手紙とお見舞い【2】
何を言われたのか理解が追い付かなかった。
ミリーはぽかんと間抜けな表情を晒したままアーサーを凝視する。
「えーと……ミリー? ミリーさーん? 聞いてる?」
その声でハッと我に返ったミリーだが、依然として頭は混乱の最中にある。
自分の聞き間違いでなければ。先ほどのアーサーの言葉は間違いなく告白と呼ばれるものだ。
しかしミリーには自分がアーサーに想いを寄せられるような人間だとは到底思えない。散々迷惑を掛け、みっともない姿ばかりを晒しているのだ。惚れる要素が皆無である。
多少、お菓子については感謝されているかと思っていたが、その程度のことがこの美丈夫から恋愛感情を持たれる理由には流石にならないだろう。
(やっぱり聞き間違いでは……?)
その可能性が高いように思う。問い質したいがどう切り出せばいいか迷っていると、アーサーが「何か聞きたいことでもあるの?」と水を向けてくれた。察しが良すぎる。
「あの……先ほどの言葉なのですが……」
「ああ、うん。君の気持ちも考えずに俺の気持ちを押し付けた形になってごめん。でも、やっぱり誤解されるのは嫌だったから」
「その、誤解とは……?」
「あー……」
アーサーが珍しく言い淀む。だが悩ましそうにこちらに視線をやると、気を取り直したように――もとい、ある程度開き直った雰囲気で言葉を続けた。
「俺、恥ずかしいんだけど女の子を好きになったのって初めてで……正直どうアプローチするのが正解なのかも分からないし、今だって実はかなり緊張してるんだよ。だから君に変な態度を取ってしまうんじゃないかと思ってさ」
「……変な態度、ですか……例えば?」
「うーん……言葉に詰まったり、赤面したり微妙な顔したりとか……そういう誤解を生みそうな挙動をして、君に不審がられるのは嫌だなと思って。それなら最初から君のことを意識しすぎて挙動不審になってるって伝えてた方が理解されやすいかなと」
想像を遥かに超える真面目な回答にミリーは絶句した。
(というか初恋……初恋!? アーサー様が私に!? 嘘でしょ!?!?!)
あまりにも信じがたい。彼はどう見ても女性慣れしてる風だし、何よりこの容姿では周囲が放ってはおかないだろう。自分からはともかく、女性の方から好意を寄せられたことは何度もあったはずだ。
けれど彼の言葉が真実ならば、そんな女性たちには抱かなかった感情をミリーには抱いたということになる。そんな馬鹿な、というのがミリーの正直な感想だった。
「ちなみに……アーサー様っておいくつなんですか……?」
「今年で二十一歳。ミリーは?」
「私は十六です。再来月の誕生日で十七歳になりますね」
「……四つ差か」
妙に発言が生々しく感じてしまうのは、おそらくミリーがアーサーをそういう意味で意識してしまったからだろう。
アーサーのことは当然、好きだ。しかしその好きの種類は恋愛ではなく親愛――家族や友人に向けるもので。そもそも最初から彼のことは恋愛対象外に置いていたこともあり、急に好意を告白されても正直、戸惑いと驚きが勝ってしまう。
(アーサー様のこと急にそういう目では見れない……けど)
誰かから告白をされたのは初めてのことだ。自分自身はルイに告白する勇気が持てず、結果的に失恋してしまったので、アーサーが誠実に想いを伝えてくれたことは素直に凄いと感じる。同時に、その気持ちが嬉しいとも確かに感じていた。
ミリーは改めてアーサーの顔を下から覗き込むようにして見る。彼はこちらの視線に気づくと、少しだけ遠慮がちに微笑みながら口を開いた。
「……言っておくけど、今すぐに俺を好きになってくれとか、想いに応えて欲しいとか――そういうことじゃないから」
言われて、ミリーは「そうなんですか?」と目を瞬かせる。
アーサーは軽く頷き返すと、
「ただ、知っていて欲しかったんだ。俺がミリーに会いたいと思うのはお菓子目当てじゃない。君のことが好きで、君に会いたいから会いに来てるんだって」
それにね、と続けて彼は言った。
「ちょっとは意識して貰えた方が、俺としても張り合いが出るから」
「……張り合いってなんですか?」
「いや、ミリーってたぶん相当鈍いと思うんだよ。だから普通に口説いても伝わらない可能性が高そうな気がしたから。これで俺がこれから君のことを本気で口説くつもりだってことが伝わっただろ?」
しれっと。アーサーはとんでもない発言をする。ミリーはしばし呆気に取られたが、徐々に顔が熱くなっていくのを感じた。
(口説くって……口説くってどういうこと……っ!?!?!)
片思い経験しかない身にはあまりにも荷が重い。
しかも相手はアーサーだ。優しくて誠実な人だということは十分理解している。その上で本気で口説いてくるというなら――自分のような小娘はひとたまりもないのではないか。
「あの……アーサー様。お気持ちは大変嬉しいんですが……これでも私、まだ失恋したばかりでして、正直恋愛はしばらくお休みしたいと言いますか……」
「……ああ、なるほど。確かにその気持ちは察するよ」
すぐに理解を示され、ミリーがホッと胸を撫で下ろそうとした。しかしその前に、
「じゃあ、長期戦だね?」
アーサーは晴れやかに笑う。まるで臨むところだと言わんばかりに。
その表情が普段よりもどこか男っぽく感じてしまい、思わず見惚れてしまったミリーは――
(……どうしよう、既に勝てる気がしない……!!!)
そんなことを思ってしまったのだった。




