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お兄ちゃんを取り戻せ!  作者: 秋月真鳥
十三章 魔術学校で勉強します! (五年生編)
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4.アデラちゃんの示すマンドラゴラの可能性

 前当主のアンネリ様を毒殺し、ルンダール領を荒し、次期当主だったお兄ちゃんを亡きものにしようとしたケント・ベルマンとドロテーア・ボールクの刑が決まったということは、瞬く間にルンダール領に広がった。

 先に国王陛下から聞いていたオースルンド領のお祖父様とお祖母様、カミラ先生、お兄ちゃんが配慮して教えてくれなければ私もファンヌもデシレア叔母上も別の方向からこの報告を聞くことになっていただろう。優しいお祖父様とお祖母様、カミラ先生、お兄ちゃんには身内である私たちに告げることがどれだけつらかったか分からないが、それでも事前に教えてもらえていたことは心の準備ができて助かった。

 ボールク家もベルマン家もこのことで非難されるような羽目には陥らなかったが、それでもデシレア叔母上とベルマン家のお祖父様の胸中は複雑だろう。


「産むだけ産んで育てもしなかった。そんな相手を両親と思ってないわ」

「私ももうあのひとたちの顔も忘れかけてるよ」


 言い捨ててたファンヌは私の言葉を聞いて、お兄ちゃんの執務室から出てヨアキムくんのところに行ってしまった。

 あの二人に最後に会ったのはいつだろう。

 私を暗殺しようとした二人にヨアキムくんと牢獄を訪れて呪いをかけた日。遠い遠い昔のように思える。

 ルンダール領の領民の反応は正当な当主を亡きものにしようとして、領地を荒らして食べ物がなくて亡くなったり、医療を受けられずに亡くなったりしたひとたちの恨みが募って、ケントとドロテーアの死刑にルンダール領が活気づいているようで私は怖かった。

 死刑が執行されるのはもう少し先だが、ルンダール領から見に行こうというひとたちまでいるようなのだ。

 毒の杯を渡されて、それを拒んだ場合には毒の注射をされて死刑が執行されるというが、そんなものを私は見たいとは思わなかった。お兄ちゃんを殺そうとした憎い相手でも、実際に死んでいくのを見たくはない。


「お兄ちゃん、私たちが統治を誤ったら、ルンダール領の領民たちは同じように死刑を求めるんだろうか」

「みんながみんなじゃないと思うけど、求めるひとたちもいるだろうね」


 国の犠牲になっているとセシーリア殿下と国王陛下が言っていたが、私たちは豊かな暮らしの代わりに良き政治を行う義務がある。それが果たされなければ領民から反乱を起こされて殺されてしまう可能性もあるのだとこの件で思い至った。

 私たちは間違えないと思いたいが、どんな未来が待っているかは分からない。

 真剣にお兄ちゃんと見つめ合った私の膝の上でアデラちゃんが小さな手を振り上げた。


「できたぁ!」

「ぶぎゃ!」

「いでおぱぁぱ!? ごめんなたい!」


 勢いよく振り上げたので私の顎の下に当たってしまって私は無様な声を上げた。慌てて謝るアデラちゃんに「大丈夫」と答えると手の上に輪を置かれる。

 空色から青、紺まで濃淡のあるビーズで作られた輪が一つ。薄茶色から茶色、こげ茶までの濃淡で作られた輪が一つ。黄緑から緑、濃い緑までの濃淡で作られた輪が一つ。


「こえが、いでおぱぁぱので、こえが、おりぱぁぱので、こえが、でちれあおばーえの」


 青系統の輪が私、茶系統の輪がお兄ちゃん、緑系統の輪がデシレア叔母上のだとアデラちゃんは主張する。最後の結ぶ処理がまだきちんとできないので結び直して金具を付けると青系統の輪を私の手に、茶系統の輪をお兄ちゃんの手に乗せてくれた。

 無意識に守護の魔術のかかっているその輪は、手首に巻くには短く、指輪にするには長い。


「お守りのチャームとして使わせてもらうね」

「どうしてこの色にしてくれたの?」


 お兄ちゃんの問いかけに、アデラちゃんは誇らしげに胸を張って答えた。


「おりぱぁぱ、いでおぱぁぱがすち、いでおぱぁぱ、おりぱぁぱがすち、ふたりのおめめのいろなの」


 お兄ちゃんは私のことが好きだから私の目の色をお兄ちゃんに、私がお兄ちゃんのことを好きだからお兄ちゃんの目の色を私にと考えてくれたアデラちゃん。3歳なのに賢くて優しくて私は膝の上のアデラちゃんをぎゅっと抱き締めた。


「とても嬉しいよ、ありがとう」

「イデオンの目の色だね。大事にするよ」


 集中してずっと木のビーズを紐に通していたアデラちゃんは鼻の穴を膨らませて嬉しそうにしていた。


「よーにぃにのぶんもちゅくりたいけど、ビーズがたりないの」

「本当だ。いっぱい使ったね」


 ビーズの箱の中はかなり量が減って寂しくなっていた。


「買い足しに行こうか」

「でちれあおばーえにも、わたちたいの」

「馬車を出してちょっと遠出するかな」


 出来上がったものをすぐに受け取って欲しい気持ちはよく分かる。

 デシレア叔母上のことは気にかけてもいたし、様子を見に行きたくて私はアデラちゃんとお兄ちゃんと馬車に乗った。途中のお店でビーズを買う。


「きらきらしてう」

「ガラスビーズは穴が小さいからまだ難しいかもしれないよ?」

「こちらのテグスは太くて硬いので、とても扱いやすくなっております」

「テグス、ですか?」

「ビーズを通す紐のことです」


 お店のひとから説明を受けて、木のビーズの他にも大粒のガラスビーズも買ってしまった。


「これも入れたら可愛いかもしれない」

「かーいー!」


 お兄ちゃんは包みボタンも選んでいる。

 しばらくは買い足さなくてもいいくらいたっぷりと買ってもらって、アデラちゃんもほくほくしていた。

 コンラードくんやエディトちゃんは歌ったり踊ったりする遊びが好きで、小さい頃もかくれんぼや鬼ごっこが好きだったが、アデラちゃんはビーズを通してチャームを作ったりする方が好きなようだ。私も小さい頃から外で活発に遊ぶよりもお兄ちゃんと本を読んでいる方が好きだったから、私とアデラちゃんの性格はやはり似ているのかもしれない。

 アデラちゃんが大きくなったら守護の魔術をかけた魔術具を自分で作るようになるかもしれない。そんな未来も想像すると悪くはないと思ってしまう。


「びぎゃ!」

「ぎゃぎゃ!」

「あ、それはアデラちゃんからもらった……ぴったりだね」


 お兄ちゃんのチャームと私のチャームはバッグに付けていたが、アデラちゃんの蕪マンドラゴラのかっちゃんと私の大根マンドラゴラが腕を通してアピールしている。


「かったん、だいこんたん、ぴったりなの!」


 私たちの手首には小さく、指には大きな輪は蕪マンドラゴラと大根マンドラゴラの腕にぴったりはまる大きさだった。


「こえは、おりぱぁぱと、いでおぱぁぱのらけど、ちゅくってあげるから!」

「びゃ!」

「びゃい!」


 アデラちゃんの返答に満足して蕪マンドラゴラのかっちゃんはアデラちゃんのお膝に、大根マンドラゴラは私のボディバッグに入って行った。


「マンドラゴラに装飾品……流行るかもしれない」

「イデオン、ルンダール領の商売のことを考え始めたの?」

「アデラちゃん、かっちゃんにネックレスを作ってあげたくない?」

「ちゅくる!」

「もっと長くしなきゃいけないんだけどね」

「あい!」


 馬車の中で説明をしているとボールク領までの道のりはすぐだった。

 馬車を降りるときにはアデラちゃんはやる気に満ちた顔になっていた。


「いでおぱぁぱ、かったんにかみさがり、つくえる?」

「髪飾り、かな? 葉っぱにクリップで留めるか、通したらできるかもしれない」

「かったん、いっぱいかーいくするの!」

「良いと思うよ」


 今年のマンドラゴラ品評会はいつだろう。

 そのときに飾り立てた蕪マンドラゴラのかっちゃんを連れて行けば、宣伝になるはずだ。


「イデオン、悪い顔してるよ?」

「悪い顔じゃないよ! マンドラゴラの市場をもっと広げようと思ってるだけ」

「蕪マンドラゴラにロンパース履かせたらどう思う?」

「服を着せるの!? それは絶対可愛い!」


 マンドラゴラに服と装飾品。

 これは流行る予感しかしない。

 王都で国王陛下の前で歌ったときに、マンドラゴラたちが群舞を踊って以来ルンダール領のマンドラゴラは高値で取引されるようになっていた。それに更に付加価値をつけることができれば、マンドラゴラ市場も更に広がりを見せるだろう。

 商売のことを考えていたせいで、私とお兄ちゃんとアデラちゃんはボールク家が騒がしいことになっているのに気付いていなかった。

 悲鳴が聞こえて、使用人さんが私たちの方に走って来る。


「オリヴェル様、イデオン様、お助け下さいませ!」

「大奥様と大旦那様が、エメリ様を!」


 エメリちゃんの危機!?

 アデラちゃんを抱き上げて足早に使用人さんの導くままに子ども部屋に走り込んだ私とお兄ちゃんはエメリちゃんの泣き喚く声を聞いていた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] イデオンは商売人でもやっていけますね。 アデラちゃんが働かされていた窃盗団が盗んだマンドラゴラの中にはキラキラ装飾されていた描写もありましたし、十分いけると思います。 領民が自作してアクセ…
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