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お兄ちゃんを取り戻せ!  作者: 秋月真鳥
十三章 魔術学校で勉強します! (五年生編)
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8.人身売買の影

 アデラちゃんのお母さんが住んでいた場所については、アシェル家の次男が知っていた。


「持参金を返して離婚してしまうとこの屋敷を手放さなければいけなかった。だから、アデラを迎えに行けないうちに、彼女は死んでしまった」


 アデラちゃんのお母さんの死後、アシェル家の次男はアデラちゃんがどうなったのか知らなかった。噂ではアデラちゃんのお母さんが死ぬ前に仕事の知り合いに引き取り先を手配してくれるように頼んでいたようなのだ。

 警備兵の詰め所で話を聞く間、アデラちゃんはファンヌとヨアキムくんとリンゴちゃんと警備兵の詰め所の前で遊んでもらっていた。詰所から出た私たちの向かう先は決まっていた。


「アデラちゃんのお母さんの知り合いが怪しいね」

「引き取り先を手配すると言っておきながら、人買いにアデラちゃんを売ったんだと思う」


 人身売買がルンダール領で今も行われているという事実は私にもお兄ちゃんにも受け入れがたい事実ではあったが、これが真実ならば受け入れてこれ以上被害者が出ないようにしないといけない。リーサさんやその兄弟も仕事の仲介屋だと信じていた相手が人買いだったという過去がある。

 アデラちゃんのお母さんはアデラちゃんを育てながら農家の手伝いをしていたようである。仕事の知り合いとなると働いていた農家のひとたちになる。

 ファンヌとヨアキムくんはリンゴちゃんとお屋敷に返して、アデラちゃんとお兄ちゃんと私だけで馬車で農家に乗り付けると年老いた夫婦が出て来た。

 アデラちゃんを見て驚いている。


「貴族のお屋敷に引き取られたのだと思っていましたが、ルンダール家だったとは」

「どういうことですか?」


 詳しく話を聞けば、ここの周辺を治めている貴族の名前が出て来た。


「シェルヴェン家の方々が、アデラちゃんは貴族の子どもだと言うアマンダさんに、何度も話を聞きに来ていたのです」

「わたくしたちは老いて畑を耕すのがきつくなってきておりましたので、アマンダさんに仕事を斡旋したのもそのシェルヴェン家の方です」

「アマンダさんはアデラちゃんを育てるために必死に働いていました」


 病気で倒れたアマンダさんは自分の死期を悟って、もしものときにはシェルヴェン家にアデラちゃんを託そうとしたのだろう。それがアデラちゃんが見たアマンダさんの元に通ってきた男性なのかもしれない。

 一緒に暮らしたのではなく、アマンダさんを看病していただけかもしれない可能性が出てきたが、それにしてもシェルヴェン家である。


「法案に反対で署名をしなかったよね」

「ルンダール家に税金を納めているけれど、パーティーでも僕たちに近付こうとしない」

「領民に無理な税をかけて搾り取ってる様子じゃなかったから放置してたけど、一度調べてみた方が良いかもしれないね」


 お兄ちゃんと私で話し合っていると、アデラちゃんは老夫婦に「じーたん、ばーたん」と親し気に話しかけていた。どうやらアデラちゃんの方も老夫婦を覚えているようだ。


「シェルヴェン家の方々は良い方たちですよ。身寄りのなくなった子どもたちを引き取って、裕福な家庭に養子に出してくださるんです」

「何人もの子どもたちがシェルヴェン家のおかげで幸せになりました」


 裕福な家庭の養子?

 貴族の養子になるには魔力があって国王陛下に認められないとなれないことをこの老夫婦は知っているのだろうか。貴族ではないにせよ、裕福な家庭に養子縁組があればルンダール領を治めるルンダール家に報告があるはずだ。


「シェルヴェン家から養子縁組の報告、お兄ちゃん、見たことある?」

「見たことないと思う。一度お屋敷に戻ろう」

「じーたん、ばーたん、ばいばい!」

「お話聞かせていただいてありがとうございました。また訪ねます」


 あの老夫婦はアマンダさんのお墓の場所も知っているだろうからまた聞きに来るとして、私とお兄ちゃんはお屋敷に戻って執務室でルンダール領の資料を確認していた。

 貴族と平民の養子縁組に関しては、ベルマン家のダンくんとミカルくんとアイノちゃんの分が過去にはあって、これから出すための申請書がシベリウス家から預けられているくらいだった。

 その他にもいくつか身寄りのなくなった子どもや、子どものいない夫婦のための平民の養子縁組の資料は残っていたが、どれもシェルヴェン家とは関わりのないものばかりだった。


「身寄りのなくなった子どもたちを引き取って養子に出しているなんて大嘘だ」

「これは、人身売買の可能性が高いね」


 私とお兄ちゃんは顔を見合わせる。

 貴族絡みの人身売買がルンダール領でずっと行われていたなどという事実があれば、これはおおきな醜聞だ。そうだとしても私とお兄ちゃんはこの悪事を見逃すことはできない。

 何より、アデラちゃんという被害者が私たちの元にいるのだ。


「警備兵を連れてシェルヴェン家に聞き込みに行こう」

「あー、おなかちーたの」

「あ、もうこんな時間。ご飯を食べてお風呂に入らなきゃいけないね」


 行く気は満々だったが、私とお兄ちゃんが資料を確認している間に外はもう真っ暗になっていた。おやつも忘れていたので、アデラちゃんがふらふらになるくらいお腹を空かせているのも申し訳ない。


「ご飯を食べようね」

「今日は疲れたね、アデラちゃん」

「じーたんと、ばーたんにあえたの」


 本当のお父さんとも会っているのだが、その点はアデラちゃんは私とお兄ちゃんが父親ということを疑っていないので記憶にも残っていない様子だった。


「アデラちゃんのお母様は見付かったのかしら?」

「働いていた場所が見付かって、雇い主も見つかったよ」

「そのひとたちがアデラちゃんを……?」

「そのひとたちじゃなくて、もっと怪しいひとたちが出て来てね」


 私とお兄ちゃんでファンヌとヨアキムくんに説明しながら晩御飯を食べる。話を聞いてファンヌもヨアキムくんも腹を立てていた。


「裕福な家庭に養子にやると言って人身売買なんて最低だわ!」

「可愛い子どもを売り飛ばすなんて、信じられません」


 これはシェルヴェン家に行くときにはファンヌとヨアキムくんは連れて行かない方が良いような気がしてきた。怒りで包丁や呪いが炸裂しそうな気がする。

 人身売買を行うような輩は多少痛い目に遭っても仕方がないとは思うが、ファンヌとヨアキムくんの手を汚すのは私はあまり好ましいとは思えなかった。


「アデラちゃんとお留守番しててくれないかな?」


 食べながら眠くて首がぐらぐらするくらいまでアデラちゃんは疲れていた。明日も連れまわすのは厳しすぎるかもしれない。

 私がアデラちゃんを配慮して口にすると、アデラちゃんがカッと目を見開いて私にしがみ付いてくる。


「あー、いくぅー! ぱぁぱといっとー!」

「アデラちゃん、僕たちはお仕事だからね」

「いーやーー! あー、ぱぁぱといっとー!」


 眠いのもあるだろうが泣かれてしまうと弱い。

 シェルヴェン家のことばかり気にしていて、アデラちゃんの誕生日もあの老夫婦に聞くのを忘れていた。あの二人はアデラちゃんを可愛がっていたようなのでアデラちゃんも会いたいだろう。


「ラウラさん、お願いがあります」

「はい、なんでしょう?」

「明日もついて来てもらえますか?」


 ラウラさんがいればアデラちゃんに見せたくない場面には席を外してもらうことができる。お願いするとラウラさんは「それがわたくしの仕事ですよ。了承を取らなくても参ります」と答えてくれた。

 リーサさんはほとんど私たちの母親のような存在だったので、カミラ先生もリーサさんに何かしてもらうときにはお願いしていたし、リーサさんを対等に扱っていた。


「使用人と雇用者であっても、私は礼節は弁えたいと思っています」

「ご立派なお心です。ルンダール家にお仕えできて幸せです」


 ラウラさんはこれまでどういう扱いを受けて来たか分からないけれど、アデラちゃんが席を外して欲しいときには上手に遊びで気を引いてくれるし、優秀な乳母だった。優秀な乳母には相応の扱いを私もお兄ちゃんもするつもりでいる。

 何より父親が二人で母親のいないアデラちゃんにとって、ラウラさんが大事な相手になることは、両親を知らずに育った私の経験からしても間違いがないことだった。

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