今は王都で一人暮らしを始めたところ」
「そうなんだ。頑張ってるんだね」
「……お前こそ、店で頑張ってるんだってな。おふくろから少し聞いた」
「おばさんから?」
「焼き菓子とか近所でも評判だって。……お前、昔から焼き菓子得意だったもんな」
どこか懐かしそうな眼差しをしながらルイが微笑む。
その表情や会話の端々から、ルイの雰囲気が以前に比べて格段に柔らかくなったとミリーは強く感じた。昔はいつも不愛想で取っつきづらい印象があったけれど、今は落ち着いていて非常に話しやすい。
「……おい、どうかしたか?」
「ううん、別に。なんだかルイが、いつの間にか凄く大人っぽくなったなって思っただけ」
「ああ、まぁ……なんていうかさ。俺もあれから色々と思うところがあったっつーか」
言って、彼はどこかバツの悪そうな表情をしながら軽く頭を掻いた。
「……お前から決別された直後はさ、本当にしばらく飯も喉通んないくらいには落ち込んだ。俺の言動でお前との関係が簡単に壊れるなんて想像もしてなくて……正直、最初はふざけんなって思ってた。今まで赦してくれてたのに、なんで今更急にって。お前のことも、そっちがその気ならこっちから嫌いになってやろうってさ……」
まぁ結局嫌いになんてなれなかったわけだけど、とルイはあっけらかんと笑う。
「そうやって腐ってた俺を、コナー先輩とか周りのやつらとかが心配してくれてさ。慣れない酒飲まされて洗いざらい全部白状させられて――で、ぼろくそに叩かれた。全部お前に甘え過ぎた結果だってな。正論過ぎて死にたくなった」
「……それは違うよ。ルイに言いたいこと言えなかった私も悪かったんだし」
「いや、もとはと言えば俺がそもそもちゃんと告白もしねぇでお前を自分のもの扱いしてたのが原因だしな。……本当に、すまなかった」
そこで真剣な表情をしたルイが丁寧に頭を下げてくる。ミリーは慌ててルイの腕を掴んだ。いくら会場の隅の方とはいえ、せっかくの祝宴の席で湿っぽい雰囲気になるのは拙い。
「ルイ、顔を上げて。お互いに悪かったと思ってるなら、もうこれで言いっこなしにしよ?」
努めて明るく振る舞えば、ルイも苦笑いで応じる。
「……悪い。こういうところも俺は駄目だな」
「ううん、その気持ち自体は嬉しかったから……ありがとう、ルイ」
ミリーは心からそう述べた。あの頃、ルイに冷たくされて傷ついた心が少しだけ救われたような――そんな気持ちになったから。
自然と破顔したミリーは、掴んでいたルイの腕を離して一歩下がる。その時、ルイが僅かに躊躇うような素振りをした後で、こちらを改めてじっと見つめてきた。
「……なぁ、ミリー」
「うん?」
「――俺たち、もう一度やり直せないか?」
一瞬、息が止まる。ミリーは目を丸くしてルイを見上げた。
「……都合がいいのは分かってるつもりだ。それでも、こんだけ長い間会えてなかったのに……俺はやっぱりお前のこと忘れらんなくて……出来ることなら最初からやり直したい。今度こそ間違わないし、もし間違えたとしてもちゃんと直す。だから、もし少しでも可能性があるなら――俺はそれに縋りたい」
彼はこちらから目を逸らさずに、ゆっくりと右手を差し出した。その表情は酷く緊張していて――そして、どこまでも真摯だった。
だからミリーも、出来るだけ真摯に想いを返す。
「ごめんなさい。それは出来ない」
「っ――理由を、訊いてもいいか……?」
「……好きな人がいるから」
ルイはその言葉にぎゅっと目を閉じて大きく息を吐き出した。
そしてゆるやかに目を開くと同時に右手を下ろすと、どこか切り替えたようにその表情を柔らかく崩す。
「……そうか。まぁ、なんとなく分かってたけどな」
あの時の男だろ、とルイが言うのにミリーは躊躇いつつも小さく頷いた。
「もう付き合ってんのか?」
「……ううん」
「なんだよ、それならさっさと告白しろ。その方が……俺も諦めがつくだろうが」
彼が無理をしているのは分かっていた。けれどミリーは敢えて気づかないふりをする。
なんともいえない空気が漂う中、不意にルイを呼ぶ声が届いた。見れば若い騎士の一団が手招きをしている。かなりお酒も入っているのか、彼らは皆どこか浮かれた様子だった。
「悪い。先輩に呼ばれたからもう行くわ」
「うん。じゃあ、またね」
「……ああ、またな」
こちらに背を向けて去っていくルイをそのまま見送る。
彼は明らかに変わった。最初から最後までミリーのことを気遣ってくれているのが良く分かった。
その変化が堪らなく嬉しくて――少し、苦しかった。
(……本当にありがとう、ルイ)
ミリーは心の中でそう呟くと、ルイと反対方向に踵を返した。
そして決意する。
(――私も、ルイみたいに勇気を出してアーサー様に気持ちを伝えよう)
言葉にしなければ、何も伝わらない。
初恋でそれを痛いほど実感してきたからこそ、今度は絶対に間違えたくなかった。




