綾の毎朝の日課の話。
初投稿です。よろしくお願いします!
綾はいつも通り早朝四時半に起き、カーテンを開けまだ日の昇っていない外を眺める。
龍の血が入っている彼女には、街道に植えられた桜は咲いて、早いものはもう散り始めている光景がはっきりと見える。
「さて、と」
綾は物心のついた頃からずっと共同生活をしている他七人を起こさないよう、そっと勉強を始める。
五時半まで勉強した綾は今日から通い出す、『東町第二中学校』に行く準備をし、パジャマからジャージに着替えて外に出て、ランニングを始める。
目的地は五キロ先の日向ノ山浜だ。
息も切らさずに日向ノ山浜に着いた綾は、早速ごみ拾いを始める。
ここ、日向ノ山浜の管理者である、菊川隼都と綾は、ある取り引きをしていた。
それは、『浜の掃除をする代わりに、使っていない土地の一部を貸し出す』と言うものだ。
隼都にとっては、お世辞にも綺麗とは言い難い浜が綺麗になり、綾にとっては、運動にもなり、借りた土地は実験場として使う、Win-Winの関係である。
綾はご機嫌に、浜に流れ着いていた車のタイヤを片手で持ち上げ軽トラに積み込む。
普通の人が拾いにくい粗大ごみを中心に片付けていたら、気付けば浜の時計の長針が七時を指していた。
「そろそろ帰らなくちゃ」
そう呟くと、綾は人間の目には止まらぬ速さで、一瞬で五キロ先の家に帰った。
「ただいま~」
「綾は相変わらずだね」
綾の腑抜けた声に、悠が反応する。
起きているのは悠だけでなく、キッチンには秀馬と瑛汰、欠伸をしながら学校の準備をする快人、ソファーで寝ている翔、そして机の上にあるパッドには新聞を読む亜季奈が写し出されていた。
綾は悠に『まぁね』と返事をして、制服に着替えに二階へ上る。
自室に入った綾は、二段ベッドの下で寝ている椎名の肩を揺さぶる。
だが何の反応も無く、椎名は気持ち良さそうな顔で寝息を立てて眠り続ける。
「黒猫さ~ん?起きろ~」
椎名のことを綾は『黒猫さん』と呼ぶ。
それは見た目からか、それとも黒猫に好かれる体質からつけたのかは綾にしか分からない。
恐らく両者とも正解だと思うが。
綾は『埒が明かない』と思い、椎名を無理やり立たせた。
「……ん?」
「ん?じゃない!ほら!さっさと起きる!」
綾は椎名の背中を二回叩く。
しかし、椎名は綾を支えにして、寝息を立てて眠りだす。
「朝に弱いとはいえ、流石に酷すぎん?」
『そう言えば』と綾は思い出す。椎名が昨晩分厚い本を読んでいたことを。
「こうなるのを分かってんのに、夜更かししたな……」
そう呟くと綾は椎名をお姫様抱っこをし、吹き抜けの前に立つ。
「いい加減にしろ~!」
綾が椎名を吹き抜けから一階に投げつける。
ここに住む八人衆は普通の人間では無いので、二階から一階に投げつけたとして何ら問題はない。
一階から翔の悲鳴が聞こえてきたのは、きっと気のせいだろう。