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お兄ちゃんを取り戻せ!  作者: 秋月真鳥
最終章 お兄ちゃんと結婚します!
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4.4歳の決意

 大人の事情で4歳のアデラちゃんを振り回してしまうことには抵抗がなかったわけではない。しかし、これはディオーナ様という一人の生まれたばかりの抗うこともできない赤ん坊の命がかかった事案だった。

 早朝から慌ただしく王都に通信をすれば、青ざめた顔のセシーリア殿下と繋がる。婚約していた頃の名残でセシーリア殿下とはすぐに通信が繋がるようになっていたのが幸いした。


「ルンダール領のイデオンです。私と兄上はときどき不思議な夢を見るのですが、二人同時に同じ夢を見たときにはそれが現実で起こったことか、これから起こることである可能性が高いのです」

『それでは、知っているのですね……ディオーナ様が昨夜、亡霊に襲われました』


 やはりあの夢は現実だったらしい。


『ルンダール領からいただいていた守護のチャームが守ってくださったようなのですが、亡霊はディオーナ様を殺すまで諦めないと思われます』

「誰が送って来た亡霊か分かっているのですか?」

『母上の叔父上が使役の魔術で牢の管理人を操って脱獄しました。大叔父上は過去にもワイトを使って母上を脅迫した過去があります』


 ワイトをお妃様への贈り物に封印しておいて、触ったメイドさんに憑りつかせた過去のあるお妃様の叔父上。彼が脱獄したのならば犯人は彼しか考えられなかった。


「足取りは追えていないのですか?」

『全く……魔物たちのいる地域に逃げたのかもしれません』


 使役の魔術が得意なお妃様の叔父上は魔物を操ることもできた。魔物たちのいる地域に逃げて魔物を操って、遠方からワイトを送り込んで来ているのかもしれない。


『イデオン様、オリヴェル様、ディオーナ様を守ったのはルンダール領からいただいたチャームです。どうか、チャームをまた送ってくださいませんでしょうか?』


 チャームで時間稼ぎをしている間にお妃様の叔父上の居場所を探す方針なのだろう。


「それは、こちらから申し出ようと思っていました」

『なんと……ありがたい』


 セシーリア殿下の菫色の瞳から涙が零れるのを立体映像が映し出す。


『大人たちの確執はあっても、ディオーナ様は生まれたばかり、身を守ることもできない状態です。わたくしたちが守らねば』


 部屋には結界を張り巡らせてワイトが寄って来られないようにするつもりだとセシーリア殿下は話していたが、かなり地位の高い王族を取り込んだのか、複数の貴族を取り込んだのか、相当強い亡霊になっているようだった。結界だけでは安心ではないだろう。

 一度は呪いを弾いたアデラちゃんのチャームだけが頼りかもしれない。


「アデラちゃん」

「はい!」


 通信を切った後で私はアデラちゃんとラウラさんとお兄ちゃんと四人で話し合いの場を設けていた。


「保育所に頑張って通って、慣れて来たのに申し訳ないけど、保育所をお休みして欲しい」

「はい! イデオンぱぁぱがそういうなら」

「お休みして、ラウラさんと簡単な輪だけのチャームで良いから、作れるだけ作って欲しいんだ」

「わたくし、あかちゃんをまもるの?」

「そうだよ。国王陛下の赤ちゃんが悪い亡霊に狙われている。守れるのはアデラちゃんの作ったチャームしかない」


 説明するとアデラちゃんは神妙な顔つきで頷いていた。

 保育所にお休みの届けを出して、朝の薬草畑の世話も休んでアデラちゃんにはチャームを作ってもらう。アデラちゃんだけを休ませるわけにはいかないので、私も魔術学校を休んで王都から呼び出しがあればすぐに対応できるようにした。


「薬草畑のことは任せて!」

「魔術学校の授業も、ダンくんとフレヤちゃんにお願いして、ノートが借りられるものは借りてきます」


 事情を話すとファンヌもヨアキムくんも快く協力を申し出てくれた。

 その日作れたチャームは十二個。全て王都に送るとセシーリア殿下からお礼の通信が入った。


『その場しのぎかもしれませんが、これで大叔父上が掴まるまで繋げれば』

「足りなければまた送ります」

『よろしくお願いします』


 いくらビーズでものを作るのが好きとはいえ、食事と休憩以外はずっと作っていたアデラちゃんは晩ご飯の途中で私の膝の上で眠りかけていた。アデラちゃんにとっても非常に大変な一日になっただろう。

 眠ってしまったアデラちゃんを私はベッドに運んだ。

 翌日からはアデラちゃんにも私にも日常が戻って来た。王都で捜査は続いているが、それに私たちが関与することはできない。私たちができるのはルンダール領を守ることだけ。

 そのためにもアデラちゃんは保育所に行き、私はファンヌとヨアキムくんと魔術学校に行った。魔術学校に行くと事情を知っているダンくんとフレヤちゃんに挟まれてしまう。


「ディオーナ様を暗殺しようとしているって……」

「フレヤちゃん、それはまだ公にされていないから」

「ごめんなさい……アデラちゃんのチャームが役に立ったって?」

「うん、そうみたいなんだ。アデラちゃんには神聖魔術の才能があるみたいで、チャームにも神聖魔術が宿っているんだ」


 犯人を警戒させないように、まだ国王陛下はディオーナ様の子ども部屋に亡霊が出たことを明かしていない。除名されたが元王族がしでかしたかもしれないということで、内々に済ませられることならば済ませてしまおうと思っているのかもしれない。

 一晩寝たら元気に保育所に通って行ったアデラちゃんのことは心配していなかったが、ディオーナ様への亡霊の攻撃が激しくなっていないかは心配だった。

 今はアデラちゃんのチャームで守れているかもしれない。その守護の魔術を超える呪いを発動されたら、ディオーナ様はどうなるのだろう。

 不安な気持ちのままお屋敷に帰るとお兄ちゃんが私を待っていた。


「チャームが二つ壊れたって」

「え!?」


 用心のためにディオーナ様のベビーベッドには五つチャームを付けて結界も張って警備兵も配置して夜を徹して守っていたという。真夜中に急に警備兵がばたばたと倒れて、乳母も動けない中でやって来た亡霊がディオーナ様を殺そうとしたがチャームの守護に阻まれてできなかった。

 そのときに弾けて壊れたチャームの数は二つ。


「増えてる……」

「亡霊は日を増すごとに力を増しているのかもしれない」


 明日には三つ、明後日には四つ……そのうちにチャームでは守れなくなってしまうのではないだろうか。

 お兄ちゃんも考えたことは同じようだった。


「魔術具の工房の職人さんに来てもらっているんだ」


 応接室に移動して私とお兄ちゃんはアデラちゃんを膝に乗せて、ラウラさんと共に魔術具の工房の職人さんに話を伺った。


「私たちはそれぞれに魔術を込めて魔術具を作りますが、神聖魔術を込められる職人は工房にはおりません」

「王都の工房でもそうでしょうか?」

「王都の工房にいたとしても、適切な魔術具を作るには時間も手間もかかります。お聞きしたところ、ルンダール家のアデラ様は3歳の頃から無意識に魔術を込められていたとか? そのような逸材はいないのですよ」


 やはりアデラちゃんの才能は非常に貴重なものだったようだ。神妙な面持ちで私の膝の上でアデラちゃんも話を聞いている。

 職人さんは持っていた鞄から図案を取り出した。


「こちらが神聖魔術の正式な魔術具の図案となります」

「イデオンぱぁぱ、ドラゴンさんよ!」

「そうだね。始祖のドラゴンだね」

「こちらの図案で神聖魔術の魔術具は作られます」


 つまり、無意識に魔術を込めているアデラちゃんが正式な図案で作り上げることができれば、今の輪だけのチャームなどとは比べ物にならないくらいの神聖魔術の守護の力を持つ魔術具が作れてしまうのではないだろうか。


「始祖のドラゴンの絵柄……難しそうですね」


 アデラちゃんが現在使っているビーズの大きさを考えるとものすごく大きな作品になりそうだし、一日、二日で作れるものではないことは分かっていた。


「このビーズで作るとなるとどれくらいの大きさになりますか?」

「ビーズはこのサイズを使っているのですね。工房から同じサイズの魔術の込められたものを持って来るとして、出来上がりが椅子の座面くらいになるでしょうね」


 椅子の座面くらいの大きさの作品を4歳のアデラちゃんが作る。


「細かく編み込んでありますが、こんなことはアデラちゃんはできないのですが。色を変えて作るとしても何個目に何色を入れるとか、複雑なことはできないと思います」


 よくアデラちゃんの作品を見ているお兄ちゃんの言葉は重みがあった。

 アデラちゃんには無理なのか。


「同じ色で長い線を作ってもらいます。それを私が紐でこの図案通りに編み上げていけば、不可能ではないと思います」

「ながいせん? どういうこと?」

「例えば、この翼の部分には十八個ビーズを繋げた線を作ってもらって、顔の部分は細かいので、八個、十二個、六個、四個というように、何本も線を作るのです」


 説明を聞いてアデラちゃんの眉がへにょりと下がる。


「ごめんなさい、わたくし、いっぱいのかずは、まだかぞえられないの……」


 そうだった、アデラちゃんはまだ4歳だ。四個や六個は数えられても十八個などと言われても数えられない。


「そこはわたくしが一緒に数えます」

「ラウラさん、かぞえてくれる?」

「わたくし、アデラ様とずっと一緒に作りますよ」


 ラウラさんの助けを得られることが分かってアデラちゃんはきりっと顔を上げた。


「わたくし、あかちゃんがしぬのは、いや。つくる」


 4歳の甘えっ子なアデラちゃんの決意した顔に私は泣きそうになっていた。


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