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お兄ちゃんを取り戻せ!  作者: 秋月真鳥
十二章 魔術学校で勉強します! (四年生編)
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25.15歳のお父さん

 アデラちゃんがどこから売られてきたのかを全力で調べてはいたが、個人的な窃盗団ということで記録も何も残っておらず、窃盗団の男性たちも何人も子どもを買っているのでアデラちゃんのことはよく覚えていない状態だった。

 お母さんが死んだというのならばお墓くらいあるだろう。毎年秋にお墓参りに行っている私たちはアデラちゃんのお母さんのお墓にも参れるものならば参りたかった。

 真っすぐなさらさらの黒髪に黒い目のアデラちゃん。髪の色と真っすぐな髪質がお兄ちゃんに似ているので、本人は自分はお兄ちゃんと私の子どもだと思い込んでいるようだった。


「あー、おりぱぁぱににたの」


 血が繋がっていないことを丁寧に教えるよりも、今はアデラちゃんには心のよりどころが必要だろうから私もお兄ちゃんもそれを否定しなかった。


「アデラちゃん、お母さんのこと覚えてる?」

「ママ……やたちかった」

「どんなひとだった?」

「ママらった!」


 小さい頃にお母さんと死に別れて売られてしまったアデラちゃんは、ママという概念として母親を知っているが、詳しくは覚えていない様子だった。


「いでおぱぁぱ、おうたうたってくれゆ」


 歌いだしたアデラちゃんは3歳にしては上手で、歌いながら踊っているとコンラードくんとエディトちゃんが混ざって踊り出す。死んでしまったお母さんのことは申し訳ないがこれ以上情報が集めようがなかった。

 代わりに私たちがアデラちゃんを全力で可愛がることで穴埋めをしようと決めたのだった。

 ヨアキムくんとエディトちゃんとコンラードくんの弟になったダニエルくんは、しばらくはお屋敷から出て来られないようだったが、順調に体重は増えているという。亡くなったお母さんの分まで健やかに成長して生きて欲しいと願わずにいられない。

 魔術学校に行ってダンくんとフレヤちゃんとそういう話をしていると、二人に奇妙な目で見られていることに気付く。


「イデオンくん、すっかりお父さんなのね」

「前々から弟妹の面倒見が良いと思っていたけど、この年で父親になるなんてなぁ」

「しかも3歳の女の子の」


 しみじみと言われているが、元々エディトちゃんもコンラードくんも私は生まれたときから知っている。ファンヌのことも幼くて生まれたときのことは覚えていないけれど、赤ちゃんの頃から知っている。ヨアキムくんも2歳のときから知っている。ルンダール家は小さい子がいることが普通の家だったのだ。


「お兄ちゃんが私に丁寧に優しく接してくれたから、私もお兄ちゃんみたいにファンヌやヨアキムくんやエディトちゃんやコンラードくんに接していたし、それが今度は親子という形になっただけで、なにも変わらないよ」


 私にもお兄ちゃんにも両親というものがいない。私の両親はいても育児を放棄して子どものためになにかしてくれるような親ではなかった。

 お兄ちゃんとリーサさんが面倒を見てくれなければ私もファンヌも育つことはできなかっただろう。

 その後、カミラ先生が来てビョルンさんと結婚して、長い間ルンダール家で一緒に暮らしてくれたが、カミラ先生とビョルンさんは私たちの親としては振舞わなかった。あくまでも対等な人間同士として小さな私たちと向き合ってくれたカミラ先生とビョルンさん。

 二人の子どもたちのエディトちゃんとコンラードくんは両親に甘えていたが、私たちにも兄姉のように甘えてくれた。オムツの替え方も覚えたし、赤ちゃんとの関わり方も覚えたし、コンラードくんは赤ん坊が生まれる様子を私たちに見せてくれた子どもでもある。

 特別な感情を持つ可愛い弟妹のような存在と、アデラちゃんとの関わりが何が違うのかと言えば、大きな違いはなかったのだ。


「イデオンにもオリヴェル様にもご両親がいないもんな……」

「カミラ先生とビョルンさんがいてくれたし、私にはお兄ちゃんがいてくれたから」

「その大好きなお兄ちゃんと婚約できてるんでしょう。それに養子までもうもらっちゃって……大変ねって言うより、おめでとうが相応しいのかな?」


 フレヤちゃんの的を得た言葉に私は大きく頷いた。


「うん、おめでとうが嬉しいな」

「おめでとう、イデオンくん」

「良かったな。アデラちゃん、アイノにも紹介してくれよ?」


 歌劇部のことがあって、アデラちゃんのことがあって、ダニエルくんのことがあって、最近はダンくんの家にも行けていない。コンラードくんがすっかり落ち着いてしまって、ダニエルくんを心配して週末もルンダール家から出ないで、何かあったらすぐにオースルンド領に帰れるようにしているのだ。


「アイノが寂しがってるよ」

「アイノちゃんにも今度会いに行くね」

「『けっこんなんてすてき!』ってお祝いをしたがってた」


 アイノちゃんにまで祝われる私は幸せ者なのだろう。


「歌劇部の公演も物凄く素敵だったわ」

「イデオン……ドレス似合うんだな」

「ダンくん、それは、言わないで……」


 皇帝との見合いシーンで妹と偽装するためにドレスを着ていた私の姿をダンくんにもフレヤちゃんにも見られている。歌劇で舞台の上に立ったときは緊張で恥ずかしさなど感じなかったが、今になってじわじわと恥ずかしさが込み上げて来た。

 顔を真っ赤にしている私にダンくんもフレヤちゃんもそれ以上追及しなかった。

 お墓参りにはカミラ先生とビョルンさんも同行してくれることになった。その間はダニエルくんは乳母さんに預けられている。


「四六時中見ていなくても平気にはなってきたので、冬には補佐に復帰しますよ」


 それから春まではビョルンさんはお兄ちゃんの補佐を続けてくれる。ダニエルくんは低体重の未熟児で生まれて来たがミルクもよく飲んで落ち着いたようだった。


「来年はダニーちゃんも一緒に来ましょうね」

「ダニエルくん、さみしくないかな?」

「帰ったらいっぱい抱っこしてあげますよ」

「わたしもぎゅってする」


 エディトちゃんもコンラードくんもダニエルくんのことを気にしながらのお墓参りになった。ビルギットさんのお墓にはビルギットさんのご両親もお墓参りをする。

 ヨアキムくんが用意した薔薇の花束を供えて、ヨアキムくんはその日は魔術学校の制服を着ていた。


「お母さん、僕は魔術学校に入学しました。歌劇部に入って、神聖魔術も習ってます。ファンヌちゃんとも婚約しました」

「わたくし、ずっと婚約していたと思ったのに、正式じゃなかったの。怒ってしまったけれど、ヨアキムくんと婚約できてよかったと思います。ビルギットさん、ヨアキムくんはわたくしが幸せにします」

「もう十分幸せだよ?」

「もっとよ! ヨアキムくんの赤ちゃんも産まないといけないんだから!」


 それはまだまだ先のことだろうけれど、ファンヌはちゃんとヨアキムくんと家庭を持つことを考えている。


「ヨアキムくんはオースルンド領とルンダール領を繋ぐ子になります。二つの領地は将来に渡って友好的になることでしょう」


 カミラ先生がオースルンド領の領主を継いだばかりだから想像がつかないが、いつかエディトちゃんがオースルンド領の領主となる時代が来る。そのときにはファンヌとヨアキムくんの子どもがルンダール領の領主を継いでいるかもしれない。


「母上、父上、今年は重大な報告があります。僕はイデオンと婚約しました」


 アンネリ様とレイフ様のお墓の前ではお兄ちゃんが二人に報告していた。


「お兄ちゃんと婚約しました。お兄ちゃんのことが大好きです。私の両親のせいでアンネリ様は亡くなってしまったけれど、お兄ちゃんを好きな気持ちは止められません。私とお兄ちゃんの仲を許してください」


 口にするとつんと鼻の奥が痛んで涙が滲んでくる。

 両親のことを気にせずに日常を過ごしているとはいえ、私もやはり罪悪感があったようだ。私の両親のせいでアンネリ様は亡くなって、お兄ちゃんはつらい思いをした。それを横に置いて私が幸せになっていいものか。


「イデオンは僕のかけがえのない相手です。寂しかった僕を救い出してくれて、僕に暖かさをくれた子です。僕はイデオン以外を伴侶に考えられない。今、僕はとても幸せなんです」


 私の肩を抱いて宣言するお兄ちゃんに涙が零れる。カミラ先生も涙ぐんで聞いていた。


「養子に貰った娘のアデラです。母上と父上の孫です」

「あー、まご?」

「ここにはアデラちゃんのお祖父様とお祖母様が眠っているんだよ」

「あーのおじいたまとおばあたま、おーつるんどにいゆよ?」

「正確にはお二人はひいお祖父様とひいお祖母様なんだけどね」


 難しいことは分からなかったようだがアデラちゃんは不思議そうに墓石を撫でていた。


「あー、いでおぱぁぱとおりぱぁぱのころもなの! ふたりともやたちいの!」


 蕪マンドラゴラを抱き締めて墓石に話しかけるアデラちゃんにお兄ちゃんは私の肩を抱いて涙ぐんでいたようだった。


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[良い点] 「15歳のお父さん」 タイトルだけ見ると滅茶苦茶あやしい(笑) オリヴェルもイデオンも兄として時には親のようにたくさんの弟妹たちと接してきたので、年齢以上に子育て経験ありますから安心してみ…
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