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お兄ちゃんを取り戻せ!  作者: 秋月真鳥
十三章 魔術学校で勉強します! (五年生編)
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25.四季の話

「イデオンぱぁぱがずっとおうちにいるの。これは、『なつやすみ』?」


 夏休みの間私はずっとお屋敷にいた。そのときにアデラちゃんはエディトちゃんやコンラードくんが朝からやって来て、私やファンヌやヨアキムくんがお屋敷から何日も出かけない状態を、『なつやすみ』と覚えたようだった。週末のお休みは『きゅうじつ』と覚えているので、週末に休む二日間を過ぎても私がお屋敷にいることに気付いて、これは『なつやすみ』ではないかと考えたようだった。

 長期休暇と週末の休暇の区別がついていて、私が三日以上お屋敷に朝からいることに気付いたアデラちゃんは4歳にしてはとても賢い。まだ4歳なので四季の区別がついていないが、それはこれから教えるつもりだった。


「私とファンヌが生まれた、暖かい季節が春。一年は冬から始まるけど、学校は春から新しい年度が始まるんだ。年度が始まる前に春休みがある」

「ねんどって、こねこねするの?」

「そうじゃなくて、年の区切りかな」


 説明するとアデラちゃんは『年度』を『粘土』と思い込んだようだ。庭を掘っていて粘土が出てくると分けてもらって遊んだりしているし、陶器のビーズが粘土でできていることを本を読んで教えていたので、『年度』よりも『粘土』の方がアデラちゃんには身近だった。


「お日様がぎらぎらして暑くなるのが夏。帽子を被ったり、日除けの服を着たり、こまめに水分補給をしないといけなくなるね」

「なつ! わたくちのおたんじょうび?」

「そう、当たり。夏休みがあるのも夏だし、アデラちゃんのお誕生日があるのも夏」


 自分の誕生日はしっかりと覚えているアデラちゃん。思ったよりも四季の説明が理解できていそうだ。


「秋は木の葉っぱが落ちて、少しずつ寒くなって来る季節。薬草畑の収穫の季節でもあるね」

「あきやすみはないの?」

「秋休みはないんだ」


 春休み、夏休みと来たのでアデラちゃんも長期休みの法則が分かってきたようだ。残念ながら秋休みはなかったのだが。


「今が冬。雪が降ることがあるけど、ルンダール領ではほとんど積もらないかな。でもすごく寒くなる。ストーブを出す季節だね」

「ふゆやすみ……イデオンぱぁぱ、ふゆやすみなのね!」

「そうなんだよ。アデラちゃん、私は今冬休みなんだよ」


 理解の早いアデラちゃんに感心しながら私は大きく頷いた。

 よく分かっていないが聞いていたエメリちゃんが「ふゆやつみ」と呟いている。

 冬休みに入ってもエメリちゃんは朝からルンダール家にやって来ていた。デシレア叔母上は遠慮して行かせないようにしても構わないと言うのだが、エメリちゃんが一人増えたくらいで困らないし、アデラちゃんの遊び相手になってくれるのでむしろ助かっていた。

 ランヴァルドくんのお世話をしながら年明けのセシーリア殿下の結婚式の生花の手配もしているデシレア叔母上は非常に忙しい。乳母さんと遊ぶと言ってもエメリちゃんも同年代の子どもと遊びたいだろうし、何よりもエメリちゃんはルンダール合唱団の一員だった。

 歌詞があやふやでも、音を間違えても、エメリちゃんがアデラちゃんと手を繋いで一生懸命歌う姿だけで私は心打たれてしまう。

 アントン先生もエメリちゃんには無理をさせないようにしてくれていたし、アデラちゃんにも年齢に合った指導をしてくれていた。

 馬車でアントン先生が朝食後のエメリちゃんが来た後くらいにお屋敷に来てから、一日の練習が始まる。音楽室には魔術で温めるストーブを炊いていて、暖かくしてある。

 音楽室に私とファンヌとヨアキムくんとエディトちゃんとコンラードくんが先に集合して、発声練習をする。その間エメリちゃんとアデラちゃんは子ども部屋でお着換えをしたりお手洗いにいったりして準備をしておく。

 準備が出来たらアデラちゃんとエメリちゃんが合流して、少しだけ発声練習をして一度曲を通して歌う。


「指揮に良く合わせられるようになってきましたね。とても上手ですよ」

「えー、じょーじゅ」

「わたくち、じょうず!」


 褒めてもらってエメリちゃんは休憩に入って、アデラちゃんはもう一度通して歌ってから休憩に入る。

 エメリちゃんとアデラちゃんが休憩している間に、私とファンヌは高いパート、エディトちゃんとコンラードくんは主旋律、ヨアキムくんが低いパートをパート練習する。パートごとにアントン先生に呼ばれて、ピアノに合わせて音を確かめる。通して歌ったときに怪しかった部分などはそこで重点的に練習する。

 パート練習が終わると、エメリちゃんとアデラちゃんが合流してまた曲を通して歌う。


「かなりの完成度ですよ。素晴らしいですね」


 冬休みに入ってからは、エメリちゃんとアデラちゃんがお昼寝をしている間も私とファンヌとヨアキムくんとエディトちゃんとコンラードくんは練習をしていた。

 毎日続く練習に飽きることはなく、日々発見と成長がある。

 懸命に歌っている私たちにアントン先生は誉め言葉を惜しまない。


「エディト様もコンラード様も、はっきりと発音できていますね。ファンヌ様はイデオン様と響きがよく合っている。ヨアキム様は一人で低音パートをよく支えています」


 褒められると単純に嬉しいものだ。

 私たちはますます練習に励んだ。 

 こんな状態なので、夜には疲れてお風呂に入ると私もアデラちゃんも爆睡してしまう。歯磨きを終えてお布団にアデラちゃんを送り込むと、既に瞼が半分落ちている。これは添い寝を卒業するいい機会かもしれないとそっと離れると、ラウラさんがこくりと頷いてアデラちゃんのお腹をぽんぽんと優しく叩いて寝かしつけていた。

 今のうちに音楽室で練習をしようとピアノの椅子に座るが、私も眠くて楽譜がよく読めない。頭はふらふらするし、目の焦点が合わない。


「イデオン? こんなところで寝たら風邪を引いちゃうよ」


 お兄ちゃんの声が聞こえた気がするけれど、私は意識を手放していた。

 目を覚ますと早朝のきんと冷えた空気の私の部屋のベッドで、私は跳ね起きる。お兄ちゃんのお誕生日のプレゼントの歌の練習をするはずだったのに!

 着替えて部屋から出ると、アデラちゃんの部屋に向かうお兄ちゃんと廊下で出会った。


「おはよう、イデオン。昨日は音楽室でピアノに突っ伏して寝てたからびっくりしたよ」

「お兄ちゃん、運んでくれたの?」

「イデオンにお休みなさいを言いに行こうと思ったんだ」


 音楽室に籠っている間はお兄ちゃんの誕生日プレゼントの歌を練習していると分かっているのでお兄ちゃんは邪魔をしない。けれど昨日は遅い時間になっても私が出てこなかったので、心配して「お休みなさい」を言いに行くという口実で覗いてくれたようなのだ。

 あのまま音楽室で眠っていたら風邪を引いてしまっていたかもしれない。風邪で喉をやられると歌えないし、アデラちゃんやコンラードくんやエメリちゃんなど小さな子に移してしまうかもしれなかった。


「お兄ちゃん、ありがとう。おかげで風邪を引かなかったよ」


 私が言うとお兄ちゃんはアデラちゃんを迎えに子ども部屋に行く足を止めた。


「イデオン、無理をしないでね。僕のお誕生日の歌を練習しているのかもしれないけど……」

「お兄ちゃんのお誕生日の歌はどうしても完成させたいんだ」

「イデオンは無理をし過ぎているよ。僕は無理をして歌を完成させるよりも、未完成の歌でも、イデオンと過ごせる時間がある方が嬉しい」


 言われて私はやっと気付いた。

 セシーリア殿下の結婚式の歌の練習が盛んになってから、お兄ちゃんとは朝の薬草畑の世話と食事やおやつの時間くらいしか一緒に過ごせていなかった。


「お兄ちゃん……」


 私はプレゼントに拘り過ぎていたのかもしれない。

 歌が未完成でもお兄ちゃんと過ごせる時間を持てた方が、お兄ちゃんにとっても私にとってもいいのではないだろうか。


「お言葉に甘えるね。今年のお誕生日プレゼントは未完成の歌かもしれないけど、来年には絶対完成させるから」

「二年越しのプレゼントなんて素敵だね」


 抱き締められて私は自分の中の焦りに気付く。

 お兄ちゃんと恋人同士になったのだから完璧な歌を捧げなければいけないなんて、まだ大人になれていない劣等感がそんな思い込みを育ててしまったのだろう。未完成の歌でもお兄ちゃんと過ごす時間を増やせるならば、そっちの方が良い。


「おはよう、イデオンぱぁぱ、オリヴェルぱぁぱ!」

「おはよう、アデラちゃん」

「寒くないようにしてね」


 アデラちゃんに挨拶をして私はアデラちゃんを抱き上げた。ファンヌもヨアキムくんも薬草畑の世話に出るところだった。


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