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お兄ちゃんを取り戻せ!  作者: 秋月真鳥
最終章 お兄ちゃんと結婚します!
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14.移住者問題と焼きおにぎり

 列車から降りると歩いて私たちはお店を回った。ルンダール家近くのお店では、サンダルや水着はなかなか手に入れることができない。手に入れるためには特別に注文して誂えなければいけない。

 海沿いの街にはそういうお店がたくさんあった。私とお兄ちゃんとアデラちゃんとファンヌとヨアキムくん、カミラ先生とビョルンさんとエディトちゃんとコンラードくんとダニエルくん、デシレア叔母上とクラース叔父上とエメリちゃんとランヴァルドくんの三組に分かれて、お店を回った。

 それぞれにサンダルを買って履き替えて、水着を買って、ついでに夏用の可愛い柄のシャツとハーフパンツも買って、帽子を被って着替えてしまうと、来たときと全く違う姿になっていた。

 畑仕事のとき以外いつもスーツのお兄ちゃんが、ハーフパンツと柄のシャツとサンダルなんていうラフな格好に私はちょっとどきどきしてしまう。


「イデオンぱぁぱ、かわいい?」

「とっても可愛いよ」

「オリヴェルぱぁぱ、にあってる?」

「凄く似合ってるよ」


 涼し気なスカートと大きな花柄のシャツに着替えたアデラちゃんは、サンダルの履き心地を試すように周囲を歩いていた。ヨアキムくんとファンヌもそれぞれに見せ合いながら買い物をしていた。

 集合して浜辺のコテージまで歩いていく間、ぶつぶつとカミラ先生が呟いていた。


「魔物はいりませんからね……気を利かせてバーベキューにと持って来たりしたら、許しませんからね」


 そうだった。私が幼い頃に来たときにはドラゴンさんがミノタウロスを持って来たのだ。それをカミラ先生は忘れていなかった。

 血みどろでミノタウロスを仕留めるファンヌや、捌くカミラ先生をアデラちゃんやエメリちゃんに見せたくないので、私も心の中で「今回は絶対に邪魔をしないでください」と祈っておいた。

 三つのコテージが並んで建っている場所で、それぞれのコテージの鍵を管理人から渡されて一度はコテージに入ったが、私たちはすぐに出て来た。カミラ先生一家のコテージに集まる。

 ボールク家の乳母さんたちが食材の買い出しに行ってくれている間に、私はラウラさんを連れてカミラ先生とビョルンさんのところに話しに行った。アデラちゃんとエメリちゃんはエディトちゃんとコンラードくんとダニエルくんと遊んでいて、ランヴァルドくんを抱っこしたデシレア叔母上とクラース叔父上が付き添ってくれる。


「ラウラさんのことを見て、どう思いますか?」


 褐色の肌に彫りの深い顔立ちのラウラさんは一目でこの国の人間ではないと分かる。


「大陸から来られた方のようですね」

「ラウラさんはご両親が大陸から来て、ご自身はルンダール領で生まれ育ちました。ご両親は大陸から来た魔力がない技術者と言うことで二束三文の賃金で雇われて働いていましたが、私が見たところ、とても高度な技術を持った職人さんです」

「技術があってもこの国では大陸の人間は差別されます。オースルンド領の領主様として、この問題に取り組んではいただけませんか?」


 私とラウラさんの訴えにカミラ先生とビョルンさんが口を開く。


「実は大陸からの移住者の問題はオースルンド領でも持ち上がっています」

「オースルンド領が豊かなのでそこへ移住して来ようという大陸のひとたちがいるのですが、その方々は魔力がないか非常に低いので良い職にはつけません」

「魔力ではなく純粋な技術を見ることが私たちにはできていないのかもしれません」


 オースルンド領にも織物の技術を持った大陸の人間が移住してくることがあるのだが、オースルンド領の織物には糸に魔力が絡めてあって、それを術式を編むように織っていくのだから、魔力のない人間はどれだけ美しいものを作り上げても魔術がかかっていないというだけで評価されない。


「技術を評価し、魔術のかかった材料を準備して、魔力のないものも魔術のかかった作品を作れる工房を作る必要がありますね」

「平民の中には魔力のないものもたくさんいるわけですから」


 カミラ先生とビョルンさんの言葉に、私は劣悪な環境だったヘンリクさんとエルヤさんの工房を思い出す。あそこで働く職人さんたちも魔力を持っていなかったのではないだろうか。

 魔術のかかった材料を準備して、組み立てるだけの工房を作れば、あの工房で働いていたひとたちももっといい条件で働けるかもしれない。


「オースルンド領には既に問題になっていたのですね」

「ルンダール領が栄えてきたのも、ケントとドロテーアが捕えられてからのことです。これから大陸からの移住者が増えてくるようになりますよ。その前に対策を考えられたのは良いことです。ラウラさんですか。良い方がルンダール家に良いタイミングで雇われてくださいましたね」


 カミラ先生の話を神妙な顔つきで聞いていたお兄ちゃんの呟きに、カミラ先生がラウラさんの方を見た。この場にはオースルンド領の領主夫婦とルンダール領の当主がいる。

 深く頭を下げて恐縮するラウラさんにアデラちゃんとエメリちゃんが近寄って来た。


「ビーズがしたいの!」

「ラウラたん、ちよ?」


 誘われて話の途中なのにとラウラさんが躊躇っている。


「行ってきてあげてください」

「慕われているのですね。本当に良い乳母さんをルンダール家は得ましたね」


 私が促すとカミラ先生が目を細めていた。

 その夜はみんなでバーベキューをした。ランヴァルドくんはお米を炊いてもらって、おにぎりと小さく切ったお肉やお野菜を食べていたが、アデラちゃんもエメリちゃんもダニエルくんまでもお皿を持って、焼いてくれているカミラ先生とビョルンさんの前に列を作って待っていた。

 カミラ先生とビョルンさんが焼けたお肉やお野菜をお皿に乗せてくれる。


「カミラ様、焼きおにぎりをご存じですか?」

「おにぎりを焼くのですか?」

「ええ、味噌のたれで味付けをして」


 握ったおにぎりをデシレア叔母上が網の上に置くと香ばしい匂いがしてくる。食欲をそそる香りにファンヌもヨアキムくんも寄って来る。

 最終的には一時お肉やお野菜を焼くのを休んで、網の上全部が焼きおにぎりになってしまった。

 外側がかりかりに焼けた熱々の焼きおにぎりをみんなのお皿の上にカミラ先生とビョルンさんが置いてくれる。


「ラウラさんも、乳母さんたちも遠慮しないで」

「なくなりますよ!」


 声をかけられてオースルンド領領主夫婦の作るバーベキューを遠巻きに見ていたラウラさんやボールク家の乳母さんたちもお皿を持って参加していた。焼きおにぎりは人数分あって私もお兄ちゃんもカミラ先生もビョルンさんも食べることができた。


「熱々で、かりかりで、美味しい!」

「お米の甘さと味噌のしょっぱさがたまらないね」


 私とお兄ちゃんが歓声を上げているとそこかしこで「美味しい!」と声が上がっていた。


「う! うう!」

「ランヴァルド、もう食べ過ぎですよ」

「んー! んまっ!」


 ランヴァルドくんは食べているデシレア叔母上のを奪おうと必死だった。おにぎりが大好物だと聞いていたが、焼きおにぎりも好きなのだろう。

 お腹いっぱい食べて私たちはコテージに戻った。

 アデラちゃんとラウラさんとファンヌが女部屋、私とお兄ちゃんとヨアキムくんが男部屋で二部屋に別れる。順番にシャワーを使って、お休みの挨拶をしたのだが、すぐに男部屋にアデラちゃんがやって来た。


「まだ、いつつじゃないもの……まだ……」


 5歳までには私なしで寝られるようになろうと約束しているアデラちゃん。実は誕生日が明日で、お祝いの準備をしているなんて今は言えない。


「今日が最後だよ」

「イデオンぱぁぱ……」


 ベッドに抱き寄せて添い寝をして歌を歌うとアデラちゃんから健やかに寝息があがる。

 明日はアデラちゃんの誕生日。そして海に行く日でもある。

 楽しい明日の夢をアデラちゃんは見ているのだろうか。

 眠ったアデラちゃんを抱っこして、私はそっと女部屋のベッドに戻した。

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