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お兄ちゃんを取り戻せ!  作者: 秋月真鳥
十三章 魔術学校で勉強します! (五年生編)
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19.2歳と4歳の交流

 アデラちゃんとエメリちゃんが頻繁に出入りしても音楽室の中で練習している私たちの集中力が途切れることはなかった。


「ちっち」

「オムツを替えてまいります」

「おのどかわいたの」

「水分補給をしましょうね」


 乳母さんに連れられて部屋を出ていくエメリちゃんと、ラウラさんからグラスにアイスティーを注いでもらっているアデラちゃん。二人が練習している間は乳母さんとラウラさんも同席してくれていた。歌っている間は部屋の隅で控えていて、用事があるとすぐに動いてくれる。


「イデオン様、アデラ様が歌っている間、図案を見ていても良いですか?」

「構いませんが、図案で良いんですか?」


 ラウラさんにも読みたい本などがあるのではないだろうか。時間があるときにはお屋敷の書庫は解放されているし、使用人さんには本の貸し出しは許されていないけれどラウラさんが私が見ている前で読んでいるのなら構わないと私は思っていた。


「アデラ様が新しい図案を使いたいと思ったときにすぐに教えられる有能な乳母でいたいんです」


 答えたラウラさんの意識の高さに私は感心してしまった。乳母の仕事は子ども相手だから簡単だと侮られることが多いが、主人の子どもを怪我をさせることなく一日見ているだけでも大変な苦労だ。神経も尖らせておかなければいけないし、主人の子どもが言うことを聞くとは限らない。お願いしてもイヤイヤ期の子どもだったら、着替えもお手洗いも拒むかもしれない。

 主人の子どもだから強く言えないことを逆手にとって悪さをする子どもがいるのも、アッペルマン家のフレヤちゃん潜入のときの立体映像で見ていた。

 アデラちゃんもエメリちゃんも大人しい方だし、泣いて暴れたりすることはほとんどないが、アデラちゃんに関しては執務室の出入りが自由にされていなければラウラさんは泣き喚くアデラちゃんと対峙しなければいけなかったかもしれないし、エメリちゃんもアデラちゃんと一緒に過ごせないと言われたら乳母さんを困らせていたかもしれない。

 ルンダール家はお兄ちゃんが一番年上の主人で、私やファンヌやヨアキムくんの面倒をみて、エディトちゃんやコンラードくんも一緒だったので、アデラちゃんやエメリちゃんが混じったくらいでは全く変わりはなかった。賑やかで楽しくなったくらいだ。

 お着換えからエメリちゃんが戻ってくるとエディトちゃんとコンラードくんとアデラちゃんとエメリちゃんで主旋律の練習が始まる。それに合わせて私とファンヌが高いパート、ヨアキムくんが低いパートをそっと歌っていた。


「一度、全員で歌いましょうか。イデオン様、指揮をお願いします」

「はい」


 呼ばれて私はみんなの前に立つ。

 低いパートのヨアキムくんが左側、真ん中にエディトちゃんとコンラードくんに挟まれてアデラちゃんがエメリちゃんと手を繋いで立つ。高いパートのファンヌは一番右だ。

 私が手を上げるとアデラちゃんとエメリちゃんも手を上げた。


「これは『歌う準備をしましょう』っていう合図なんだよ」

「あいじゅ」

「右手でアントン先生に『ピアノをお願いします』っていう合図を送って、左手でみんなに『さぁ、歌いましょう』って合図を送るから、よく見ててね」

「イデオンぱぁぱをよくみてる!」


 最初からやり直しで手を挙げてアントン先生とアイコンタクトで意思疎通を図って、私は指揮を始めた。指揮をする手を一生懸命見過ぎてアデラちゃんとエメリちゃんの首が揺れている。

 案の定、最初に入るところでは手に集中しすぎていてアデラちゃんとエメリちゃんは歌うのを忘れていた。それでも途中から合流できたので上出来である。

 一曲を通して歌って、最後まで歌い終わるとエメリちゃんがぺしょんと床に座り込んだ。一曲がそこそこ長いのでその時間じっと歌って立っているだけでも2歳児にはかなりの労力だ。お尻が自然と振れているのでじっとしてはいないのだが。

 エメリちゃんは休憩に入ってもらって、部屋の隅で乳母さんに絵本を読んでもらう。アデラちゃんはもう少し歌えそうだったので、もう一回練習した。


「今日もみなさん、よく頑張りましたね。午後は自主練習でお願いします」

「ありがとうございました、アントン先生」

「ごじゃまちた」

「またきてね」


 お昼ご飯前に荷物を纏めて帰っていくアントン先生を見送って私たちはリビングに急いだ。朝からみっちり練習をしているとエメリちゃんの体力が切れそうになるのだ。眠ってしまう前にご飯までは食べさせておかないと、お腹が空いてぐずぐずと泣いて、眠れないし、疲れて眠いしで、エメリちゃん自身がきつい状態になる。

 一口大のおにぎりと小さく切ったおかずを手掴みでもりもりと食べて、エメリちゃんは食べ終わると子ども部屋のベッドに運ばれて行った。アデラちゃんは私のお膝の上で食べ終えて、私の手を引く。


「イデオンぱぁぱ、おうたがいーの」

「ちょっと待ってね。私も食べてしまうから」

「わたくしが絵本を読みましょうか?」

「イデオンぱぁぱのおうたがいーの!」


 今日は私に寝かせつけて欲しい気分らしいので先にご馳走様をしてアデラちゃんと子ども部屋に行く。隣りのベッドのエメリちゃんは既に寝息を立てて健やかに眠っていた。

 アデラちゃんもベッドに入るととろんと瞼が落ちてくる。お腹を優しくぽんぽんと叩きながら歌を歌っていると、すぐに眠ってしまった。

 エディトちゃんとコンラードくんは子ども部屋で宿題をしていて、ファンヌとヨアキムくんはそれぞれの部屋に戻ったようだった。二人の部屋は壁に窓があるので、窓際のテーブルで宿題をして窓越しに教え合っているようだ。

 私が執務室に行くとお兄ちゃんはアデラちゃんの作ったスイカ猫用のネックレスと人参マンドラゴラ用のベルトを綺麗な袋に入れてリボンで結んでラッピングしていた。


「セシーリア殿下と結婚式の打ち合わせもあるし、今日持って行こうと思ってるんだけど、アデラちゃんも行きたがるかな?」

「アデラちゃんが作ったものだから、アデラちゃんの手から手渡したいよね」


 セシーリア殿下にも、その伴侶となるランナルくんにも、アデラちゃんが作ったことはきっちりと記憶に留めて欲しい。あんなに小さな子が真剣に大きな作品に挑戦して、やり遂げたものなのだ。大事にしてもらいたかった。

 紐を二本使って編むようにしてビーズを通すことを覚えたアデラちゃんの成長ぶりはすごかった。それもラウラさんがアデラちゃんに根気強く教えてくれたおかげだろう。ただ紐に通すよりもずっと複雑な作品が作れるようになったアデラちゃん。

 その第一号をセシーリア殿下とランナルくんに上げてしまうのは親として惜しい気もしていた。成長の過程として取っておきたい。けれどこれはセシーリア殿下とランナルくんに約束したことなのだ。

 それならばせめてアデラちゃん自身の手から渡して、充分な感謝をして欲しいというのが私の言い分だった。


「アデラちゃんが起きたら行こうか」


 おやつは王城でお茶を出してもらえるからそれで大丈夫だろうと考えていた私とお兄ちゃんは、自分たちの考えが甘かったことに気付かされる。


「えー、あーねぇねといくぅー!」

「エメリちゃんも、行きたいの!?」

「あーねぇねと、いっと、いーの!」


 エメリちゃんはアデラちゃんと一緒が良いと主張している。置いて行くわけにもいかずセシーリア殿下に連絡すれば連れて来て良いと返事をもらった。

 乳母さんとラウラさんとエメリちゃんとアデラちゃんと共に王城に出向く。

 応接室でエメリちゃんはきょろきょろと物珍しそうに周囲を見ていた。王城の応接室は立派なソファとガラステーブルが置いてある。かつて私が頭を打ったガラステーブルだ。

 お茶は冷たい花茶が出されて、お茶菓子にはカレー煎餅が用意されていた。挨拶もせずにカレー煎餅に突撃しそうなエメリちゃんを乳母さんが抱き留めている。


「たべちゃいー!」

「セシーリア殿下の御前ですから」

「気になさらず。小さい子に身分を言っても仕方がありませんわ」


 ころころと笑いながらセシーリア殿下がどうぞとエメリちゃんにカレー煎餅を勧めてくれる。両手に持ってぽりぽりと齧るエメリちゃんは満足そうだった。

 アデラちゃんは蕪マンドラゴラを抱いて私に抱っこされたまま、セシーリア殿下にお兄ちゃんがラッピングしてくれたスイカ猫用のネックレスと人参マンドラゴラ用のベルトを渡す。


「本当にありがとうございます。アデラ様が作ったのですか? とてもこんな小さなお嬢様が作ったとは思えない作品ですね」

「わたくち、つくりました」

「お礼を受け取ってくれますか?」


 セシーリア殿下はさすが、できる方だ。アデラちゃんにちゃんとお礼を準備してくれていた。開けて良いか確認して大きめの箱を開けると、中にはびっしりと陶器のビーズが入っていた。白い陶器に赤や青や黄色や緑で絵が描かれている大きめのビーズにアデラちゃんの目が輝く。


「イデオンぱぁぱ、オリヴェルぱぁぱ、すごい! えがかいてあるビーズ! わたくちがもらっていいの?」

「もらってください、アデラ様。あなたのためにノルドヴァル領に注文しました」


 珍しい陶器のビーズにアデラちゃんは何か作りたくてたまらない様子だったが、とりあえずは落ち着いてもらってカレー煎餅とお茶をいただく。


「まだ内密にして欲しいのですが、国王陛下の懐妊が分かりましたの。わたくしの結婚式も年明けと共にすることになりそうですわ」


 国王陛下の懐妊が分かったので結婚式が少し早まる。

 それは準備期間が短くなるということだったが、国王陛下の懐妊も国にとって非常におめでたい出来事だった。


「結婚式の場で懐妊を明かすおつもりのようです」

「二重におめでたいですね」


 ルンダール領からできる限りのお祝いをしたい。

 私たちはこれから忙しくなりそうだった。


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