表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
お兄ちゃんを取り戻せ!  作者: 秋月真鳥
十三章 魔術学校で勉強します! (五年生編)
457/491

28.セシーリア殿下の結婚式

 ルンダール領で新年のパーティーは開かれない。

 年明けと共に行われるセシーリア殿下の結婚式のために私たちは年末から王都に滞在していた。ルンダール合唱団にエメリちゃんが参加するので、デシレア叔母上とクラース叔父上もランヴァルドくんと一緒に客人が滞在する棟に泊っている。

 当初はランヴァルドくんが小さいし、エメリちゃんは一人でルンダール家にお泊りができたので、エメリちゃんを私たちルンダール家で預かろうかと提案したのだが、デシレア叔母上とクラース叔父上はエメリちゃんのために王都に出向くことを選んだ。


「私たちの大事な娘の晴れ姿です」

「2歳なりに一生懸命練習してきたのを知っています。応援したいのです」


 生後四か月のランヴァルドくんを連れての王都滞在は大変そうだったが、それでも二人はエメリちゃんのためにそれをしている。

 私とファンヌの両親は子育てを全部リーサさんとお兄ちゃんに任せて、自分たちは社交界で名前を売るのに必死だった。デシレア叔母上とクラース叔父上はエメリちゃんとランヴァルドくんを心から愛して育てている。

 カミラ先生とビョルンさんがエディトちゃんやコンラードくんやダニエルくんを育てている姿を見ても、私たちの両親がどれだけ子どもに関心がなかったのかがよく分かる。


「兄様、何を考えてたか当ててあげる。ドロテーアとケントのことでしょう?」

「よく分かったね」

「わたくし、今になって考えるのよ。あのひとたちは跡継ぎが欲しかっただけで、本当は自分たちのことしか愛してなかった。自分たちしか可愛くなかったのよ」


 全く可愛がられなかった両親の代わりに、私とファンヌにはリーサさんとカミラ先生とビョルンさんが愛情を注いでくれた。何よりお兄ちゃんが傍にいてくれて、大事なことはお兄ちゃんから習った気がする。


「私たちは幸運だったね」

「リーサさんとオリヴェル兄様がいてくれて、本当に幸せだったわ」


 あんな両親ならばいらないし、もう処刑されて灰になっていることも知っているが、改めて私たちにはリーサさんとお兄ちゃんがいて幸せだったとファンヌと言い合う。

 お兄ちゃんと私とアデラちゃんとヨアキムくんでルンダール家の部屋を借りて、カミラ先生とビョルンさんとエディトちゃんとコンラードくんとダニエルくんのオースルンド家の部屋にファンヌも入れてもらうことになっていた。

 部屋に戻るとアデラちゃんはお兄ちゃんとお風呂に入った後で、髪を乾かしてもらっていた。


「明日は慌ただしくなるから、夕食の前にお風呂に入れておいたよ」

「ありがとう。夕食の席でデシレア叔母上とクラース叔父上にお願いしなきゃ」

「そうか、ファンヌとヨアキムくんとアデラちゃんのことだね」


 エディトちゃんとコンラードくんはカミラ先生からお願いされると思うが、ファンヌとヨアキムくんとアデラちゃんとエメリちゃんに、エディトちゃんとコンラードくんも合わせて、全員を歌うときだけ披露宴会場に連れてきてもらう必要がある。それにはラウラさんのような平民の乳母では相応しくないと言われてしまうのが現状だ。

 クラース叔父上かデシレア叔母上に頼まなければいけない。

 夕食は全員がオースルンド領の一家の部屋に集まって食べた。テーブルの広さが足りないので、テーブルは片付けてしまって、床に敷物を敷いてピクニック形式の晩御飯にアデラちゃんはエメリちゃんの隣りに座って嬉しそうに食べていた。


「デシレア叔母上か、クラース叔父上にお願いがあります。明日の披露宴での歌を歌うときに、ファンヌとヨアキムくんとエディトちゃんとコンラードくんとアデラちゃんとエメリちゃんを連れて来てくれませんか?」


 基本的に披露宴には大人しか招かれないし、王族と四公爵くらいしか席がない。私は国王陛下からお兄ちゃんの隣りに座ることを許されているが、アデラちゃんですら参加することはできなかった。


「お願いできますか? ダニエルは乳母に預けておきますので」

「私で良ければやらせていただきます」


 カミラ先生からもお願いするとクラース叔父上が名乗り出てくれた。幼年学校の教師もしていたクラース叔父上なので、子どもの扱いは慣れたものだろう。安心して任せることができた。

 カミラ先生とビョルンさんもオースルンド領領主として式典に出なければいけない。寝る場所は別の部屋だが、連れてきているラウラさん含め乳母さんたちがその間は子どもたちを一部屋に集めて見ていてくれるはずだった。

 夕食が終わるとヨアキムくんと順番にお風呂に入って、早めにベッドに入る。お兄ちゃんと私は同じベッドだったけれど、真ん中にアデラちゃんが入り込んでお布団に潜っているので二人ともそれほど緊張感はなかった。


「あしたが、ほんばん!」

「アデラちゃん、歌いながら寝ようか」

「はい! うたう!」


 興奮して眠れない様子のアデラちゃんと明日披露する歌を歌っていると、ベッドで横になっているヨアキムくんも合わせる。私が高いパート、アデラちゃんが主旋律、ヨアキムくんが低いパートで三人で見事に響き合った。


「僕のためのコンサートみたいだ」


 お兄ちゃんがベッドに寝たまま拍手をしてくれる。

 嬉しくて何度か歌ってから私たちは眠りについた。

 翌朝は早朝に朝ご飯を詰め込みながら着替えをする。アデラちゃんとヨアキムくんはゆっくり眠っていて良かったのだが、私たちが動く気配で目を覚まして一緒に朝ご飯を食べて、私たちを送り出してくれた。

 廊下でカミラ先生とビョルンさんと合流して、やって来たラウラさんと乳母さんたちに後のことはお願いして王城の外に出た。完全に遮断された棟にいたので外に出るとあまりの寒さに指先が震える。式典なのでごてごてしたコートや防寒着が着られないのは困りものだったが、馬車は暖かく保たれていて、乗り込んだ私とお兄ちゃんはほっと息をついた。

 大神殿で白いオースルンド領の織りのウエディングドレスとヴェールを纏ったセシーリア殿下が、同じく白いオースルンド領の織りのタキシード姿のランナルくんと誓いの言葉を述べる。


「国王陛下を支え、この国をより豊かなものになるように、夫のランナルと共に歩んで行こうと思います」

「セシーリア殿下に一生お仕えして、その志を支えていきます」


 ランナルくんは国王陛下の結婚の式典の日よりも背が伸びていた。私はやっとデシレア叔母上を追い抜いて、ビョルンさんには届かないくらいなので、羨ましくなる。


「ルンダール領の賢者を振っての結婚式……」

「それでも祝わないといけないなんて不憫」


 漏れ聞こえてくる声は私に同情的なものだった。私はセシーリア殿下のことなど好きになったことはないし、今はお兄ちゃんと婚約できて幸せなのだが、世間ではセシーリア殿下に振られて、傷心を兄に慰めてもらった義弟になっているようだった。不本意なので訂正したい気もするが、私を知らない相手にどう思われていても関係はなかった。

 大神殿での式典が終わって、王城の披露宴会場に移る。席はカミラ先生とビョルンさんと同じテーブルだったので、落ち着いて座っていられた。


「姉上の結婚と、この国の繁栄に」


 国王陛下が乾杯をする。


「この場で正式に発表するが、私は赤ん坊を身籠っている。今年の春には生まれてくる予定だ」


 乾杯の後で国王陛下が報告すると会場がざわめきと祝福に包まれた。

 祝辞を王族が読んでいる間、飲み物で喉を潤して歌う準備をしておく。リハーサルがなかったのは、まだ2歳のエメリちゃんの負担を考えてのことだった。アイノちゃんとヨアキムくんのお誕生日で歌ったのがリハーサルのようなものだ。

 歌の準備を始めるように促されて、アントン先生がピアノの椅子に座っていることを確かめて席を立つ。クラース叔父上が奥の扉からそっとファンヌとヨアキムくんとエディトちゃんとコンラードくんとアデラちゃんとエメリちゃんを連れて来てくれていた。

 壇上に並んで待っていると、司会者に紹介される。


「ルンダール領からの歌の贈り物です」


 指揮のために私が手を上げると、当然のように私の後ろにぞろぞろとマンドラゴラと南瓜頭犬とスイカ猫が出て来た。これは国王陛下の結婚式と同じことが起きるのだろう。

 歌っている間、振り向くことはできないのでマンドラゴラたちが踊っている姿は見られなかったが、歌い終わって振り向いて会場の皆様に向かって礼をすると、マンドラゴラたちもビシッと礼をしていた。

 退場していくファンヌとヨアキムくんとエディトちゃんとコンラードくんとアデラちゃんとエメリちゃんに続いてマンドラゴラたちも退場して行った。


「相変わらず素晴らしいマンドラゴラの群舞でしたね」

「ルンダール領は憎い演出をしてくる」


 そんなつもりは全くないのだが、ルンダール領のマンドラゴラの価値がまた上がりそうな気配を感じつつ、セシーリア殿下の結婚の式典は終わった。


感想、評価、ブクマ、レビュー等、歓迎しております。

応援よろしくお願いします。作者のやる気と励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 親が我が子に愛情を持って接している場面で、イデオンファンヌが自分の両親を思い出して比べてしまうのは辛いことだと思います。 ですが、兄であるオリヴェルとリーサさんから始まってきちんと愛されて…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ