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離れ




 母屋と繋がる閉鎖型の廊下を通り、狭く段差が高い階段を上って、離れとなる二階建ての小さな家の二階、神路の部屋に強引に連れ込まれた梨響。へらりと笑って、畳の上に寝転び腹の上に両の手を置いた。


「腹減ってんだよ。早く用事を済ませてくれな」

「何が狙いだ?」

「は?」


 険しい顔の神路に、しかし何を言っているのかわからない梨響は目を点にした。


「狙いって何が?」

「とぼけるな。姿消しの術を使って俺の後をつけているだろう。俺が警備についている時に少なくとも一日に一度は必ず」


(あらら。ばれちゃってたか。流石は警備の玄人)


 気づかれても慌てふためかなかったのは、予想していたからだろう。

 気づかれるか否かの確率は半々だと。

 否。

 回数も一日に最高二回まで、時間も長くて三十分で、姿消しの術も使っていたし、殺気や執着する気持ちなども向けてはいなかったのだから、気づかれない可能性にかけていた。

 ただ淡々と、遠くから仕事姿を見たかっただけなのだ。


(凛々しくて素っ気ないと思ったら、鬱陶しいくらい世話焼きな表情を見せて、言動も取って)


 この家では決して見せない。

 警備対象だけの特権。


(ほんと、見たかっただけ)


 内心で溜息をついた梨響は上半身を起こして胡坐をかき、立って腕を組んでいる神路を見上げた。


「いつから気づいていた?」

「一か月ほど前だが、もっと昔からだろう。恐らく、俺がこの家に来てから勤め始めた今の会社で実績を上げ始めた頃だ」

「なんだ。その頃から気配に気づいてたのか?」

「違う。情けない話だが、単なる憶測だ。気配に気づいたのが一か月前で、おまえだとわかったのは二週間前だからな」

「もしかして、俺が警備対象をどうにかしたい組織に凛香と珊瑚をだしに脅されて、おまえを探っているとか考えてたりする?」

「それだけじゃない。他の警備会社、人間社会で働くのをよしとしない俺の仲間、九尾の妖狐のくせに烏天狗の俺と同じ家に住んでいるのをよしとしないおまえの仲間。それ以外にも、おまえが単独で動いている可能性もあるな。理由は見当つかないが、どうせ俺が失敗する場面を目撃して莫迦にしたかったんだろう」

「しねえよそんなくだらねえこと」


 梨響はあえて力まずに否定した。

 本当は掴みかかって怒鳴ってやりたいくらいだが、そーゆー風に見られる態度を取ってきたのだから仕方ない。自業自得だ。

 だからこそ神路が何かを言う前に、言葉を紡いだ。


「悪かったな。単におまえに気づかれないかどうか試してたんだよ。不定期にある試験の中に姿消しも入ってて、合格する為に勝手に警備の玄人のおまえに修行に付き合ってもらってたってわけ」


 嘘ではない。

 上位の妖怪だからと言って胡坐をかくなと、実際に試験は行われているし、合格する為に修行も秘かに行っている。


(降格したらそれこそ情けないの極みだしな)


「あーあ。けど、おまえに気づかれるんじゃあまだまだだな」

「………そうだな。まだまだだな」


 神路はそれ以上追究せずに戻っていいぞと言ったので、梨響は腹がへこみまくり~とおどけながら立ち上がり、神路の部屋を後にしたのであった。













(2022.1.4)



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