八人衆の朝の話。
椎名とフィリアを抜いた他六人は、食事を一斉に済ませ、それぞれ準備をする。
「いってきまーす」
小五になる快人は、犬耳としっぽを魔法で隠し、誰よりも早く一人で家を出た。
この家から快人の通う小学校まで、三十分程掛かるからだ。
フィリアとは同い年という設定だが、まだ社会に出させるのは不安なので、学校には通っていない。
「それじゃ、私達も行こ?」
快人に続いて綾、瑛汰、翔、悠も家を出る。
「私はこっちだから」
綾は三人とは別方向へと行く。
三人は家から近く、元々椎名と秀馬が通っている私立の、日向ノ山学園へ通うが、去年神に仕事を押し付けられていた綾は『十分に受験勉強が出来ない』とのことで、家から離れた公立に通うことにした。
「椎名、ホントに遅刻するよ。ほら、もう七時半だよ」
『椎名、起きて~』
一方、家では秀馬とフィリアが、床に丸まった椎名と戦っていた。
秀馬は椎名を床から引き剥がし、フィリアはベルを鳴らして起こそうとする。だが、椎名は起きる気配すら無い。
そこで、フィリアは提案する。
『マロくん、フィリアが起こしとくから、先に学校行っておいでよ。この調子だと、マロくんも遅刻するよ』
フィリアを含めた他七人は、秀馬のことを『マロくん』と呼ぶ。
呼び始めたのは椎名だが、何故『マロくん』なのかは本人にも分からない。
「でも……」
『大丈夫だから~。それともフィリアのこと、信用してないの?』
フィリアはわざとらしく声のトーンを下げる。
普通なら茶化して終わりだが、家モードの秀馬にとっては十分な脅しになったようだ。
「も、勿論信用してるよ。それじゃあ、行って来ます」
声を震わせながらそう言った秀馬は、足早に家を出た。
「今日から中学生か~」
「法律上では四月一日から中学生」
「何?この登校時間をお通夜状態にしたいん?」
「ま、まぁまぁ」
「俺は去年で一気に背ぇ伸びたけど、瑛汰はまだまだちっちゃいし、声も高いよな」
「でも私の方が翔より身長高いよ?」
「たかが二、三センチだろ!それにお前はもう身長止まっただろ!俺はこれからなんだよ!」
「それこそ瑛汰のことじゃない?」
「なぁ!」
「お、落ち着いて」
悠が翔に突っ込んで、それを瑛汰が宥める。そんないつものやり取りが、登校中ほぼノンストップで三人の中で繰り広げられる。
そうしてあっという間に学校に着く三人であった。