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お兄ちゃんを取り戻せ!  作者: 秋月真鳥
最終章 お兄ちゃんと結婚します!
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25.四公爵とのお茶会

 二日目のお披露目のパーティーでは四公爵が集められてお茶の席に着いた。私の膝の上にはアデラちゃんがいるが、その辺はディオーナ様を助けた子どもとして特別に問題にされないようだ。

 オースルンド領のカミラ先生とビョルンさん、スヴァルド領のイーリスさんのご両親、ノルドヴァル領の領主夫婦、私とお兄ちゃんと私のお膝の上のアデラちゃんのルンダール領領主一家、そして国王陛下、マルクス宰相閣下、セシーリア殿下が同じテーブルに集まっている。

 国王陛下が切り出したのは大陸からの移住者の件だった。


「大陸からの移住者がこの国で冷遇されている現状について、ルンダール領から意見があった」

「自分の領地の領民を潤すだけで精いっぱいなのに、大陸から来たものにまで注意を払ってはいられませんよ」

「そうは言うが、結婚の法案が改正されて、今後魔術師は血が薄くなり力を弱めるか、数が減るかもしれない。そうなった場合に、魔術師ではないものも共に地位を築いて働ける環境が必要だ」


 ノルドヴァル領の領主の言葉に、国王陛下は述べる。

 その一歩として魔力を持たない大陸からの移住者について地位の向上を考えなければいけないと。


「この国は魔術で支えられているが、大陸はそうではない技術がたくさんあるという。そういう技術を取り入れて誰もが幸福に暮らせる国を目指したいのだ」

「法案を変えたことがそんなにすぐに関わってきますか?」

「法案を変えたのは私たちだ。百年後、二百年後に魔術師の血が薄くなってから政策を始めても間に合わない。私たちが変えたものは私たちが責任を持たなくてはならない」


 国王陛下はスヴァルド領の領主にも説明をしていた。

 私たちルンダール領の領主一家とオースルンド領の領主であるカミラ先生とビョルンさんにはもう分かっている話だ。

 大陸の技術には私たちも興味があった。


「大陸の技術はいずれ視察に行って取り入れていかなければいけませんね」

「視察団を組むことになるでしょう。そのときにひとを募るかもしれません」


 マルクス宰相閣下とセシーリア殿下が話している。

 大陸の技術を学ぶための視察団。行ってみたい気持ちもあるが、私はルンダール領を守らねばならない。


「大陸には魔術とは違う『科学』というものがあるのだと」

「魔術を使えないものでも簡単に火を起こせたり、部屋を暖めたりできると聞いています」


 噂だけだったが話に聞いていたことを私とお兄ちゃんが口にすると、国王陛下が私たちに顔を向けた。


「大陸の技術をルンダール領では学んでいるんだろう?」

「わたくし、おししょうさまにおしえてもらってるの!」

「アデラちゃん!」

「構わない。続けて」

「ビーズのつくりかたをおしえてもらっているの。おししょうさまはとてもじょうずなのよ」


 もじもじしながらもはっきりと話すアデラちゃんの言葉を国王陛下は頷きながら聞いてくれた。

 今後の課題として大陸からの移住者の件も話したところで、お茶を飲んでお菓子を摘まんで、お茶会は終わる。他のテーブルにいたファンヌとヨアキムくんは同年代の貴族や王族たちと話していたようだった。


「この年で婚約しているなんて驚かれました」

「少し前までは低年齢での婚約や結婚が普通だったのに、今ではすっかりと魔術学校を卒業してからや、研究課程を卒業してから結婚をするのが普通になりましたからね」

「低年齢での出産は危険だったので、結婚年齢が上がったことは国にとっても良いことです」


 ヨアキムくんの報告にカミラ先生とビョルンさんが穏やかに頷いている。ヨアキムくんとファンヌの左手の薬指には紫のサファイアのはまった婚約指輪が輝いていた。婚約指輪があって、ファンヌとヨアキムくんの仲睦まじさを見て、二人にちょっかいをかけて来る不埒な輩はいなかったようだ。

 ヨアキムくんとファンヌにちょっかいをかけると相手の方が酷い目に遭うと分かっているので私はほっと胸を撫でおろす。

 手を伸ばしてヨアキムくんとファンヌが自然に私の手を握った。


「帰りましょう、兄様」

「イデオン兄様、帰りましょう」


 この年齢になっても自然に二人が手を繋いでくれるのは、移転の魔術で魔術学校に送り迎えしているからだと分かっているが、二人共が私には可愛くてたまらない。ぎゅっと手を握ると、お兄ちゃんがアデラちゃんを抱き上げた。


「この度は弟のお披露目をありがとうございました」

「こちらこそ、来ていただきありがとう」

「また機会があればお伺いいたします」


 この場を辞する挨拶をしてお兄ちゃんはアデラちゃんを抱っこして、私はファンヌとヨアキムくんと手を繋いでルンダール領に戻った。

 ルンダール家のお屋敷に帰って来ると、子ども部屋でエメリちゃんが待っていた。


「おかえりなたい」

「申し訳ありません。どうしてもアデラ様を待っているとおっしゃって」


 すっかりとルンダール家の子どものようになっているエメリちゃん。アデラちゃんがお兄ちゃんの抱っこから降りて駆け寄って行った。


「エメリちゃん、きていたのね」

「わたくちのおうち、ここ」

「そうね、エメリちゃんのおうちは、わたくしとおなじね」

「違うよ、アデラちゃん!?」

「え!? そうなの!?」


 アデラちゃんまでが勘違いしている。

 もじもじと近寄って来たエメリちゃんはアデラちゃんを真似して作ってもらったお花の刺繍のついたポシェットから一通の手紙を取り出した。

 デシレア叔母上の署名がある。

 開いてみると中身にはお願いが書かれていた。


「デシレアさんから?」

「エメリちゃんが、お泊りのときにアデラちゃんと薬草畑の世話をしたのが忘れられないんだって。早朝に送り届けるから、薬草畑の世話に参加させてくれないかって」

「お弁当を持たせるって書かれてる……気にしないでいいのに」


 薬草畑の世話をして朝ご飯からルンダール家で食べるようになると、エメリちゃんはますますルンダール家を自分の家と思ってしまうかもしれない。それでもデシレア叔母上はできるかぎりエメリちゃんの望み通りにしてあげたいようだった。

 通信で話してみると、デシレア叔母上が頭を抱えている立体映像が映し出される。


『花の畑の世話をさせて誤魔化そうかと思ったのですが、「あーねぇねとちたのとちやう!」と聞かなくて……。ご迷惑かと思いますが、薬草畑の世話を一緒にさせてくれませんか?』

「デシレア叔母上はそれでよろしいのですか?」

『エメリが私の手元にいないのは寂しいですが、ルンダール家でアデラちゃんと一緒にいることがエメリは一番楽しい時期のようですので。朝ご飯はお弁当で持たせますわ』

「そこは気にしないでください。アデラちゃんと同じものを食べたいでしょうし」


 朝ご飯もルンダール家で食べることになったエメリちゃんは物凄く嬉しそうだった。


『もう一つ……お願いがあります』

「なんでしょう、デシレアさん」

『ランヴァルドが、「えー、えー」とエメリを探して泣くようになりました。この分だと近いうちにランヴァルドもエメリを追いかけてルンダール家に行きたがるでしょう』


 もう少し先のことだと思っていたが、ランヴァルドくんももうエメリちゃんと一緒にルンダール家に来たいと思うように育ってしまっていた。まだ1歳なので早すぎるが、この調子だと2歳になる前にルンダール家にエメリちゃんと一緒に通って来ることになりそうだとデシレア叔母上は話してくれた。


「大丈夫です、私もお兄ちゃんも小さい子は好きですし、エメリちゃんが来たがるならランヴァルドくんも来たがるだろうとデシレア叔母上も言っていましたし、覚悟はできています」

『そのときには乳母もつけますので、よろしくお願いします』


 深々と頭を下げてお願いしてから、デシレア叔母上はぽつりと呟いた。


『そういえば、私の乳母と姉の……ドロテーアの乳母は仲が良くありませんでした……』


 こんな風にデシレア叔母上がドロテーアのことを話すのは初めてかもしれない。両親はドロテーアを溺愛してデシレア叔母上を可愛がっていなかったようなのだが、デシレア叔母上は乳母にはとても可愛がられたと話してくれた。


『私を可愛がる乳母がドロテーアは気に入らなかったのでしょうね。エメリの乳母とランヴァルドの乳母はそんなことがないと良いのですが』

「それはデシレア叔母上が選んだのだから大丈夫だと思いますよ」

『ラウラさんに失礼なことを言ったりしたら、注意してやってくださいませ』


 エメリちゃんの乳母さんとラウラさんは仲が良いようなのでなんの心配もなかったが、乳母同士で仲が悪い例もあるようだ。ラウラさんは特に褐色の肌で目立つ容貌をしているので気を付けなければいけないとデシレア叔母上に気付かされた。

 通信を切ってからラウラさんに問いかける。


「王都で嫌なことはなかったですか?」


 曖昧に微笑んで答えないラウラさんは王都で陰口を叩かれたりしたのかもしれない。大陸からの移住者の問題は、根深いようだった。

 これから力を入れて取り組んでいかなければいけないと実感させられた。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 国王陛下が下からあげられる提案を柔軟に受け入れて、より良い国になるようにずっと先の未来のことも考えてくれる素晴らしい方で良かったです。 きっと未来では「一番国を発展させた賢王」と伝えられる…
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