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お兄ちゃんを取り戻せ!  作者: 秋月真鳥
十二章 魔術学校で勉強します! (四年生編)
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29.歌劇部引退の決意

 年末も差し迫ったヨアキムくんとアイノちゃんのお誕生日、ベルマン家のひとたちをルンダール家にお招きしてお昼にお誕生日パーティーを開いた。

 アイノちゃんのお誕生日のプレゼントのリクエストは私たちが魔術学校の歌劇部で歌った歌の楽譜で、ヨアキムくんからそれが手渡された。


「幼年学校のかげき部でもやってみたかったの。ありがとうございます」


 楽譜を抱き締めてアイノちゃんは大喜びしていた。ヨアキムくんにはお兄ちゃんから王都の国立歌劇団の見たことのない公演の立体映像を展開させるオルゴールの箱のような魔術装置が贈られた。それを見てヨアキムくんも喜んでいたが、コンラードくんが興奮して目を輝かせていた。


「アデラちゃんね。オリヴェル様のおたんじょう日のパーティーで会ったけど、こうやってゆっくりお話しするのは初めてね。アイノ・ベルマンです。イデオンくんの同級生のダン兄様と、ファンヌちゃんとヨアキムくんの同級生のミカル兄様の妹よ」

「どーきゅーてい? いでおぱぁぱ、どーきゅーてい、なぁに?」

「学校で同じ学年っていうことだよ」

「がっこう、なぁに?」

「アデラちゃんも6歳になったら幼年学校に行くから、そのときに分かると思うよ」


 疑問を解決してからしかアデラちゃんは納得してアイノちゃんとお話ができなかった。やっとアイノちゃんに向き直って、蕪マンドラゴラのかっちゃんを抱き締めて挨拶する。


「アデラでつ。かぶのかったん」

「かぶマンドラゴラはかっちゃんってお名前なのね。うちにはウサギのミカンちゃんとヒメリンゴちゃんがいるのよ」

「うちも、リンゴたん、いゆ」


 リンゴちゃんはすっかり大人になってしまったので自由に庭を散歩して、厩舎に戻って休む生活をしている。ミカンちゃんとも会いたいだろうが、会わせてしまうと赤ちゃんができてしまうかもしれないので、リンゴちゃんには我慢してもらっていた。

 庭でリンゴちゃんとは触れ合っているアデラちゃん。そういえばアデラちゃんはちゃんとしたウサギを見たことがないことに気付く。動物園にも近いうちに行きたいものだ。


「アイノちゃん、わたし、おとうとができたんだよ。ダニエルくんっていうの」

「養子をもらったんでしょう。聞いたわ。私も弟が欲しいってお母さんとお父さんに言ったんだけど、ダメだって言われちゃった」


 報告するコンラードくんをアイノちゃんは羨ましそうに見ている。以前にアイノちゃんがエディトちゃんにコンラードくんをくれるようにお願いしていた。あの頃からアイノちゃんは弟が欲しかったのだろう。

 養子の件に関しては部外者が口を出して良いことではないので、何も言えないが、アイノちゃんがアデラちゃんを妹のように可愛がってくれたら良いと思う。


「アデラちゃんのこと、妹だと思って可愛がってくれると嬉しいな」

「あーのおねえたん?」

「妹! 私の妹!」


 アイノちゃんに伝えるとアデラちゃんの手を取って嬉しそうにぐるぐると回っていた。アデラちゃんも新しいお姉ちゃんができて嬉しそうだ。

 ケーキを食べてお誕生会は平和に終わった。

 ダンくんとミカルくんとアイノちゃんが帰った後で、コンラードくんは早速ヨアキムくんに立体映像の展開装置を借りて見ながら踊っていた。


「新年のパーティーはそろそろエディトとコンラードもオースルンド領で出席しなければいけないのですが、オリヴェル、私たちがいなくても大丈夫ですか?」

「ブレンダ様かカスパル様に来ていただくようにお願いしましょうか?」


 カミラ先生もオースルンド領の領主になっているし、ビョルンさんも新年のパーティーには来られない。来年度からはビョルンさんも補佐としての仕事を終えてオースルンド領に戻ってしまうので、これからはお兄ちゃんと私でオースルンド領を治めて行かなければいけなくなる。

 エディトちゃんもコンラードくんも寂しいけれどパーティーに参加はできなくなるだろう。


「イデオンと力を合わせて頑張ります」


 カミラ先生を安心させるように微笑んだお兄ちゃんに、ファンヌとヨアキムくんが駆け寄って来る。


「わたくしがいますわ! オリヴェル兄様を苛める相手はわたくしの包丁が黙っておりませんの!」

「包丁は黙らせてて」

「大丈夫ですわ、みねうちします!」


 ファンヌの菜切り包丁は伝説の武器なのでみねうちでもすっぱりと相手が切れてしまう可能性がある。そんな血みどろを私の可愛い妹に経験させたくなかった。


「僕もオリヴェル兄様とイデオン兄様を助けます。もう、僕も13歳です。13歳のときにはイデオン兄様は王都の会議に出席していました」


 落ち着いて言ってくれるヨアキムくんの立派さに感動で涙が出そうになる。

 そういえば13歳のときには私は王都で結婚の法案のために奔走していた。ヨアキムくんもそんな年になったのだ。私のように苦労はしなくていいけれど、ヨアキムくんが落ち着いてファンヌの暴走を止めてくれればそれよりありがたいことはない。

 新年のパーティーはお兄ちゃんと私とファンヌとヨアキムくんとアデラちゃんだけで開催することになった。

 私たちだけで大丈夫か心配はしていたが、それは杞憂だったとすぐに分かる。

 新年のパーティーではエメリちゃんを抱っこしたデシレア叔母上がすぐそばにいてくれて、ベルマン家のひとたちも周囲にいてくれて、サンドバリ家のひとたちやニリアン家のひとたち、シベリウス家のカリータさんもいてくれて、心強かった。

 アデラちゃんもみんなに可愛いと言われてにこにこしていた。


「あー、ぱーちー、すち」

「楽しいなら良かった」


 カミラ先生の時代から積み重ねてきた貴族の輪が、今発揮されている。

 たくさんの揉め事はあったが、それら全てがここに繋がっているのだと実感できた。

 新年のパーティーが終わると、足早に冬休みが終わって魔術学校がまた始まる。冬休みでずっと一緒にいられたのがまた私が出かけてしまうと知って、アデラちゃんは涙目だった。

 私も3歳のときにお兄ちゃんの夏休みが終わるのが悲しくて泣いてしまったことがある。アデラちゃんは私の小さい頃を思い出させる。

 血は繋がっていないけれど、私とアデラちゃんはよく似ているのではないかと思わずにはいられない。

 前髪を持ち上げて額にキスをして歌を歌うと、アデラちゃんは泣きながら蕪マンドラゴラを抱いて眠ってしまった。明日の朝登校するときにはまた泣かれるのだろう。

 泣き虫で、臆病で、小さな可愛い女の子。

 翌朝、薬草畑の世話を終えて制服に着替えてお兄ちゃんに「行ってきます」を言うと、抱き締められて頬にキスをされた。気恥ずかしくも嬉しく思っていると、ファンヌもヨアキムくんの頬にキスをしている。

 可愛い妹と弟のような存在がキスをし合っているのを見るのはちょっと恥ずかしい。

 目を反らしたところで、アデラちゃんと目が合ってしまった。泣くのを堪えていたアデラちゃんは私と目が合った瞬間、ぶわっと泣き顔になる。涙がぼろぼろと零れて、洟が垂れる。


「アデラちゃん、僕は執務室にいるからね」

「い、いでお、ぱぁぱ……」

「イデオンに行ってらっしゃいしようね。必ず帰って来るから」

「ぱぁぱ……いっでらっじゃい」


 ずびずびと洟を垂らすアデラちゃんの顔をお兄ちゃんが拭いてくれていた。

 冬休み前の試験で進級することは決まっているので、選択科目の勉強だけで私もファンヌもヨアキムくんも早く帰れるのだが、歌劇部の練習が待っていた。

 私は五年生になるし、進路も考えないといけない時期なので歌劇部は基盤ができたので引退してもいいと考えていたが、そうなるとファンヌとヨアキムくんをルンダール家まで送り届ける人員がいない。


「兄様はアデラちゃんが心配だし、オリヴェル兄様の補佐をしなければいけないんでしょう?」

「僕たちは帰りは馬車で帰ります」


 馬車の手配をすればファンヌとヨアキムくんは歌劇部が終わってから馬車で帰って来ると申し出てくれた。

 アデラちゃんが心配なのも、お兄ちゃんの補佐をしたいのも図星だったので私は有難くその申し出を受けることにする。

 三学期から私は朝はファンヌとヨアキムくんを移転の魔術で送って行って、帰りは一人で早く帰って、ファンヌとヨアキムくんは馬車で帰るようになった。


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