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お兄ちゃんを取り戻せ!  作者: 秋月真鳥
二章 呪われた子を助けながらお兄ちゃんと楽しく暮らします!
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21.ブーツと池

 冬が近くなって、靴職人がお屋敷にやってきた。

 私たちの足の型を取って、ブーツを作るのだという。


「ブーツですか? おくつでは、いけないのですか?」


 盛装のときには皮で作られたぴかぴかの靴を履くが、それ以外のときには、私とファンヌとヨアキムくんは布で作られた子ども用の靴を履いていた。まだ足も小さくて、すぐに履けなくなるので、革のブーツはもったいない。

 主張する私に、カミラ先生はしゃがみ込んで目を合わせた。


「今履いている靴は、水に濡れたら水漏れがするでしょう」

「ブーツはしないんですか?」

「魔術をかけて、水漏れがしないものを作ってもらいます。池で水草の世話をしたり、雨の日に出かけたりするときのために、ブーツは必要ですよ。それに、雪の日にも重宝します」


 お金を稼ぐ術がない5歳の私と3歳のファンヌ。それにヨアキムくんもお金を稼げる年ではない。まだ2歳なのだ。全てルンダール家のお金で、それは結局税金から来ていると思うと、無駄遣いは避けたかった。

 しかし、話が薬草のこととなると別だ。薬草栽培は、ヨアキムくんの幾重にもかけられた呪いを解くためにも、領地を潤すためにも必要だ。薬草栽培のノウハウを私たちが知っていれば、栄養剤のレシピを公開したように、薬草栽培の効率のいいやり方も公開できる。

 どの薬草とどの薬草を近くに植えると害虫がつきにくいとか、同種の薬草を近くに植えると交配が起きてしまうかもしれないとか、ビョルンさんから習った知識もあった。


「やくそうのためなら、つくってもらいます」

「わたくちと、ヨアキムくんも?」

「ファンヌちゃんとヨアキムくんも、雨の日も薬草畑に出ますし、池でも遊びたいでしょう? 二人にはレインブーツを作ってもらいましょうね」


 ファンヌとヨアキムくんは水を弾く魔術のかかった特殊な布のレインブーツを、私はもう5歳なので水漏れのしない皮のブーツを作ってもらうことになった。


「僕も成長途中だから、今作るともったいないかもしれません」

「オリヴェル、あなたが遠慮すると、みんな遠慮してしまいますよ」

「……大事に使います」


 お兄ちゃんも型を取ってもらって、工房で職人さんが作って、出来上がり次第納品してくれるということだった。

 一週間後、出来上がったブーツとレインシューズが届けられて、ファンヌとヨアキムくんはお目目を輝かせて、飛び跳ねていた。


「よー、おかさまたん!」

「わたくち、ひまわり!」


 ヨアキムくんのレインシューズは可愛い金魚柄で、ファンヌのレインシューズは向日葵柄だったのだ。履くのがもったいなさそうに抱き締めている二人に、カミラ先生が「どうぞ、履いてみてください」と促す。

 一人ではぐらついて靴が履けないヨアキムくんも、すっぽりと足の入る少し大きめサイズのレインシューズは自分で履くことができた。


「よー、でちた」

「にあってゆの。ヨアキムくん、かーいー」


 可愛いと絶賛するファンヌも、レインシューズがよく似合って可愛い。私はブーツの紐の結び方を、お兄ちゃんと一緒にカミラ先生に習っていた。

 紐のある靴を履いたことがないので、紐を結んだことがなく、苦戦する私に、今回はお兄ちゃんが結んでくれる。綺麗なちょうちょ結びに、私はほぅっとため息をついた。


「僕もブーツは初めてだよ」

「おにいちゃん、かっこいいの」


 長身のカミラ先生よりも既に背の高いお兄ちゃんは、ブーツも大人用のように大きかった。出来上がっていた池に、鱗草を植えに行く。ビョルンさんから貰った種をバケツで育ててある程度まで大きくして、苗にしたのだ。

 池の始動に、カミラ先生は、サプライズを忘れていなかった。


「ヨアキムくん、ファンヌちゃん、こっちのバケツを零さないように運んでくださいね。零れないように魔術をかけてますが」


 二つ並んだ小さなバケツ。興味津々でファンヌとヨアキムくんが覗き込むと、上に零れないように透明な蓋のような結界の張られた中には、色とりどりのひれの大きな金魚が入っていた。


「おかたまたん! ふぁーたん、おかたまたん!」

「ヨアキムくんのきんぎょなの!」

「二人とも金魚を飼いたがっていたでしょう。池に氷が張らないうちは、毎日餌をあげてくださいね」

「えた! ちんじょに、えた。よー、あげらりる」


 大喜びでバケツを持って、ヨアキムくんとファンヌが池に向かって歩き出す。

 鱗草の苗は、池の下に敷いてある砂利に、重りを付けて植えていく。土まで根が張れば、自然に交配して、池の中で育っていくだろう。


「鱗草は浄化の力がありますが、金魚は大丈夫ですか?」

「鱗草と相性の良いものを選んできましたよ」


 鱗草には浄化の力があって、水を澄ませるのだが、澄んだ水の中では隠れるところがないので、あまり魚は住まないとお兄ちゃんが魔術学校で習ったことを教えてくれた。他の水草も一緒に育てればいいのだが、今のところ、育てたい水草がないのだ。

 適当に植えてしまうと、植えたいものが出て来たときに、それと相性が良くない場合がある。ビョルンさんに教えられて、私とお兄ちゃんは、薬草の相性を考えるようになった。

 図鑑や文献で見ただけでは足りないことが、たくさんある。

 水草を植え終わると、次はヨアキムくんとファンヌの番だった。

 結界の魔術を解いてもらって、バケツの中の金魚を池に放す。


「ちゃぷちゃぷちてゆ」

「およいでるねー」


 金魚が泳ぐ姿をしゃがみ込んで、うっとりと見ているヨアキムくんとファンヌに、カミラ先生が金魚の餌を渡した。


「お水に落ちないように気を付けてあげてくださいね」

「あい!」

「ヨアキムくん、わたくちよりまえにでたら、めーよ?」

「あい」


 身を乗り出して餌を水面に投げると、金魚が寄って来る。ばしゃばしゃと水しぶきを上げて元気に泳いで、餌を食べる姿に、ヨアキムくんがぷるぷると感動に打ち震えていた。


「よー、あげらりた」

「じょーじゅらったの」


 金魚と触れ合うことも初めてであろうヨアキムくん。毎日が感動に包まれている。

 全ての作業を終えて、子ども部屋に戻ると、カミラ先生からヨアキムくんのことで発表があった。


「調べてみたのですが、ヨアキムくんは、オリヴェルと同じ月の生まれのようなのですよ」

「誕生日が同じ月? ということは、僕は来月で15歳になるけど、ヨアキムくんも来月で3歳になるということですか」

「よー、みっちゅ? ふぁーたん、おなじ?」


 そうだった。

 私はお兄ちゃんが来月誕生日だということをすっかりと忘れていた。しかもヨアキムくんもお誕生日だという。

 お誕生日は私とファンヌとお兄ちゃんで祝ったのが一回、もう一回はお兄ちゃんは部屋から出てはいけないと命じられていたので、夜にケーキを届けただけで、盛大に祝われたことはない。


「パーティーは、出席しなければいけませんか?」

「気が重いのは分かります。次期当主ですからね」


 お祝いのパーティーに苦い顔をするお兄ちゃんに、私は良いことを思い付いた。


「パーティーいがいに、ヨアキムくんとごうどうで、わたしたちかぞくだけでおいわいをしてもいいですか?」

「イデオン、祝ってくれるの?」

「わたくちも、いわいまつ」

「よーも」

「ヨアキムくんはいわわれるほうだけど……おにいちゃんをいわうから、いわうほうでもあるのか」


 子ども部屋でお兄ちゃんとヨアキムくんの合同誕生日をするという提案には、お兄ちゃんは笑顔になった。嬉しそうな顔が見たかったのでそれは良いのだが、私は立ち尽くしてしまった。

 提案したのは良いのだが、お兄ちゃんにお誕生日お祝いをあげることができない。私にはお金を稼ぐ術がないのだ。

 マンドラゴラはお兄ちゃんとファンヌと一緒に育てたので、私のお金にすることはできないし、いつでもマンドラゴラに頼るわけにはいかない。


「カミラせんせい……わたし、おにいちゃんのおたんじょうびおいわいがかえない……」


 しょんぼりしていると、カミラ先生が薄茶色の髪を撫でてくれた。


「お金のかかっていないものでも、イデオンくんが用意したものなら、オリヴェルは喜びますよ」

「わたくち、にがおえを、かきまつ」

「ファンヌちゃんもこう言ってますし」

「おにいちゃんに、なにかあげたい……」


 うるうると目が潤む私に、お兄ちゃんが聞いていて、抱き締めてくれる。


「お庭のお花でも僕は充分嬉しいよ。前は歌を歌ってくれたじゃないか。あれもとても可愛くて嬉しかった」

「でも……」


 5歳には5歳のプライドがあった。

 何か記念に残るものをお兄ちゃんにプレゼントしたい。


「分かりました。後で、二人で相談しましょう」


 そろそろ仕事に戻らなければいけないからと、カミラ先生が私と指切りをして部屋を出て行く。

 私は洟を啜って、お兄ちゃんに抱き締められていた。

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