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お兄ちゃんを取り戻せ!  作者: 秋月真鳥
最終章 お兄ちゃんと結婚します!
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28.魔術学校の最後の日

 六年間通った魔術学校。

 最初の一年はお兄ちゃんが移転の魔術で送り届けてくれた。お昼ご飯も隣接する研究課程の校舎から降りてくる階段のある中庭で待ち合わせをして、気候が良いときには中庭で、暑いときや寒いときには魔術学校の空き教室で食べた。私の魔術学校生活の中で、思い出に残る大事な一年だった。

 二年生と三年生の間は、ダンくんが出してくれたベルマン家の馬車に、フレヤちゃんと一緒に乗せてもらって通学した。フレヤちゃんとダンくんの仲が近付くにつれて私は邪魔かもしれないと考えたこともあったが、二人ともそんなことは全く気にせずに帰り道では寄り道をしたりして楽しく過ごした。

 四年生からはファンヌとヨアキムくんが魔術学校に入学してきた。移転の魔術が自由に使えるようになっていた私は、ダンくんとフレヤちゃんとの馬車ではなく、ファンヌとヨアキムくんと手を繋いで移転の魔術で魔術学校に通った。ファンヌとヨアキムくんは魔術学校に歌劇部を作って、その年は私とファンヌが主役で歌劇発表会をした。

 お兄ちゃんに告白されたのも、アデラちゃんと出会ったのもこの年だ。私にとっては忘れられない一年になった。

 五年生では歌劇部は引退して、早くルンダール家に帰れるようにした。歌劇部のあるファンヌとヨアキムくんは下校は馬車でするようになった。一人で移転の魔術で帰るとアデラちゃんが待っていて、私のお膝の上に乗って執務室でビーズを作っていた。

 そして最後の六年生。亡霊騒ぎがあって大変ではあったが、私は卒業の年を迎えた。研究課程のゼミも決まって、来年度からは研究課程に進めることになっている。

 卒業の日、私は制服を着てファンヌとヨアキムくんと手を繋いでいた。二人を魔術学校に連れて行くのもこれが最後だったから、卒業式を見に来てくれる二人をどうしても私の移転の魔術で連れて行きたかったのだ。

 魔術学校の卒業式は大人数が来られない。お兄ちゃんとアデラちゃんとファンヌとヨアキムくんに来てもらって、オースルンド家のカミラ先生一家やお祖父様やお祖母様、ボールク家のデシレア叔母上一家は、ルンダール家のお屋敷で卒業式後にお茶会をすることになっていた。

 移転の魔術で魔術学校に飛ぶと、ダンくんもミカルくんを連れて来ていた。フレヤちゃんはお姉さんとご両親を連れて来ていた。


「次は俺がアイノを送ってやるんだ」

「それは頼むな」


 ミカルくんの宣言にダンくんはしみじみとしているようだ。アイノちゃんが入学してくるまでまだ数年かかるが、そのときにはミカルくんが送って行く。ダンくんにミカルくんが送ってきてもらったように、ベルマン家では受け継がれていく。


「イデオンぱぁぱのがっこう?」

「そうだよ。アデラちゃん、卒業するから見ててね」

「そつぎょうって、なぁに?」

「学校で全部の勉強が終わって、次の学校に行くために、その学校とお別れすることだよ」


 問いかけるアデラちゃんにお兄ちゃんが説明している。

 私も頷いて、講堂に向かった。講堂には六年生が集まっている。正直卒業式よりも今夜あるプロムの方を楽しみにしている生徒が多いだろう。

 卒業の挨拶はフレヤちゃんが頼まれていた。


「魔術学校での六年間、長いようで、今は短く感じられます。お世話になった先生方、これから研究課程に進む友人たち、そしてこれから就職する友人たち。感謝しています。これから先、何があろうともここで学んだことを忘れずに共に進んでいきましょう」


 凛と顔を上げて挨拶をするフレヤちゃんに拍手をする保護者の中に、カリータさんの姿もあった。これからフレヤちゃんはカリータさんの後継者として、フレヤ・シベリウスとなり、シベリウス家のお屋敷に通う。研究課程の勉強をしながら貴族社会にも慣れていくだろう。


「これからもよろしくね」


 壇上から降りて来たフレヤちゃんが私とダンくんの横を通り抜けるときにそっと零した一言。


「こちらこそよろしく」


 それがダンくんにだけ向けたものではないことは、私には分かっていた。例え恋仲になろうともフレヤちゃんは幼馴染の私を置いていくような子ではない。

 全員で記念の立体映像を撮って、卒業式は終わった。

 ルンダール家に帰るとカミラ先生とビョルンさんとエディトちゃんとコンラードくんとダニエルくんと、デシレア叔母上とクラース叔父上とエメリちゃんとランヴァルドくんが待っていてくれた。


「お帰りなさい、卒業おめでとう!」


 口々に言われて私は照れてしまう。

 お昼ご飯を食べてから談話するつもりだったが、アデラちゃんとエメリちゃんとランヴァルドくんとダニエルくんが眠くなってしまった。アデラちゃんとエメリちゃんは子ども部屋にベッドがあっていつも使っているし、ランヴァルドくんはベビーベッドを持ってくれば良かったのだが、ダニエルくんが眠る場所がない。

 急遽ソファに寝かされたダニエルくんのために子ども部屋から私たちは大広間に移った。大広間はルンダール領中の貴族が集まってパーティーを開くことがあるので物凄く広い。その端を使ってのお茶会はスペースが空き過ぎて人数的に少し寂しかった。


「ルンダール中でイデオンの卒業を祝えば良かったかな?」

「お兄ちゃん、それは恥ずかしいからやめて!」


 親ばかならぬ兄馬鹿なことを言うお兄ちゃんを私は止める。カミラ先生とビョルンさんがくすくすと笑っていた。


「イデオンくんとオリヴェルは今夜のプロムが楽しみで、気が急いているんじゃないですか?」

「そんなことはないですよ」

「去年のジュニアプロムも一緒に出ましたから」


 プロムは楽しみだったが、浮かれるほどではない。

 というわけでもなく、私は実はちょっとそわそわしていた。去年もお兄ちゃんと踊って楽しかったし、今年も楽しいプロムにしたいと思っている。今年はカミラ先生とビョルンさんが注文してくれたお揃いの形のスーツを着ていこうと決めているのだ。


「アデラちゃんのために、エメリがお泊りするんですよ」

「エメリはこの日を本当に楽しみにしていて、毎日『きょうがおとまり?』って聞いて来てたんです」


 アデラちゃんのためにエメリちゃんを巻き込むのは申し訳ないと最初の頃は悪巧みで思っていたけれど、エメリちゃんは完璧にルンダール家に馴染んでしまって、今は早朝にやってきて薬草畑の世話をして朝ご飯まで一緒に食べて、アデラちゃんと一緒に保育所に通うようになっていた。


「すっかりルンダール家の子どもですね」

「コンラードも酷かったんですよ。オースルンド領に連れて帰った当初は泣き喚くし、脱走するし」


 今では笑い話にできるが、カミラ先生もビョルンさんもあの頃は困り果てていた。


「エメリとランヴァルドもそうなるのかしら」

「きっとなりますよ。ルンダール家は居心地がいいみたいですからね」


 笑いながらデシレア叔母上とカミラ先生が話している。

 この居心地の良さを作り上げてくれたのはカミラ先生とビョルンさんだが、それを維持できているのはお兄ちゃんの功績かもしれない。

 カミラ先生と過ごした年月をお兄ちゃんが引き継いでルンダール家は保たれている。


「イデオン、そろそろ準備をしないと」


 まだ制服姿の私にお兄ちゃんが声をかけてくれる。子ども部屋では起きた子どもたちがおやつを食べている声が聞こえていた。

 私は部屋に戻ってスーツに着替える。

 お兄ちゃんと私で「今日は来ていただきありがとうございました」とお礼を言うと、カミラ先生とビョルンさんに代わる代わる抱き締められた。


「本当に大きくなったのですね」

「それでもまだ抱き締められてくれる」

「カミラ先生とビョルンさんなら、いつでも」


 私にとっては両親よりも両親らしい二人。お兄ちゃんに抱き締められるの以外はちょっとだけ緊張してしまうけれど、カミラ先生とビョルンさんなら平気だった。

 エディトちゃんとコンラードくんと挨拶をして、デシレア叔母上とクラース叔父上とも挨拶をして、オースルンド家のカミラ先生一家と、ボールク家のデシレア叔母上とクラース叔父上とランヴァルドくんを見送ると、ファンヌとヨアキムくんに私とお兄ちゃんが見送られる番になる。

 プロムの夜。

 お兄ちゃんと踊って、ダンくんとフレヤちゃんとお喋りをして、イェオリくんと話をして。

 魔術学校の最後の夜は過ぎていった。


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― 新着の感想 ―
[良い点] イデオン、魔術学校卒業おめでとう! フレヤちゃんも卒業の挨拶お疲れ様でした。 これからは貴族の仲間入りですね。 ルンダール家が居心地いいのは、マンドラゴラからマイナスイオンが出ているので…
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