瑛汰と翔と悠の学校の話。
「お、お弁当、一緒に食べよ」
昼休みに入ると瑛汰のその一言で、いつものように瑛汰、翔、悠の三人は窓側の机に座り、秀馬が作った弁当を食べる。
秀馬はいつも日向ノ山学園に通う五人の弁当を作っている。弁当は全員中身が違い、レパートリーも多く、更には冷凍食品を使っていおらず、非常に手が込んでいる。しかも美味しい。
「あ、あの、翔、やっぱり僕達親戚って言っちゃだめ?今日も『空口さんと付き合ってるの』って聞かれたんだけど」
「駄目だ」
翔は頑なに拒否する。
翔はこの二人が親戚だと言うのがどうにも恥ずかしいらしい。思春期真っ盛りの翔である。
しかし、そのせいで、不良少年×仔犬×美少女という異様な組み合わせが誕生し、周囲に変な誤解を与えている。
「私も『付き合ってるの』ってよく聞かれる。面倒だから言っても良いも思うけど」
「駄目だ」
翔は二人の言葉に聞く耳も持たない。
「瑛汰、そういうこと聞かれた時の良い返答教えようか?」
「う、うん」
悠はだし巻き玉子を食べながら瑛汰にそう提案し、瑛汰はそれに乗っかる。
いつも聞かれた時におどおどして逃げ出していた瑛汰にとって、この提案は願ったり叶ったりだ。
「『そう言う関係より、もっと大切な……』って顔赤らめて言うの。そうしたらもう聞きに来なくなるから」
「変なこと言うんじゃねー!!!」
悠の言葉を聞き、翔が顔を真っ赤にして叫びながら勢い良く立ち上がる。
「滅茶苦茶目立ってるよ~?」
恐らく、いや、確実にクラスメイト全員から『何やこいつ』という目線が翔に送られている。
「くそっ、煽るなクズ!」
「お、落ち着いて……!」
翔が興奮して今でも悠に殴りかかろうとしているのを、若干顔を赤らめている瑛汰が後ろから抱きしめて止める。
それを見ながら何事も無かったかのように、悠は弁当を食べ続ける。
「取り敢えずお弁当食べたら?次移動教室だし、時間無いよ?」
「そ、そうだね」
「……チッ」
悠がそう言うと、二人は静かに食べ始める。
悠はなんとも思ってないようだが、二人は気まずそうに食べている。
「ホントに謎だよね、あの三人」
「うん、どういう関係かも分からないし、仲良いのかも悪いかも分からない」
「そういえば空口さんに、どっちかと付き合ってるの?って聞いたら『そう言う関係より、もっと大切な……』って言ってたよ」
「え、マジ?」
廊下側の机で弁当を食べている女子三人衆が、瑛汰達の噂話をしている。
謎の関係性のクセの強い三人の噂は数え切れない程存在している。
「赤木君と瀬戸君は他の人ともよく一緒にいるけど、空口さんってあの二人以外仲良くしてるとこ見たことないよね」
「雲の上の存在だよね」
「そんな存在と仲良くしている不良と仔犬」
「謎だよ謎」
三人の話題は尽きることを知らない。
「私は空口さんとあの二人くらいに仲良くなりたいな~。ほら、空口さんって文武両道で、可愛くて、カッコいいし」
「麗奈ちゃんって純粋だよね~。私は拗らせてるからさ、空口さんに嫉妬心があるからそこまで仲良くなりたいとは思わないんだけどね」
「同じく」
「そういうものなのかな……?」