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お兄ちゃんを取り戻せ!  作者: 秋月真鳥
十三章 魔術学校で勉強します! (五年生編)
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21.エディトちゃんとコンラードくんの喧嘩

 4歳になったアデラちゃんにはいくつか課題があった。


「私がいなくても寝られるようになろうね」

「いーやー!」


 珍しくアデラちゃんがはっきりと拒否している。

 前々から練習していて、五日に一回くらいは私が添い寝をしなくても眠れるようになっていたのだが、それを完全に卒業するには時間が必要だと私も考えてはいた。


「今日から急に私と寝ないとか言わないよ。今までみたいに五日に一度は頑張ってみて、もうちょっと頑張れそうなら四日に一度にして、少しずつ減らして行って5歳までには子ども部屋で私なしで寝られるようになろうね」

「うー……」

「ちょっとずつでいいから。お隣りの部屋にはラウラさんもいるし、何かあったらすぐに呼んでいいからね」

「……はい。きょうはいっしょにねてね?」


 急には卒業できないことは私がお兄ちゃんとのお風呂をなかなか卒業できなかったことで学んでいた。一年間かけて少しずつ練習していくことにしたら、アデラちゃんも納得していた。

 アデラちゃんは3歳の貰われてきた時期に安心したかったのか私とお兄ちゃんにべったりでイヤイヤ期がなかったように思える。それが4歳の誕生日を迎えてから徐々に出てきている気がしていた。


「アデラちゃん、晩御飯だから食べてから続きをしよう」

「いーやー!」

「アデラちゃん、ご飯はみんなで一緒に食べよう」

「まだするー!」


 出来上がっていない途中のアクセサリーをそのまま放置してご飯に行くのが嫌な気持ちは分かる。けれどアデラちゃんもおやつの時間から集中して作っていてエメリちゃんを見送りもしなかったくらいなのだ。疲れてお腹が空いているに決まっている。

 晩御飯を食べないままに続けてもエネルギー不足で倒れるか寝てしまうだけなので、食べてからすっきりと作業を続けて欲しかった。


「やだー! イデオンぱぁぱ、きらーいー! あっちいってぇー!」


 半泣きになったアデラちゃんの口にお兄ちゃんがクッキーを放り込んだ。お口に物が入るとアデラちゃんは自然ともしゅもしゅと咀嚼して飲み込む。アデラちゃんの小さなお腹がきゅるきゅるきゅると鳴き声を上げた。


「おなか、すいた……」

「お腹空いてたでしょう? 先にご飯にしよう」

「ごはんにする」

「嫌いなんて言われて、イデオンは傷付いたよ。謝って?」

「ごめんなさい、イデオンぱぁぱ」


 さすが私とファンヌとヨアキムくんとエディトちゃんとコンラードくんを育てて来ただけはあるお兄ちゃん。アデラちゃんの扱いにも慣れたものだった。ご飯を食べてお風呂に入って、眠るまでの時間私のお膝でアデラちゃんはアクセサリー作りをしていた。


「イデオンぱぁぱ、ほんとは、だいすきなのよ」

「うん、知ってるよ」

「わたくちのこと、おこってない? いやなこだとおもってない?」

「全然。私も大好きだよ」


 アデラちゃんなりに癇癪を起してしまったことを反省していたようだが、これくらいは慣れたものだった。コンラードくんの海老ぞりになって泣き喚くのを思い出せば可愛いくらいだ。


「アデラちゃん、我が儘を言ったくらいで僕もイデオンもアデラちゃんのことを嫌いになったりしない。僕たちはもう家族なんだからね」


 お兄ちゃんの言葉にアデラちゃんは神妙な顔つきで頷いていた。

 夏休みの終わり、コンラードくんも誕生日を迎えて7歳になった。誕生日にコンラードくんが欲しがったのは国立歌劇団の立体映像と楽譜で、私とお兄ちゃんはそれを王都から取り寄せた。アデラちゃんはスイカちゃん用のネックレスを作ってプレゼントしていた。


「ラウラたんがかなぐをつけてくれたの。スイカたんがおおきくなったら、かなぐでちょうせいしてって」

「ありがとう。リンゴちゃんくらいまでおおきくなったらどうすればいいかな?」

「そのときはつくりなおしてあげるから、ビーズをもってきて」


 セシーリア殿下からもらった陶器のビーズをアクセントにしたネックレスはとても可愛くて、コンラードくんは嬉しそうにそれを胸に抱いていた。


「ビーズはこわれても、ひろってあつめたら、もういちどつくりなおせるの」


 誰が使っているビーズが壊れてもアデラちゃんは作り直すつもりで、「ひろっておいてね」と宣言していた。

 誕生日の席で珍しくエディトちゃんがコンラードくんと喧嘩をした。


「こーちゃん、こっち来ないで! しばらくお話ししない!」

「エディトねえさま、ごめんなさい」

「ダーちゃんとブーちゃんが栄養剤を飲まなくなったらどうするの! わたくし、怒ってるから、しばらくあっちに行ってて!」


 怒られて半泣きでコンラードくんはカミラ先生に飛び付いて行く。何事かと話を聞きに行くとエディトちゃんも半泣きだった。


「こーちゃんったら、ダーちゃんとブーちゃんに『ふとったんじゃない?』って言ったのよ! マンドラゴラはムチムチに太っているのが健康の証なのに! ダーちゃんとブーちゃん、気にして、走り込みを始めたわ!」


 見れば部屋の端でエメリちゃんやアデラちゃんを巻き込まないようにしてエディトちゃんの蕪マンドラゴラのブーちゃんと大根マンドラゴラのダーちゃんが走り込みをしている。ダイエットのためなのだろうが、マンドラゴラが痩せている必要は全くない。


「ダーちゃん、ブーちゃん、気にしなくていいんだよ」


 私が言ってもダーちゃんとブーちゃんは全く聞いていないようだった。困っていると私の大根マンドラゴラがアデラちゃんのところに歩いて行った。アデラちゃんに抱っこされた蕪マンドラゴラも連れて、説得してくれている。


「ダーたん、ブーたん、マンドラゴラはふとってるのがいいの!」

「びぎゃ! びぎょえ!」

「ぎょえぎょえ!」

「あるけないくらいふとっちゃったらこまるけど、にひきともはしれるでしょ?」

「びょえびょえ!」

「びぎゃ! ぎゃぎゃぎゃ!」


 アデラちゃんと私の大根マンドラゴラと蕪マンドラゴラのかっちゃんに説得されて、大根マンドラゴラのダーちゃんも蕪マンドラゴラのブーちゃんも走り込みをやめた。

 カミラ先生に連れられてコンラードくんがエディトちゃんの元にやってくる。


「ダーちゃんもブーちゃんもおおきくて、うらやましかったの。ごめんなさい」

「それじゃあ、『ふとったんじゃない?』じゃなくて、『おおきくてすてきだね』って言って!」

「ダーちゃんもブーちゃんも、おおきくてすてきだね!」

「いいわ、許してあげる。ダーちゃん、ブーちゃん、全然太ってないからね」


 ムチムチの二匹を抱き寄せたエディトちゃんももう半泣きの顔ではなかった。仲の良い姉弟だが喧嘩をすることもあるのだと驚いてしまう。私はお兄ちゃんともファンヌともこんな風に喧嘩をしたことがなかった。


「私、お兄ちゃんともファンヌとも喧嘩をしたことがないね」

「イデオンと僕は年が離れすぎてるし、イデオンは穏やかな性格だからファンヌと喧嘩をする必要がなかったんだよ」

「エディトちゃんはコンラードくんを物凄く可愛がっているから、喧嘩をするなんて思わなかった」

「そういうのに関係なく、譲れないことは譲れない、それでいいんじゃないかな」


 そうやって姉弟は育っていくのだと言われると、今ではないけれど縁があればアデラちゃんに弟か妹がいたらいいのにと思ってしまう。私にはファンヌがいて、ヨアキムくんもいた。二人がいたおかげで私がどれだけ可愛さに幸せでいられるか分からない。


「アデラちゃん妹か弟が欲しい?」

「いらない!」


 アデラちゃんの答えははっきりしたものだった。


「イデオンぱぁぱとオリヴェルぱぁぱがわたくちいがいをかわいがっちゃ、いや!」


 4歳になって自己主張が激しくなったアデラちゃん。これも成長なのだろう。

 弟妹についてはすぐに考えることではなかったので、追い追いということにした。


「エメリ様にこれを用意してみたんですよ」


 ラウラさんが夏休みの終わりに持って来たのは、女性の小指くらいの太さの木の棒の端に穴が開いている先の丸い針だった。穴に紐を通して、木の針に大きな穴のビーズを通すとエメリちゃんでもものすごく大粒のビーズのアクセサリーが作れる。

 アデラちゃんの隣りで乳母さんの膝に座って、エメリちゃんも作業に没頭するようになった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 4歳にして集中して細かい作業ができるアデラちゃん。 このままアクセサリー作成が趣味になれば、遠からずびっくりするほどの大作を完成させそうです。 オリヴェルは弟妹から始まってたくさんの個性…
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