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お兄ちゃんを取り戻せ!  作者: 秋月真鳥
二章 呪われた子を助けながらお兄ちゃんと楽しく暮らします!
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39.ヨアキムくんと復讐

 オースルンド領の次期領主だが、現在はルンダール領の当主代理様。カミラ先生の結婚について、オースルンド領で式を挙げるか、ルンダール領で式を挙げるか、揉めなかったわけではない。

 好きなひととしか結婚しないと言って、お見合いも全部断っていたカミラ先生が結婚してくれる。しかも、ルンダール領のアンネリ様の母親の妹の嫁ぎ先のサンドバリの血筋と。それだけで、オースルンド領のお兄ちゃんのお祖父様とお祖母様は、大喜びだった。

 結局式はルンダール領で挙げるが、ドレスやタキシードはオースルンド領で用意するという形で結婚式が行われることに決まった。

 容体が落ち着いて、いつも通りに薬草畑で働けるようになってから、私はそれを聞かされた。

 春に向けて、薬草畑の開墾は始まっている。土を耕して、畝を作っていく作業はお兄ちゃん中心にしかできないが、私は肥料の袋を持って土に混ぜる作業をして、ファンヌとヨアキムくんは土が柔らかくなるように水を撒いていた。その他にも、新しい畑に柵を作る作業もあった。


「わたくち、くい、うちまつ!」

「ファンヌ、ちからをいれすぎないでね」


 肉体強化の魔術を使ったファンヌが、飛び上がってお兄ちゃんの身長くらいある杭を打ち込んでいく。お兄ちゃんは杭を支えているが、ファンヌが確実に槌で杭を打ち込む様子に、感心していた。


「ファンヌ、とても上手だよ」

「もういっぽん!」

「よろしくね」


 打った杭に金網を張り巡らせて固定していくと、夏に植える向日葵駝鳥のための檻が完成した。入口は木戸を付けて開くようにしている。


「いけない、時間だ。急がなきゃ」


 作業に没頭すると、時間を忘れてしまう。

 シャワーを浴びて朝ご飯を詰め込んで、お兄ちゃんは魔術学校に出かけて行った。朝ご飯を食べるのが間に合わなくて、私は行ってらっしゃいが言えずに、落ち込んでしまう。

 ほんの小さなことかもしれないけれど、幼い私にとっては、毎朝お兄ちゃんに行ってらっしゃいを言うのが、大事なことなのだ。

 部屋に籠って拗ねていると、ヨアキムくんを抱っこしたカミラ先生が訪ねて来た。

 ルンダール領とオースルンド領を行き来して、その上、当主の仕事までしなければいけない。カミラ先生は今最高に忙しくて、私たちの家庭教師をしている時間もない。

 久しぶりに家庭教師をしてくれて何か教えてくれるのかと子ども部屋に移動するため、椅子から降りようとしたら、カミラ先生は小刻みに頭を振った。


「カミラせんせい、おいそがしいんじゃ?」

「ビョルンさんが採寸されてる間に抜けてきました。花婿の晴れ姿は、当日初めて見た方がいいでしょう?」

「じゅぎょうですか? ファンヌは?」

「ファンヌちゃんにも内緒で、行きたいところがあるのです」


 よく見るとカミラ先生はビョルンさんが来る前のような、紺色の地味なワンピースを着ていて、久しぶりに目くらましのかかった眼鏡をかけていた。片腕にヨアキムくん、もう片方の手に私を抱っこすると、カミラ先生は移転の魔術を使う。

 飛んだ先は、じめじめとした異臭のする牢の廊下だった。


「お前ら、何しに来た!」


 鉄格子に阻まれて近寄れないが、私たちに声をかけたのは、アルビノの呪術師である。彼を見せながら、カミラ先生はヨアキムくんに聞いていた。


「あのひとがイデオンくんとビョルンさんを、苦しい目に遭わせました。ヨアキムくん、どう思いますか?」

「わりゅい!」

「嘘だろ……呪いの子を連れてくるなんて……」


 幼くて可愛いヨアキムくんが、アルビノの呪術師には恐ろしいものに見えているのだろう。無言のままカミラ先生はヨアキムくんの腕の編み紐を外した。


「おまえ、ちらい! ふこー、なれ!」


 不幸を願ってはいけないと、ビョルンさんからヨアキムくんは言われていた。それは呪いに繋がるから。

 それでも、カミラ先生はヨアキムくんに呪いを使わせた。


「ひっ!?」


 悲鳴を上げてアルビノの呪術師が倒れるのを無視して、私たちは次の目的地へ進んでいた。

 次は厳重に扉が閉められた独房だ。四方が固められて、鉄格子もなく外を見ることもできない。外から中を見ることもできないが、中から聞こえてきた声に、ここにいるのが誰か、私は察していた。


「助けてくれ……マンドラゴラの『死の絶叫』が聞こえるんだ……」

「気分が悪い……頭が割れるように痛い……」


 隣り合った独房からそれぞれに聞こえてくる男女の声。

 その声に、カミラ先生が暗い表情になった。


「独房に入ってもなお、あの呪術師にイデオンくんとファンヌちゃんの暗殺を依頼したのは、この二人と、ヨアキムくんの両親だということが分かりました」


 牢屋番に金の隠し場所を教えて、呪術師を出すように頼んだ二組の夫婦。両親が私を殺したいくらい憎んでいることはあり得る話だが、独房から抜け出せない腹いせにそこまでするかと呆れる思いだった。


「イデオンくん、どうしますか?」

「ヨアキムくん、おねがい」

「あい。ふこー、なれ!」


 黒い可愛いお目目できりっとドアの向こうを睨み付けると、中でひとの倒れる音がする。その音を聞いて、私たちは最後の目的地に向かっていた。

 そこには、黒髪のヨアキムくんによく似た両親が、捕えられている牢があった。二人ともやつれて、汚れた格好になっている。


「いでおにぃに、くるちい、ちた、わりゅい!」

「ヨアキム!」

「早くそんなひとたちから離れて、私たちを助けて!」

「ちらい! だいっちらい! ふこー、なれ!」


 ヨアキムくんが口にした瞬間、二人の座っていたそれぞれのみすぼらしいベッドが壊れて、二人は床の上に尻もちをついていた。


「ばいばい」


 振り返ることなく、抱っこされたままヨアキムくんは両親に手を振っていた。

 目的を終えて、ヨアキムくんと私とカミラ先生はお屋敷に戻る。

 それ以降、呪術師は逃げ出そうとすると必ず転んで、足をぶつけて悲鳴を上げて見つかるし、両親は独房の中で何度も転んで頭をぶつけるし、ヨアキムくんの両親は牢の触れるものが壊れて怪我をするようになったらしいが、もう私には関係のないことなので噂を聞いても気にしなかった。


「今日のことはビョルンさんにも、オリヴェルにも、ファンヌちゃんにも、内緒ですよ」

「あい、ないちょ」

「いいません」


 約束をして、急いで結婚式の準備に戻って行くカミラ先生を見送った。子ども部屋にヨアキムくんを送って行くと、ファンヌが「ふふふ」と笑っている。


「わたくち、しっていてよ?」

「な、なにを?」

「わたくちを、おどろかせるつもりなんでしょ?」


 ヨアキムくんの腕を取って、ファンヌがぎゅっと抱き付いた。


「ヨアキムくんは、にぃたまのおゆずりばかりで、じぶんのおようふく、もってないの。カミラてんてーのけこんちきのために、さいすんにいってたのね?」


 あ、そういう風に誤解しちゃうんだ。

 それはそれで誤解を解かない方が、誰にとっても良いような気がして、私とヨアキムくんは顔を見合わせて「ないしょ」と言った。

 すっかりヨアキムくんの新しい服ができると思い込んでいるファンヌは、くふくふと嬉しそうに笑っている。


「サプライズはだいじだから、ないちょにされてあげる」


 4歳が近くなって、ファンヌは喋るのが流暢になった。

 ファンヌと私は誕生日が近いのに、お祝いのパーティーに出されるのは私だけで、ファンヌは呼ばれもしなかった。女性は当主になれないという両親の嫌な思い込みが、ファンヌを公の場に出さなかったのだろう。

 お兄ちゃんが当主になりたくなくて、薬草学者として補佐の道を選ぶのならば、当主はファンヌがぴったりかもしれない。

 この年で肉体強化の魔術も操れるし、呪いと魔術への耐性も付いている。更に、ヨアキムくんという婚約者がいる。

 お兄ちゃんはファンヌに期待しているのかもしれない。ただし、ファンヌの成人まではまだ15年もかかるのだが。


「ただいま、イデオン、ファンヌ、ヨアキムくん。何をして遊んでた?」


 魔術学校から帰って来たお兄ちゃんが、子ども部屋にやってくる。

 私とヨアキムくんは声をそろえた。


「ないしょ」

「え? なんだろう?」

「わたくち、ちってるの。きっと、ヨアキムくんのおようふくのさいすんよ」

「結婚式のための? それは内緒にするんだったら、聞けないなぁ」


 ファンヌの可愛い勘違いのおかげで、私もヨアキムくんも、お兄ちゃんにこれ以上追及されることはなかった。

 呪いを使わないようにビョルンさんは言っていたが、カミラ先生の教育方針は別なのかもしれない。使いこなせるのならば、そうした方が良い。

 お兄ちゃんに言えない秘密がまたできてしまった私は、その日はお風呂でも口数が少なかった。

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