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お兄ちゃんを取り戻せ!  作者: 秋月真鳥
二章 呪われた子を助けながらお兄ちゃんと楽しく暮らします!
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41.魔術具と誕生日お祝い

 忘れたハンカチを届けようとして、門から出てしまったために、私とビョルンさんは呪術師の毒の呪いで死にかけた。カミラ先生にとっては、それは重大な問題だったようだった。


「魔術具を作る工房に行きましょう」


 今までの魔術具は簡単にカミラ先生が魔術を込めて紐を編んで作ってくれていたが、それだけでは足りない。専門の職人さんの工房で作ってもらうことになったのだ。

 馬車にカミラ先生がファンヌを膝に乗せて、ビョルンさんがヨアキムくんを膝に乗せて、私はお兄ちゃんの膝に乗って、六人で行く。馬車の中では、ファンヌがカミラ先生とビョルンさんの結婚に興味津々だった。


「まえに、カミラてんてーは、かーたまみたいなものっていってたでしょ? ビョルンさんは、とーたま?」

「そう思ってくれると嬉しいなぁ」

「若いお父様ですね」


 照れながらも嬉しそうなビョルンさんと、にこやかなカミラ先生。二人はごく自然に寄り添っている。二人の距離が近いので、膝の上のヨアキムくんとファンヌの距離も近くて、手を繋いでいるのが可愛い。

 ふわふわの黒い癖毛のヨアキムくんと、もっとくりんくりんに巻いている薄茶色の髪のファンヌ。二人とも、小さな天使のようだ。


「よーの、とーたま? かーたま?」

「ヨアキムくんも家族ですから、そう思って構いませんよ」


 私たちがもっと大きくなって、カミラ先生がビョルンさんを連れてオースルンド領に帰る日が来ても、私たちの絆は消えない。そう思えるように、カミラ先生もビョルンさんも、本当の両親とは分かり合えなかったファンヌとヨアキムくんを受け入れてくれている。


「ふたりとも、うれしそうでよかった」

「イデオンも、叔母上とビョルンさんを両親と思って良いんじゃないかな」


 平和な光景に目を細めていると、お兄ちゃんの口から意外な言葉が出る。


「わたしは、りょうしんをこいしがるとしじゃないよ」

「恋しがっても良いと思うよ」

「わたしには、おにいちゃんがいるもん」


 きゅっと腕にしがみ付くと、お兄ちゃんは私を膝に乗せたまま、後ろからしっかりと抱き締めてくれる。もうすぐ6歳で幼年学校に入るのだから、いつまでもお膝に抱っこされているのはおかしいかもしれないが、お兄ちゃんには甘えたい。

 王都の牢にいるのが両親だと私にははっきりと分かっているし、あの両親の犯した罪で私が責められても、それは受け入れようと思っている。けれど、ファンヌはこんなに小さいのだから、両親の罪など考えずに伸び伸びと生きて欲しい。

 私はカミラ先生とビョルンさんは家族のように思っているが、父親と母親のように慕って甘えられないのは、仕方がないことだった。

 その分、お兄ちゃんに甘えてしまう。

 馬車は郊外の工房について、私たちを降ろした。大きな工房では、材料を作る職人さん、組み立てる職人さんなど、様々な職人さんがいて、大きな炉があったり、ガラス玉を作る作業所があったりするとカミラ先生は教えてくれた。

 通されたのは材料を組み立てる職人さんのところだった。


「呪い、攻撃の魔術、悪意ある魔術に対する防御の魔術具を、イデオンくんとオリヴェルとヨアキムくんと、ビョルンさんに。マンドラゴラの『死の絶叫』への耐性のある魔術具をファンヌちゃんに。色や形は本人たちに聞いてください」


 注文したカミラ先生に、細かなデザインを聞きに職人さんがやって来る。


「わたくち、きいろとオレンジがすきでつ!」

「よー、オレンジ、すち。おはな、すち」


 イメージを伝えていくヨアキムくんとファンヌに、職人さんがメモを取って「二人お揃いにしますか?」と聞いてくれていた。


「おそろい!」

「ふぁーたんと、いっちょ!」


 ファンヌが黄色、ヨアキムくんがオレンジで色違いのお揃いの魔術具を作ってもらえることになって、二人で飛び跳ねて喜んでいる。ヨアキムくんには追加で、呪いを発動させない魔術具も注文されていた。


「わたしは、あおがすきで……」

「じゃあ、僕は茶色にしようかな」


 お兄ちゃんの目の色だから好きとバレているのか、お兄ちゃんは私の目の色である薄茶色を選ぶ。ビョルンさんはカミラ先生に選んでもらっていた。

 作ってもらっている間に、工房の端で椅子に腰かけて、お兄ちゃんと話す。


「カミラせんせいのネックレスみたいなのも、つくれるのかな?」

「立体映像を撮影する魔術具?」

「うん。いろんなもののりったいえいぞうが、てがるにとれたらいいなぁとおもって」


 話していると、カミラ先生が近づいて来てくれた。


「オリヴェル、呼びましたか?」

「イデオンが欲しいものがあるみたいなんです。叔母上のネックレスみたいな、立体映像を撮れるものを」

「これは、専門的な立体映像を撮ってくれる職人さんの使うような緻密なものではありませんが、良いですか?」

「え? つくってもらっていいんですか?」


 私が見ていないうちにお兄ちゃんはカミラ先生を手招きして、呼んでいたようだ。あっさりと作ってもらえそうで、私は慌ててしまう。

 きっとお兄ちゃんやカミラ先生は、それで私が家族の立体映像を撮ろうとしていると思っているのだろうが、もちろん、そういう立体映像も撮るつもりだが、貴族がもし私たちに仕掛けて来たときに、証拠映像を残すために手元に欲しがっているなんて思いもしないのだろう。

 絶対に言えない。

 でも、欲しいのは確かなので、お願いする。


「つくってもらえるなら、ほしいです」

「良いですよ。オリヴェルはいりませんか?」

「僕も欲しいかな。可愛いイデオンとファンヌとヨアキムくんの立体映像や、薬草の成長の様子を記録出来たら面白いでしょうね」


 追加でお兄ちゃんとお揃いで、立体映像の撮れるネックレスを作ってもらうことになった。

 最初に出来上がったのは、小さな透明なガラス玉の中にヨアキムくんがオレンジの薔薇、ファンヌが黄色い薔薇が浮かんでいて、編み紐はヨアキムくんが黄色、ファンヌがオレンジという綺麗なブレスレットだった。紐の結び目で、長さが調節できるようになっている。


「かわいい!」

「きれー!」


 二人で見せあって喜んでいるヨアキムくんとファンヌを見ていると、私とお兄ちゃんが呼ばれる。次に出来上がって来たのは、長方形のプレートに七宝のように青く蓮の花が描かれているものが私、茶色と緑で木の描かれているものがお兄ちゃんで、私が紺色の紐、お兄ちゃんが焦げ茶色の紐で長さを調節できるようになっているネックレスだった。


「立体映像の撮影もできるようになっています」


 私の身体が小さいので、何か所も魔術具を付けると邪魔になるかもしれないと配慮してくれて、全部の魔術を一つの魔術具に込めてくれたと説明を受けた。お兄ちゃんと色違いのお揃いで、嬉しくて何度もプレートを撫でる。

 ビョルンさんは長方形の白いガラス玉に赤い薔薇のついたペンダントトップのネックレスだった。

 全員分できたので、カミラ先生がお会計をして、お礼を言って馬車に戻る。そのままお屋敷に帰るかと思っていたら、途中で街の雑貨を売っているお店で、カミラ先生は馬車を止めた。


「イデオンくんとファンヌちゃんのお誕生日お祝い、買いたいのですが、良いですか?」

「わたしとファンヌの?」

「なぁに?」


 興味津々のファンヌに、カミラ先生が連れて行ったのは、マグカップを置いてあるスペースだった。子ども用の小さなマグカップから、大人用の大きなものまで、取り揃えてある。


「私もオースルンド領から食器は持ってきていませんし、ビョルンさんの食器はエレンさんに譲ってしまったし、オリヴェルもイデオンくんもファンヌちゃんもヨアキムくんも、自分のカップを持っていないでしょう?」


 おやつのときに出されるカップは、代々ルンダール家に伝わってきたもので、とても美しいのだが、ファンヌやヨアキムくんには大きすぎる気はしていた。それに気付いたのも、ビョルンさんがお兄ちゃんとヨアキムくんの誕生日に、サイズの違うカットグラスを贈ってくれたからだった。小さなグラスは私たちの手に合った。


「ウサギたん!」

「わたくち、ヨアキムくんとおそろいがいーの」


 ヨアキムくんが手が届かなくて指さしている棚の上の子ども用の小さなマグカップは、白いウサギと、黒いウサギが描いてあるものだった。白いウサギをヨアキムくんが、黒いウサギをファンヌが欲しがって、それに決まった。

 私が釘付けになったのは、白い地に青だけで薔薇の描かれたカップだった。美しいそれに見惚れていると、お兄ちゃんが取ってくれる。


「大人用だけど、大きくないかな?」

「きれい……おにいちゃんは、こういうの、すき?」

「イデオンもお揃いにしたいの? いいよ」


 お兄ちゃんは受け入れてくれて、私はその青い薔薇のマグカップを買ってもらうことになった。ビョルンさんとカミラ先生は、白い地に緑と赤でイチゴの描いてあるカップを選んでいる。

 誕生日に開ける約束をして、カミラ先生は全部を箱に入れてリボンをかけてもらった。

 実感もなかった誕生日が、俄かに楽しみになってきた。

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