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お兄ちゃんを取り戻せ!  作者: 秋月真鳥
十二章 魔術学校で勉強します! (四年生編)
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30.告白から一年

 最上級生の卒業の季節になるとプロムの話題が出てくる。

 私たちは四年生なのでジュニアプロムもまだだが、誘われて了承すればプロムにもジュニアプロムにも出られる。プロムとはパートナーを誘って参加するパーティーのようなもので、踊ったり、お喋りを楽しんだりしてその学年の名残を惜しむ会だ。

 ジュニアプロムが五年生の春休み、プロムが六年生の卒業式の後に開かれるので、来年の話だが四年生の中でも上級生に誘われた生徒がいるようで噂になっていた。

 フレヤちゃんが別の授業でいないときに私はダンくんに相談された。


「フレヤちゃんをジュニアプロムにもプロムにも誘うって約束したんだけど、衣装を俺が用意するって言ったら、フレヤちゃんはどう思うかな?」


 ダンくんは以前は貧しい平民だったけれど、今は貴族のベルマン家の跡継ぎでプロムに参加するとなれば衣装が用意される身分である。対するフレヤちゃんは魔術学校卒業後はカリータさんのシベリウス家の後継者になることが決まっているが、貧しくはない平民の家の子どもである。

 貴族の多い魔術学校の中で普段は制服だから差を感じさせないが、ドレスを準備できるかといえばフレヤちゃんには金銭的に厳しいところがあるのではないのかとダンくんは心配しているのだ。

 例えドレスが準備できなくてもフレヤちゃんは堂々としていそうだが、せっかくのパーティーなのだから気兼ねなく楽しんで欲しいダンくんの思いは理解できる。


「フレヤちゃんはダンくんに準備されるのは嫌がりそうだよね」

「そうなんだよなぁ。一年後の話だけど、今から考えておかなきゃと思って」


 細やかにフレヤちゃんの衣装まで気にするダンくんは本当にフレヤちゃんのことが大好きで大事に思っているのが伝わってくる。


「お兄ちゃんに相談してみる」

「オリヴェル様なら、何かいい考えが浮かびそうだな」


 頼むよと言われて私は了承した。

 お屋敷に帰るとアデラちゃんが玄関まで走って飛び付いてくる。


「おかえりなたい、いでおぱぁぱ」

「ただいま、アデラちゃん」

「ちす、しないの?」


 キス!?

 お兄ちゃんが私に頬にキスで「行ってらっしゃい」と「お帰りなさい」をしてくれるし、ファンヌとヨアキムくんも頬にキスをしているのでアデラちゃんもそれをおぼえてしまったようだった。


「キスは大事なことだから、大きくなってから好きなひととするんだよ」

「いでおぱぁぱ、おでこにちてくれゆ」

「それは、お休みなさいのキスでしょう?」

「あーのほっぺ、ちす、め?」


 可愛く強請られてもアデラちゃんのためにもこういうことはきっちりしなければいけない。

 2歳のヨアキムくんの頬に3歳のファンヌがキスをしたときに、カミラ先生が慌てて止めていた。あのときのカミラ先生の気持ちが今になって分かるなんて思いもしなかった。

 着替えてお兄ちゃんの執務室に行くと抱き締められて頬にキスをされる。


「お兄ちゃん、キスなんだけど……アデラちゃんがしたがるから……」

「僕はやめないよ。イデオンとやっと両想いになれたんだから」


 こういうところは絶対に譲らないお兄ちゃんの頑固さを私はお付き合いするまで知らなかった気がする。キスをされた頬が熱い。アデラちゃんには私とお兄ちゃんがするキスと、ファンヌとヨアキムくんがするキスは特別なもので、子どもが軽々しくしてはいけないのだと教えなければと、カミラ先生の気持ちになってしまった。

 お兄ちゃんの隣りの椅子に座ると、アデラちゃんが蕪マンドラゴラを抱いてお膝に座って来る。私も小さい頃お兄ちゃんのお膝にいっぱい座らせてもらったから、アデラちゃんを拒むことはできないし、アデラちゃんはやっぱり私に似ているのではないかと考えてしまう。


「ダンくんがフレヤちゃんのプロムの衣装をどうしようって相談してくれたんだけど、お兄ちゃん、カリータさんからフレヤちゃんにドレスが行くように上手く手を回してくれない?」


 フレヤちゃんは昔から私が貴族であってもその財力に頼るようなことはしなかった。プレゼントしたものは受け取ってくれたけれど、私も大きな金額のものを渡そうとは思わなかった。

 友達でいるためには金銭が絡んではいけないと教えてくれたのもお兄ちゃんだった。


「そうだね、カリータさんからのプレゼントなら受け取るだろうね。来年だっけ? カリータさんにお願いしておくよ」

「ありがとう、お兄ちゃん」


 それから、と私は付け加える。


「来年の春休みのジュニアプロムにはお兄ちゃんを誘うから、衣装を用意してね」


 プロムのパートナーは学外のひとでもいいことになっている。お兄ちゃんを誘うことは私はお付き合いしたときから決めていた。


「嬉しいな。かっこよく決めないと」

「私もかっこよく決めるよ」


 婚約が公表されているお兄ちゃんと私だ。ジュニアプロムに二人で出ても何もおかしいことはない。

 男同士だからとか法案が改正される前ならば言われたかもしれないが、貴族の同性同士の結婚の法案も可決されて、今では同性の結婚も何組も行われている。

 私たちは自分たちで法律を変えて未来を掴み取った。


「ぷよむ、なぁに?」

「ダンスをしたり、お喋りをしたりして、魔術学校で楽しむパーティーだよ」

「いでおぱぁぱと、おりぱぁぱ、いくの?」

「そうだよ。まだ来年度のことだけど」

「あーもいけゆ?」


 お膝の上で聞いていたアデラちゃんに見上げられて私は答えに詰まってしまった。子ども連れでプロムに出席するなどありなのだろうか。プロムは夜に行われるし、アデラちゃんには時間が遅いかもしれない。


「アデラちゃんはお留守番かな」


 伝えるとしょんぼりと俯くアデラちゃん。

 来年度にはアデラちゃんも4歳になっているから、お留守番ができるようになっているかもしれない。


「そういえば、アデラちゃんのお誕生日はいつなんだろうね」


 初めて会ったときに成長不良でとても3歳とは思えない体の小ささだったけれど、ルンダール家でアデラちゃんはしっかりと食べて眠って、身体も大きくなった。


「アデラちゃんのことも調べられたらいいね」


 それは来年度の課題になりそうだとお兄ちゃんは言っていた。できればアデラちゃんのお母さんのお墓も見つけ出してお参りしたい。


「イデオン、もうすぐ誕生日だね。お誕生日はまた僕の部屋で過ごさない?」


 お兄ちゃんに誘われて私はお兄ちゃんの誕生日の失敗を繰り返さないつもりだった。


「アデラちゃんをベッドに寝かせてね」

「着替えも準備しておこうね」


 ロマンチックとは程遠いかもしれないけれど、私とお兄ちゃんのお付き合いにはもうアデラちゃんは外せない大事な娘となっているので、ラウラさんに苦労を掛けるよりも最初から数に入れておいた方が良い。


「いでおぱぁぱのおたんどうび?」

「そうだよ、その日は僕とイデオンは夜更かしをするから、アデラちゃんは僕のベッドで待っていてね」

「お隣りの部屋にいるから、寂しくなったらいつでも呼んで良いよ」

「あい」


 最初から無理をせずにこうしておけば良かったのだ。

 ロマンチックに大人っぽくお誕生日を祝いたいなんて考えずに、私たちなりの方法で良かった。

 誕生日の前日の夜には、アデラちゃんの着替えをお兄ちゃんの部屋に準備して、お兄ちゃんのベッドでアデラちゃんを寝かしつけてから、二人でお祝いをする予定だった。


「イデオン、二人きりなんだから僕のことは『オリヴェル』って呼ばないとダメだよ?」

「あ、アデラちゃんがまだ寝てないし」


 私はまだお兄ちゃんのことを呼び捨てにはできずにいる。

 一年前の今日、私はお兄ちゃんに告白をされた。

 告白の意味が分からなくて、お兄ちゃんを振ったと勘違いさせて落ち込ませてしまったけれど、その誤解も無事に解けて、私とお兄ちゃんは婚約して二人でルンダール領を治めるようになっている。

 ルンダール領にビョルンさんが来なくなるのは不安でもあったけれど、助けが欲しいときにはいつでも呼んで良いと言われているし、カミラ先生もいつでも来てくれるという安心感があった。


「イデオン、寝ちゃった?」

「んー……」


 アデラちゃんを寝かしつけている間に私は眠ってしまったようだ。

 お兄ちゃんに声をかけられても瞼が重くて起きられない。


「イデオン、お誕生日おめでとう」


 唇に触れた柔らかさが何か認識することもできず、私は眠ったまま誕生日の朝を迎えるのだった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] フレヤちゃんとダンくんの仲、進展してるようですね~。 ダンくんがフレヤちゃんの気持ちを真剣に考えてイデオンに相談するのも親友って感じでいいですね。 イデオンがカミラ先生のポジションになっ…
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