綾と翔のスイーツの話。
「綾」
「はい?」
学校から帰って暫くして翔は、綾の元へ向かった。
それはあるお願いをするためだった。
「スイーツ食いにいかね?」
「嫌」
あるお願いとは、一緒にスイーツを食べに行くことだったが、学校で一人ぼっちになってご機嫌斜めの綾はあっさりそのお願いを断る。
「お願いだって。春限定の苺スイーツで二人でいかなきゃ食えねーんだって」
スイーツが大好きな翔にとって、『限定スイーツ』という響きが堪らない。
「瑛汰……は甘いの苦手か。なら悠とかマロくんに言えばいいじゃん。何で私?」
ど正論である。わざわざ綾に頼む必要などない。
「悠と行ったら何されるか分からんし、マロくんはさっき友達とカラオケ行ったし、椎名はノリが合わないし、フィリアはそもそも機械だから食べれないし、快人には普通に断られたし」
そう、翔はライバル視している綾に頼む前に、他の皆に頼んでたりしたが、悉く散っていたのだ。
「普通に断られたって、人望無さすぎん?日頃の行いやな。滑稽滑稽!」
綾は学校での鬱憤を晴らすかのように、体を折り曲げて大声で笑う。
「うぅ。これだからお前にも出来れば頼みたくなかったんだよ」
翔は苦い顔をする。
「あ、良いこと思い付いた」
そう言い綾は手を『パンッ』とたたく。
「一緒にスイーツ食べに行ってあげる変わりに、私のお願いを一つ聞くってのはどう?」
『これだとWin-Winでしょ?』と綾は若干ハイになりながら、翔に詰め寄る。
「分かった」
恋は盲目というものか、翔は考えなしに承諾する。
「うっしゃ、なら早速出発だ~!」
「うぉっ、ちょっと待てよ!」
最初の機嫌の悪さは何処へやら。太陽顔負けの明るい笑顔を浮かべる綾は、翔の腕を掴み、外へ飛び出していった。
「それで、私のお願いどうしよっかな~?あ、この苺まみれのショートケーキ、思った以上に美味しい」
綾は苺のショートケーキを頬張りながら、目の前で目を輝かしてケーキの写真を撮っている翔に頼むお願いごとを考える。
「んー、良いの思い付かないな~」
「ならいっそのこと『何もしていらない』ってのは」
「それは無い」
バッサリと綾は翔の提案を断る。
がめつい綾は何でも良いから無理矢理お願いごとを考える。
「ならこれは?」
暫くして綾はお願いが決まったようで、ケーキを食べる手を止め、話し出す。
「これからスイーツ巡りを一緒に行ってあげる代わりに、全部翔が奢る。これで良い?」
綾にとっては、翔と一緒に行くだけでタダで美味しいスイーツを食べれるという、一石二鳥の最高の提案である。
「えぇー、うーん……分かったよぉ」
翔は渋々承諾する。
翔の心の中で『綾と一緒で全部奢り』と『確実にスイーツ巡りに行ける』で天秤に掛けられたが、天秤は後者に傾いたようだ。
「よしよし、良い子やなぁ」
綾はにやつきながら翔の頭を撫でる。
「やっぱ今のナシだ~!!!」
なんだかんだ仲の良い二人。