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お兄ちゃんを取り戻せ!  作者: 秋月真鳥
三章 幼年学校で勉強します!(一年生編)

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22.夏の約束

 オースルンド領から戻ってきてダンくんとミカルくんが遊びに来るようになった。幼年学校が休みになってからダンくんは相変わらずミカルくんの面倒を見ているようで、久しぶりに来るとミカルくんが大喜びでヨアキムくんとファンヌのところに走っていくのを安堵のため息を吐いて見送っていた。

 私とお兄ちゃんの部屋に来ると、部屋を涼しくする風の魔術を浴びながら私の机を借りてダンくんは宿題に取り掛かる。


「ミカルがあそんであそんでってうるさくて、しゅくだいどころじゃなかったんだよ」

「ごりょうしんはあいかわらず、おいそがしいの?」

「しゃっきんのへんさいにもゆうよができたし、とりたてもこなくなったから、ちょっとはおちついたけど、やくそうばたけはいそがしいじきだから」


 夏休みに魔術学校や幼年学校が長く休みになるのは暑くて勉強に集中できないというのもあるのだが、ルンダール領をマンドラゴラ栽培で支える農家が忙しい時期だからというのもあった。

 昔からの風習なので良くないことかもしれないが、農家の子どもはほとんどが両親と一緒に薬草畑に出て働いている。ダンくんの家はミカルくんが小さいのでダンくんはミカルくんの面倒を見るようにさせられているが、子どもも一家の中では働き手として認識されていることが多いのだ。

 子どもが子どもでいられるのは私のような貴族だけなのだが、私は私で毎朝お兄ちゃんと一緒に薬草畑に出て薬草の世話をしている。いずれルンダール領の当主となるお兄ちゃんは、ルンダール領の特産品であるマンドラゴラ栽培を大事なものだと考えていて、自ら実践でそれをよりよくする方法を見出し、領民に還元しようとしているのだ。

 立派なお兄ちゃんの考えを尊敬して、私も幼い頃からお兄ちゃんの薬草畑作りを手伝っている。


「ダンくんはやくそうばたけのおてつだいはしないの?」

「ミカルといっしょに、みずやりやざっそうぬきはするけど、ミカルあまりながくそとにいるとちょうしがわるくなるんだよ」


 小さなミカルくんは暑い外に長時間いると調子が悪くなるという。

 産まれるときに難産で母子共に危険で大量の医療費がかかって借金をして、二人ともどうにか助かったミカルくんとミカルくんのお母さん。なんとか持ち直して二人とも健康になったはずだが、ミカルくんは少し体が弱いのだろうか。


「暑さに弱い……ミカルくんはどんな帽子を被ってる?」

「ぼうしあついからいやだっていって、かぶらないんだよ」

「着ている服はどうかな?」

「あつがりだから、タンクトップにショートパンツだよ?」

「水分補給はしてる?」

「ぬるいみずもおちゃも、のみたがらないんだよ」


 冷静に聞き取りをするお兄ちゃんは、ミカルくんが外で長時間作業ができない理由に気付いたようだった。

 ダンくんの勉強が終わると、ファンヌとヨアキムくんと遊んでいるミカルくんの着ている服を確かめた。お屋敷の中は涼しい風が通る魔術がかかっているので涼しく保たれているが、外はお日様の光が強くて地面から湯気が立ちそうなくらいの暑さだ。


「リーサさん、イデオンのお譲りの服を出して貰えますか?」

「薬草畑に行かれるんですか?」


 三人が遊ぶのを見ながら縫物をしていたリーサさんに声をかけると、針を片付けてクローゼットを開けてくれる。

 私がミカルくんくらいのときに着ていた薄い長袖のシャツに長ズボン、麦わら帽子を出して、お兄ちゃんはミカルくんを着替えさせた。


「あちゅいよー?」

「お日様に肌が焼かれるともっと暑いからね」


 紐をつけた保冷の魔術のかかった水筒を斜めかけにしてあげると、ミカルくんはお目目を輝かせていた。


「向日葵駝鳥を見に行こう」


 そうだった。夏休みの間にダンくんに向日葵駝鳥を見せる約束をしていたのだ。

 庭に出るとムッとする暑さに汗が吹き出る。向日葵駝鳥の柵に近付くと、太く逞しい茎の足で向日葵駝鳥が端の方に逃げていく。


「あまり土から離すと栄養が行き渡らないから、水やりは魔術で雨みたいに降らせてるんだ」

「でかいけど、おくびょうなんだな」

「ひとがこわいみたい」


 興味津々で柵の中を覗くダンくんとミカルくんの兄弟は、後姿がそっくりで並んでいるとなんだか可愛い。


「にーたん、だちょー!」

「でかいよな。ミカル、きぶんわるくないか?」

「おのどかわいた」


 暑いので汗をかくミカルくんにダンくんがしゃがんで水筒の蓋を取って、コップになっている蓋に中のお茶を注ぐ。冷たいお茶を飲んでミカルくんは一息ついていた。


「すいぶんほきゅうはだいじなんだよ。おにいちゃん、ミカルくんにこのすいとう、あげてもいいよね?」

「最初からそのつもりだよ。小さいけど魔術がかかっていてかなりの量が入るから、ダンくんもご両親も飲めるだろうし。麦藁帽子も、長袖シャツとズボンも貰って帰っていいよ」


 直射日光を浴びる方が体に良くないし、疲れるし、熱射病になりやすいのだとお兄ちゃんは実践を以てミカルくんとダンくんに教えた。これからはミカルくんも夏でも外にいられるかもしれない。

 実のところ両親の見ていないところで7歳のダンくんと3歳のミカルくん二人だけという状況は心配だった。それはお兄ちゃんも同じだったのだろう。


「ひまわりだちょうのしゅうかくのときに、てつだいにきてくれる?」

「しゅうかく……むずかしそうだな」

「うん、僕たちも文献で読んだだけで実践したわけじゃないから、セバスティアンさんの息子さん夫婦にお聞きするつもりなんだけどね」


 去年の夏に向日葵駝鳥の柵を修理していたセバスティアンさんの息子さん夫婦ならば、向日葵駝鳥の扱いには慣れているだろう。


「それって、うみにいくときか?」

「そうだよ。いっしょにダンくんもいこうね」

「うみって、みずぎがいるんだろ? かわであそんだことはあるけど、ふくきたままだったからなぁ」

「みずぎもかいにいこう」


 初めて海に行ったときには私も水着を持っていなくて、ヨーセフくんに案内してもらって買いに行った。そのことを話せばダンくんは別の心配をしだす。


「すいとうもふくもぼうしももらったし、いいのかなぁ」

「ダンくんはわたしのともだちだよ?」

「カップもかってもらったし、わるいよ」


 ルンダール家の子どもでお金に困ったことのない私やお兄ちゃんにとっては気にすることではないのだが、借金があってお金のことに関してはずっとご両親が苦しんできたダンくんは考えるところがあるようだった。

 こういうときに私はどうすればいいのか分からない。助けを求めてお兄ちゃんの顔を見ると、私の気持ちをすぐに分かってくれた。


「向日葵駝鳥の収穫のときに、ダンくんを雇うよ」

「え!? おれ、やとわれるのか!?」

「しっかり働いてもらうからね。収穫は体力仕事だし、その後の種を乾かして外していくのも手間がかかるから、覚悟してね? その給料として前払いで海に行く旅費や、水着代、ミカルくんに上げたものの代金を渡しておくってことにしよう」

「……ありがとう。めちゃくちゃこきつかっていいからな!」

「ミカルくんも、働ける?」

「あい!」


 向日葵駝鳥の収穫に関しては初めてのことであるし、人手が足りないのは確かだった。使用人に手伝ってもらうのも悪くないが、やはり薬草畑のことはできるだけ自分たちでしたい。お兄ちゃんが荒れ果てた裏庭の薬草畑を蘇らせて、自分の勉強も兼ねて薬草を育て始めたのだ、自分たちでやらなければその苦労は分からない。

 領地の農民たちを豊かにするための実験用の薬草畑として、庭に広げているあの畑は自分たちでできる限り管理しないと、実際に育てる農民の労力を知ることができないのだ。

 けれど、助けてくれる大人であるカミラ先生はお腹に赤ちゃんがいるので無理をさせられないし、当主代理の仕事も無理をしないようにするとなるとビョルンさんの手も借りることは難しくなる。薬草学の専門課程まで進んだビョルンさんの知恵は借りられても、実際に手伝ってもらえないという事実は、初めての向日葵駝鳥栽培には厳しいものがあった。

 そこにダンくんとミカルくんが手伝ってくれるとなると、非常に助かる。6歳の私ですらお兄ちゃんの助けになっているのだから、身体の大きな7歳のダンくんは間違いなく戦力になるし、ミカルくんも細々としたことはできるような気がする。

 何より、ダンくんにはお金の心配をしないで私と友達でいて欲しかった。

 その全てを叶えるお兄ちゃんの提案に、私は改めてお兄ちゃんを尊敬し直したのだった。

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