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お兄ちゃんを取り戻せ!  作者: 秋月真鳥
十二章 魔術学校で勉強します! (四年生編)
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27.ロマンチックな誕生日に

 お兄ちゃんの誕生日のために私は入念に計画を練っていた。

 恋人同士になったのだからロマンチックな誕生日をお兄ちゃんにプレゼントしたい。どういう風にすればロマンチックになるのか分からないので、デシレア叔母上にこっそりと相談した。


「お兄ちゃんのお誕生日を大人っぽくロマンチックにお祝いしたいんです。プレゼントはお兄ちゃんは欲しいものがないから、歌を贈っているんですが、他にいい方法がありますか?」


 私の問いかけにデシレア叔母上はしばらく考えてから、薄紫色の背の低いキャンドルを私に届けてくれた。


「これはアロマキャンドルと言って、火を点すと良い香りがする蝋燭です」


 言われてアロマキャンドルの匂いを嗅いでみると少し甘いような落ち着く香りがする。


「良い香り……」

「私が選んだものよりもイデオンくんが選んだほうが良さそうですからね」


 何種類もアロマキャンドルを魔術で中が拡張されたバッグから取り出して嗅がせてくれるデシレア叔母上。幾つか匂いを嗅いで、私はラベンダーとオレンジの香りのするアロマキャンドルを選んだ。


「このキャンドルホルダーは灯りを点すと、ステンドグラスのように模様が浮かび上がります」

「とても綺麗です」

「どちらもオリヴェル様のお誕生日お祝いに差し上げますわ」

「いいんですか!? デシレア叔母上、ありがとうございます」

「オリヴェル様と幸せな時間が過ごせますように」


 ボールク家の領地では生花を栽培しているだけでなく、アロマキャンドルを作るための精油も花から作っているのだと説明してもらった。アロマキャンドルは良い香りで気に入ったら定期的に購入するようにお兄ちゃんと話し合ってみよう。


「アロマキャンドルも売り出して行かないといけませんね」

「イデオンくんったら、こんなときまで商売のことを考えて。今はオリヴェル様のお誕生日に集中して良いのですよ」


 笑われてしまったが、私はデシレア叔母上にお礼をしなければと思っていた。

 アロマキャンドルの他に恋人同士の誕生日を盛り上げるもの。

 考えていると、デシレア叔母上も一緒に考えてくれた。


「お部屋にお花を飾るのはどうでしょう?」

「良いですね」

「イデオンくんはお酒は飲めないかもしれないけれど、ワインの中には長期間熟成させたものがあって、オリヴェル様やイデオンくんの生まれ年に作られたものもまだ残っているかもしれませんよ」


 ワイン!

 いかにも大人の誕生日っぽい。

 私はまだ未成年なので飲めないが、お兄ちゃんか私の生まれ年のワインを仕入れておいて、私が成人した暁に飲むという約束をするのも悪くないかもしれない。

 ワインについては私はイーリスさんに相談した。

 イーリスさんはすぐにスヴァルド領のワイン蔵に手配をかけて、私の生まれ年のワインを手に入れてくれた。


「保存状態は良いはずだけれど、酢になっている場合もあるので、そのときはごめんなさいね」

「いいえ、まだ飲めるようになるまで三年ありますし」

「低温で横に寝かせて保存してくださいませ」


 教えられてワインを保存する場所をスヴェンさんと相談しなければと思いつつ、支払いをしようとするとイーリスさんに止められた。


「イデオン様とオリヴェル様はわたくしとブレンダ様の結婚のために尽力してくださいました。お二人のお祝いをできるのでしたら、わたくしからもワインを贈らせてください」


 ありがたい言葉に鼻の奥がつんと痛んで涙が出そうになる。


「ありがとうございます、イーリスさん」


 国内で初めて貴族として同性同士の結婚式を挙げたイーリスさんとブレンダさん。二人のようになりたいと私も思わずにはいられなかった。

 歌の練習もエリアス先生とみっちりして、冬休み前の試験も問題なく合格して、私はお兄ちゃんの誕生日に備えた。

 当日は朝からパーティーの準備で忙しいので、前日の夜にお兄ちゃんとお祝いをする。


「アデラちゃん、今日はラウラさんと寝てね」

「……いでおぱぁぱは?」

「アデラちゃんが寝た後に戻って来るから」


 日付が変わるまでお兄ちゃんと過ごして、それからアデラちゃんを寝かせるのはアデラちゃんは眠くて無理だろうと分かっていたからラウラさんにお願いした。


「楽しい時間を過ごされてください」

「アデラちゃんのこと、よろしくお願いします」


 日中はラウラさんと仲良く遊んでいるし、お昼寝のときもラウラさんに寝かせてもらっているので大丈夫だと思ったのだ。

 アロマキャンドルとキャンドルホルダーをボディバッグに入れて、花束とワインを持ってお兄ちゃんの部屋に行く。部屋で待っていて欲しいと告げていたお兄ちゃんは夕食後にシャワーを浴びて待っていてくれた。


「お兄ちゃん、ちょっと待ってね」


 花束を飾ろうとしたら花瓶がない。使用人さんも休む時間に花瓶を探させるのは申し訳ないので、急いで子ども部屋に行って花瓶を取って来た。


「いでおぱぁぱ?」

「アデラちゃん、寝ててね!」


 子ども部屋に私が来た気配でアデラちゃんは起きてしまったようだった。ラウラさんに内心謝りつつ、もう一度仕切り直す。

 お兄ちゃんの部屋の机の上に大輪の白い薔薇の花束を飾った。


「お誕生日プレゼントかな?」

「うん、これも。まだ私は飲めないけど、私の生まれた年に作られたワインみたいなんだ。私が成人したら一緒に飲もう」

「ワインまで? 嬉しいな」


 喜んでくれているお兄ちゃんと良い雰囲気になっている気がする。私は机の上にキャンドルホルダーを置いてアロマキャンドルを点けた。ラベンダーとオレンジの良い香りが漂ってきて、キャンドルホルダーがステンドグラスのように色とりどりに輝く。


「綺麗だね、イデオン」

「お兄ちゃん、私、日付が変わったら、お兄ちゃんに歌をプレゼントするね」


 日付が変わるまでにまだもう少し時間がある。椅子に座ってお兄ちゃんとアロマキャンドルを見ていると、とろんと良い香りにリラックスして眠気が襲ってくる。お兄ちゃんの誕生日なのだから寝てはいけないと思うのに、私はうとうとと眠り始めてしまった。

 毎朝早く起きて薬草畑の世話をしている私は早く眠くなってしまう。特にアデラちゃんが来てからはアデラちゃんを寝かせるときに一緒に寝落ちることが多くて、早寝になっていた。

 どうにか起きておこうとするのだが、頭がかくんっと垂れて眠いのが我慢できない。


「イデオン、無理しなくていいんだよ?」

「お兄ちゃんとの、ロマンチックな、お誕生日……」


 ダメだ、これでは台無しだ。

 ぺちぺちとほっぺたを叩いて目を覚まそうとしていると、お兄ちゃんの顔が間近に来た。キスをされるのかとぎゅっと目を瞑ると、お兄ちゃんが耳元に囁く。


「お誕生日お祝いに、歌も嬉しいけど、僕、欲しいものがあるんだけど」


 え!?

 お兄ちゃんは毎年歌を欲しがっていたからそれしか準備していないけれど、他の欲しいものがあった!?

 お兄ちゃんの急な要望に私は目を見開いた。


「オリヴェルって、二人きりのときは名前で呼んでくれないかな?」


 お兄ちゃんをオリヴェルと名前で呼ぶ。

 考えただけで頭が煮えそうだった。

 胸がどきどきと脈打って眠気なんかすっ飛んで行った。


「お、おり、お、お、お兄ちゃん」

「オリヴェル、だよ?」

「おり、お、おり、おり、おりヴぇ……お兄ちゃん!」

「イデオン?」


 恥ずかしくて言えない。

 私にとってお兄ちゃんはずっとお兄ちゃんだったから、お兄ちゃんとしか呼べなくなっている。


「結婚してからも『お兄ちゃん』だったらおかしいでしょう?」

「そ、そうなんだけど」

「『オリヴェル』って呼んでよ」

「お、お、お……お兄ちゃん」


 どうしてもお兄ちゃんのことをオリヴェルと呼ぶことができない。

 慌てた私は椅子から転がり落ちそうになっていた。顔は真っ赤で胸はドキドキして息も荒い。


「イデオン?」

「お、お、オリヴェル様!」

「うーん、様はいらないかな」


 やっと呼べたのにお兄ちゃんは更にハードルを上げて来る。

 半泣きになったところで日付が変わる柱時計の針を確認して、私は椅子から立ち上がった。


「名前は練習しとく。お兄ちゃん、お誕生日おめでとう」


 ラウラさんに意味を教えてもらって、エリアス先生と練習した歌を歌いだすとお兄ちゃんは椅子に座ったまま静かに聞いてくれる。歌い終えて息を整えていると、お兄ちゃんに抱き締められた。

 お兄ちゃんの顔が近付いてきて、今度こそキスをされるのだとぎゅっと目を瞑った。


「いでおぱぁぱぁー! おりぱぁぱぁー! おちっこ、もれたー!」


 泣きながらアデラちゃんが部屋に走り込んできて、私とお兄ちゃんは弾かれたように体を離した。

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[良い点] オリヴェルの誕生日のお祝いのために張り切るイデオン。 幼児の頃の歌のプレゼントから始まって、5歳にしてプレゼントを買いたい・喜んでもらいたいと、いつも一生懸命でしたね。可愛い! そして、…
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