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家
自由に生きたいの。
そう言って、別々に出て行く両親の後を必死に追ったのは俺で。
静かに洗濯物を畳んでいた弟は。
目線すら両親を追うことはなかった。
両親に捨てられて、父方の祖父母に引き取られて十年。
いつまでも若々しく真面目で見目麗しい漆黒の烏天狗。
無精ひげとしまりのない顔にやる気のなさのせいなのか、かっこいいはずの銀色がくすんでみえる九尾の妖狐。
もの静かで、家事が大好きなのかいつも率先してやってくれる世話焼きのオカン男子である十六歳の弟。
不器用で寂しがりやなくせに強がって陰で泣くようになった、走りと弟大好きな十八歳の俺。
すでに祖父母は亡くなっていたが、祖母が亡くなった時に九尾の妖狐が、祖父が亡くなった時に烏天狗が現れて、祖父母に恩返しがしたいと人間に化けながら家に住み着いたおかげで、九尾の妖狐と烏天狗、俺が今日も騒がしく過ごす中、弟が黙々と家事をしてくれる。
(2021.12.14)