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お兄ちゃんを取り戻せ!  作者: 秋月真鳥
十二章 魔術学校で勉強します! (四年生編)
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31.16歳になりました

「寝ちゃった!?」


 ぐっすりと眠った私の誕生日の朝、目を覚ましたらお兄ちゃんの顔が間近にあった。お兄ちゃんはアデラちゃんごと私を抱き締めて眠っている。アデラちゃんは私とお兄ちゃんに挟まれて幸せそうにお兄ちゃんの胸にすり寄っていた。


「ん……イデオン、おはよう」

「ご、ごめんなさい。アデラちゃんを寝かしつけてたら、寝ちゃって……」

「謝らないで。イデオンのお誕生日はまだまだあるんだから。おめでとう、イデオン」

「ありがとう、お兄ちゃん」


 優しく穏やかに言われると落ち着いてきて私はアデラちゃんを起こした。オムツが濡れていなかったのでお手洗いに連れて行くとお手洗いで用が足せた。


「アデラちゃん、間に合ったね」

「あー、まにあった」

「間に合わなくても誰も叱ったりしないけどね」


 このくらいの年頃の子どもが漏らしてしまうのはよくあることだ。パジャマから着替えて薬草畑に行くと、ファンヌもヨアキムくんも来ていた。今年の収穫に向けて畑は耕してあって、柔らかな土に種を植える時期に来ていた。


「アデラちゃん、種を蒔いたら土をかぶせるから、その上にお水をかけてくれますか?」

「あい、おみじゅ、かけゆ」

「確りお願いね」


 ヨアキムくんとファンヌと協力してアデラちゃんは植えた種に水をかけていた。私とお兄ちゃんは畝を整えていく。全ての畝に種を蒔いたところで今日の仕事は終わりになり、シャワーを浴びに急いで行った。

 お昼には私のお誕生日のパーティーがあるので、朝ご飯は軽めにしておく。新しい薄紫のドレスを着せてもらったアデラちゃんは大喜びだった。


「アデラちゃんのお誕生日は分からないでしょう?」

「わたくしとヨアキムくんから、兄様のお誕生日にアデラちゃんにプレゼントしようと思って」


 ヨアキムくんとファンヌが持って来た箱にかかっている薄いピンクのリボンだけでアデラちゃんのお目目が煌めく。


「ラウラさんにアデラちゃんくらいの年の子どもの遊び道具を聞いてみたの」

「開けてみてください」


 ファンヌとヨアキムくんに促されてアデラちゃんは私にリボンのかかった箱を渡した。リボンを解くのが上手にできなかったようだ。リボンを解いて箱を返すと、そっと箱を開けてみる。

 中には色とりどりに彩色された木のビーズが入っていた。大きめで穴も大きいのでアデラちゃんでも紐に通せるだろう。


「きれー。ふぁーねぇね、よーにぃに、あいがちょ」


 指先で木のビーズを摘まんでうっとりと見つめるアデラちゃん。もう少し大きくなったら小さめの穴のガラスビーズも使えるようになるかもしれない。

 もらったプレゼントは大事にラウラさんに片付けてもらって、アデラちゃんは私とお兄ちゃんと誕生日パーティーに出席した。ファンヌとヨアキムくんも一緒だ。

 オースルンド領からはカミラ先生とビョルンさんがダニエルくんを抱っこして、エディトちゃんとコンラードくんと一緒に来ている。


「ダニーちゃん、最初はお肌もカサカサで、オムツかぶれも酷かったの。父上が毎日こまめにお薬を塗って、今ではお尻もつるつるなのよ」

「ちょっとしかはえてなかったかみのけも、いっぱいはえてきたの」

「お目目も何色か分かるようになったわ」


 エディトちゃんとコンラードくんに紹介されてダニエルくんを見てみるとキャラメル色の髪の毛とお目目で、身体自体は小さいけれど顔立ちも分かるようになってきていた。


「やっと外に連れ出しても平気になったのですよ」

「とても可愛いでしょう?」


 カミラ先生もビョルンさんもにこにことして嬉しそうだ。

 アデラちゃんが見えないので抱っこして見せると、目を細めている。


「あかたん、かーいーね」

「本当にとても可愛いです」

「ダニエルくんのお母さんのことは分かっているのですか?」


 お兄ちゃんの問いかけにビョルンさんが頷く。


「ノルドヴァル領の領主の遠縁の娘さんだったようです。結婚して赤ん坊ができたけれども、体が病魔に侵されていることが分かって、赤ん坊を諦めて治療に専念しろと言われて赤ん坊が諦めきれずにルンダール領に逃げ出したとか」

「赤ん坊を諦めても病魔が治るかどうかは分からなかったからどうしても赤ん坊を生みたかったようです」


 ノルドヴァル領の両親と夫は後悔しているが、大反対の末に一人で命を懸けて産んだダニエルくんをお母さんがオースルンド領の領主の家族に託すと決めたことに納得してくれているという。


「会いには来させて欲しいと言われていますが、ダニエルはもううちの子どもだということには納得してもらっています」

「ダニエルくん、お祖父ちゃんとお祖母ちゃんとお父さんが増えるのですか」

「ダニーたんも、ぱぁぱ、ふたり?」


 手を伸ばしてぽやぽやの髪の毛を撫でていたアデラちゃんが私とお兄ちゃんに問いかける。アデラちゃんにとっては父親が二人なのが普通の出来事だから、あまり気にしてはいなかった。


「ダニエルくんはちょっと複雑なんだけど、お父さんが二人というのはアデラちゃんと同じだね」

「あーといっと。ダニーたん、いっと」


 アデラちゃんはダニエルくんに親近感を持ったようだった。


「今年度からは僕とイデオンだけでルンダール領を治めることになります」

「何かあればカミラ先生とビョルンさんに来ていただく予定です。まだ未熟な二人ですがよろしくお願いします」


 挨拶をするともうお兄ちゃんと結婚したような錯覚に襲われる。そうであればいいのにと思う気持ちと、まだ早いと思う気持ちが葛藤する中パーティーは終わった。

 立食パーティーではあまり食べられなかった分、パーティーの後でお茶会を開いて、身内だけで寛ぐ。

 カミラ先生とビョルンさんはダニエルくんがいるのでエディトちゃんとコンラードくんを連れてオースルンド領に帰ってしまった。寂しいかと思ったけれど、私たちの一行にはデシレア叔母上とエメリちゃんとクラース叔父上が参加してくれた。

 夏には2歳になるエメリちゃんは、素手で料理を掴んでもしゅもしゅとお口に運んでいる。ドレスが汚れないようにスタイを付けていたが、お膝にもぼろぼろと落としているので帰ったらお着換えとお洗濯だろう。


「きれーなドレス……」

「アデラちゃんもあれくらい気にせずに食べていいんだよ?」

「あーも?」


 大事なドレスが汚れないように大きなタオルを首に巻いて、膝の上にもタオルを乗せているアデラちゃん。お洒落なアデラちゃんはあそこまで思い切れないようだった。

 ミルクティーを飲むときでも零さないように気を付けているので、そこまで酷く零れることはないのだが、まだアデラちゃんにはタオルが必要だった。


「イデオンくんにお誕生日になにをプレゼントすればいいのか分からなかったので、今回はこれにしました」


 デシレア叔母上が出してくれたのは万年筆だった。

 星空のように煌めく艶のあるダークブルーの万年筆は、私の分と数日後にお誕生日のファンヌの分がある。


「デシレア叔母上、ありがとうございます」

「執務にも使ってくださいませ。ファンヌちゃんはお勉強にも使ってくださいね」


 蓋を回して開けて試し書きするときらりと光るメタリックなダークブルーのインクが出る。


「魔術で痕跡が残るようにしてありますので、これを使って書いた場合はイデオンくん、ファンヌちゃんのサインとはっきり分かるようになっています」

「重要書類に使わないと」

「普段からそれを使っていれば、偽の書類が出たときに対処しやすいでしょう?」


 デシレア叔母上はそこまで考えて私とファンヌに万年筆を贈ってくれていた。私以外の相手がサインした書類を偽装して持って来られても、私が常にこの万年筆だけ使っておけば、それが偽装だと見抜けるわけだ。

 両親からは放置されて、姉のドロテーアばかりを優遇されてきたデシレア叔母上だが、こんなにも有能なひとであることが分かって私は誇らしかった。


「これは、エメリとお揃いなんですが」


 クラース叔父上がアデラちゃんに可愛いウサギさんの髪飾りを渡してくれる。灰色のウサギさんの飾りを見てアデラちゃんがお目目を輝かせた。


「リンゴたん! いでおぱぁぱ、おりぱぁぱ、リンゴたんのかみかじゃり、もらた!」

「リンゴちゃんに似てるね。クラース叔父上ありがとうございます」

「ファンヌちゃんがアデラちゃんはお誕生日が分からないと言っていたので」


 そうなのだ、アデラちゃんはどこで生まれたかまだ分かっていないのでお誕生日が分からない。正確な年も分からないので、近いうちにアデラちゃんの出生も調べなければいけないと思っている。

 16歳の一年間もまた忙しくなりそうだった。


これで十二章は終わりです。

イデオンの成長と恋の進展いかがでしたでしょう。


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