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 分かってるのよ。今日もそこで聴いているのね。

 いけない人。私にはあなたの荒い息遣いや、抑えられない鼓動の高鳴りが手にとるように分かるのよ。もちろんその手がどこに向かって蠢いているのかもね。

 仕方ないわ。聴かせてあげる。感じさせてあげるわ。私の声に感じて、そしてどんな景色を思い描いているのかつまびらかに教えて。

 それにしてもこのおじさん、下手くそだわ。キスもろくに出来ないなんて。舌のからめ方も、吸い方もまるでなってないじゃない。それなのに自分だけ息を荒げて、興奮しきってるなんて。タバコ臭いだけで、こっちは全然盛り上がってこないのよ。髭ぐらいこまめに剃りなさいよ。この人、今までどういう生き方をしてきたのかしら。きっと玄人との関係しかなかったのね。だからこんな独りよがりのキスでもすまされてきたんだわ。ひょっとするとこの年まで結婚もしてないかもしれない。結婚していたとしても、こんなキスじゃ奥さんに逃げられちゃうわね。もうキスはいいからさっさと始めてちょうだい。

 ごめんなさいね。こんな人が相手じゃ、今日は上手に鳴けないかもしれない。自信がないの。でも良かった、あなたがいてくれて。だってこの人との情事に集中しないで済むもの。あなたのことを考えていればこのおじさんの拙い動きでも我慢できそう。だから今日はあなたのために努力するわ。頑張って歌ってみせる。だからしっかり聴いていてね。

 この人、胸の揉み方も知らないのかしら。もう、そんなに力を入れたら痛いに決まってるでしょ。乳首がつぶれちゃうわ。これじゃ、鳴き声どころか、悲鳴になっちゃう。

 痛い。ちょっと、そんなに強く噛まないでよ。売り物の身体に少しでも傷をつけたら、たっぷり慰謝料払ってもらうんだから。

 こういう人っているのよね。女は強引にされた方が喜ぶって思っている人。

 そりゃあ、確かに興奮してくれば多少は強引にされたり、痛い思いをさせられたりしてもその苦痛が身体を熱くすることだってあるわ。SMだって嫌いじゃないのよ。全身を縛られて目隠しされたら、その分神経が過敏になっちゃって少しの刺激がたまらないほど気持ちよかったりする。でも今は全然だめ。だって興奮してるのはこのおじさんだけなんだもん。

 どんなプレイでも雰囲気作りが大事なのよ。上手に雰囲気作ってくれる人が相手ならこっちもその気になるのに。

 大体こういうセックスは子作りじゃなくてお互いの欲求を充たすことが目的なんだから楽しめなくちゃだめなのよ。こっちはお金をもらってるわけだから大きなことは言えないけど私を楽しませてくれたらその分相手を楽しませる自信はあるわ。二人の共同作業なんだから協力しあうことが大切なの。だからこんな雰囲気も何もないセックスは私だけじゃなくてお客さんももったいないのよ。やっぱり折角生身の肌を重ねるんだから満足して帰って欲しいじゃない。そのために私も頑張りたいから……、それにしてももう少し何とかならないのかしら。

 知ってる。あなたは違うわよね。きっとあなたは私を楽しませてくれる。だっていつもそこで私の歌声を聴いていてくれるもの。私がどういうときに高く鳴くか、あなたは知ってる。私の事を知り尽くしているのよ。こんな今日限りの自分勝手なおじさんとは違うわ。

 きっと今あなたはいらいらしてる。この人のテクじゃ私が高く鳴けないから。

 まあまあ、今日のところは抑えてあげてよ。仕方ないわ。誰もが女を知っているわけじゃないもの。こういう人もいるのよ。可愛そうな男だと思って許してあげて。

 私?私は大丈夫。これぐらい我慢できるわ。こう見えても私って尽くすタイプなの。母性本能も持っているわ。こういう可愛そうな人には私からたっぷりサービスしてあげないと。

 あっ。少し気持ちいいわ。その強情な髭が私のいい所に当たってるの。一番敏感なところに。これなら少し濡れちゃうかも。でも分かってるのかしら、このおじさん。ちょっとオーバーに鳴いて、腰も振ってあげるからしっかりポイントを押さえて勉強してね。もう少し続けてくれればきっと私も少しは興奮してくるのよ。

 わざとらしいって?そりゃ、あなたにはそう聴こえても仕方ないわね。あなたにかかったら私だって嘘つけない。第一にそんな馬鹿なことはしないわ。あなたが相手なら完全に素の私を見せるつもり。

 でもこのおじさんはここまでしてあげても分かってもらえるかどうか心配なのよね。現に中途半端に止めちゃってるじゃない。今は自分のモノを出すのに精一杯。ごつごつした手が少し震えてるみたい。自分でファスナーも下ろせないの?本当にがっかりしちゃうわね。もう、ちょっと貸しなさいよ。私が脱がせてあげるわ。はい。足を抜いて。ちょっとこけないでよ。しっかりつかまって。

 足は引き締まってるのね。見かけによらず何か運動しているのね。筋肉質な人は嫌いじゃないわよ。

 さて、問題のここはどうかしら?あらぁ。お世辞にも立派とは言えないわね。これじゃ奥まで届かないわ。まあ、いいわ。さっさと始めてちょうだい。

 やっぱりだめだわ。ごめんね。私が悪いわけじゃないけど、あなたに対しては申し訳ない気持ちになってしまう。でも今日は鳴けない。だって全然気持ちよくないんだもの。入ってる感触もほとんどないし、奥まで届いてこない。もうこんなセックス早く終わらせたいわ。あなたに聴かせられるような声なんてまるっきり出てこないの。

 あら?

 何だかお腹が温かくなった。この白い物は何?終わったの?まさか、この歳で童貞じゃないんでしょう?いくらなんでも早過ぎない?でもタバコを吸いだしたってことは終わったってことよね。本当に終わったのよね。あっさりし過ぎているけど一回は一回だからね。終わったならさっさと帰ってよ。まさか時間が余ったからもう一発だなんて言わないでよ。

 しかしこの人普段はどういう生活してるのかしら。背は低い、足は短い、顔は不細工、挙句の果てにあれは早い。全く、どうしようもないわね。もう二度と来て欲しくないわ。


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