安眠薬香
花と海藻、竹の地下茎にできる茸をまとめて薬草と呼び、火で乾燥させたこれらに瀧雲秘伝の太陽の雫を混ぜ合わせ、日光と月光で乾燥させてできたお香は熟睡できる安眠薬香として患者に提供されるのだが、一種類だけではなく、お香の種類は患者の数だけある。
というのも、花は患者が好きな花を、海藻は浅、中、深と三段階の深さから選んでもらうからだ。
両親が出て行き、父方の祖父母である喜朗と立花に珊瑚と共に引き取られた凛香が、一睡もできなかった日々が続いたため、祖父母の友であった瀧雲を呼び寄せて、安眠薬香を作ってもらったのだ。
たいていは三日で改善するものの、一か月という時間がかかった凛香は改善したその日の内に瀧雲の弟子になると宣言したのである。
以降、凛香は薬草、主に竹の地下茎にできる希少な茸を集める役目を担うことになったのであった。
竹の種類や縦横の範囲、場所、時期など茸の発生条件がわからず、狭い範囲の竹林で何個も見つけたかと思えば、広範囲の竹林では一個も見つけられないということもしばしばあり、とにかく時間がかかるのだ。
凛香がいなかった時は鹿に手伝ってもらっていたのだが、時給制で高賃金。
そうではないと理解しているものの、わざと時間をかけて見つけているのではと疑いたくなるくらいに金がかかった。
希少な茸は鹿に見つけてもらうか、掘り続けるかしか手段がない瀧雲は、茸捜索だけに時間を費やすわけにはいかずしぶしぶ金を消費させていたのだが、今は凛香がいるので金はかからない。
どうしてだか、凛香は竹に触れた時に、その付近のどこに茸ができているのかがわかるのだ。
感知できる範囲が狭いために、走り回らなければならないという手間はかかるのだが、瀧雲の懐は痛まないのである。
(2021.12.21)